超短編小説「猫角家の人々」その17

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超短編小説「猫角家の人々」その17

蜜子の耽溺するFXとは、いったい何物なのか?

FXとはフォーリン・エクスチェンジの短縮形だ。日本だけで通用する造語だ。「外国為替証拠金取引」のことを指す。為替差益を出すことを目的とする取引であり、要するにギャンブルである。FXに関わる人たちは、「ギャンブルではない」「投資だ」というが、投資もギャンブルである。しかもリスクの非常に高いギャンブル、それがFXである。

1ドル100円の時に1万ドル買う。100万円を支払う。暫くしてドル高となり、1ドル120円となる。1万ドルを円に換えると120万円になる。差し引き20万円が儲かったことになる。たかだか20万円だ。もっと利益が欲しい。10万ドル買えば、リターンも10倍になる。200万円の利益が出る。だが、ドルが下がり続けたらどうなるか?

FX取引では「証拠金」を積む。買ったドルが下がり続けると、含み損が発生してくる。このままだと証拠金全額を食い潰してしまう。FX会社は、それを防ぐため、強制的に決済をしてしまう。例えば、証拠金の30%の含み損が発生した時点で、決済が行われる。客は、証拠金の3割を失うが、少なくとも残りの7割を手元に残すことになる。この仕組みを「ロスカット」という。パイプカットではない。マスカットでもない。リストカットでもないが、ロスカットの結果、リストカットする人もいる。ロストカットで、証拠金の3割を失いたくなければ、証拠金を積み増しすることになる。だが、ロスカットは回避できたとしても、損失を拡大する結果になるかもしれない。

FXの最大の問題点は、レバレッジ取引である。少額の証拠金を担保にして、数十倍もの大きな金額での取引ができる。100万円しか現金を積んでいないのに3千万円の取引ができる。うまくあたれば、利益は大きいが、失敗すれば損失も大きい。3000万円も相場を張って、500万の損失を出すと100万円の証拠金が消えて、400万円の借金が残る。中には子供の教育資金1000万円を一瞬で溶かしてしまった母親のケースもある。破産者、自殺者続出である。結果、現在ではレバレッジは25倍が上限に定められているらしい。FX賭博に何の興味もない者には、どうでもいい話だが。

2008年のリーマンショックでは、急激な円高が進み、英ポンドなどを買っていたFX顧客の多くが大損した。2015年には、スイスフランが突如、急騰し騰落率は41%に達した。同じ2015年には中国経済の低迷で、人気のあった豪ドルが対円で30円も下落した。

こういった局面で、大損をこいたギャンブラーたちが、地獄へと落ちていったのである。蜜子もその一人だったのだ。(続く)

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