私が21歳の時に経験した話。
話もあまり纏まってないので読みずらいです。
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2〜3年前の5月。
地元の辺りで先輩たちと宿泊施設に泊まっていた時。
先輩のスマホがけたたましく鳴る。
時間は朝の7時頃。
電話の相手は先輩の昔からの知り合いらしい。
話のトーンを聞く限り、何か良くないことらしい。
先輩の奥さんと2人で首を傾げていると、電話を終えた先輩が急いで支度をして欲しいという。
詳しいことはその時に教えて貰えず、荷物をまとめて、県外へ出発すべく車に乗せて走り出した。
「なぁ、驚くなよ。Tくん、死んだらしいわ」
驚くなと言うのが無理な話だ。
つい、1年前くらいまでは元気に笑っていたじゃないか。
つい数日前に、疲れきってはいたけど生きていたでは無いか。
私の頭の中はぐるぐると考えても仕方の無いことを考えている。
(え、なんで??Tくん、なんで死んじゃったの??え?)
何故だと繰り返し頭の中をぐるぐる回る疑問。
Tくんたちの住んでいる街に着くと同時に、警察に案内される。
警察署の人達は罰が悪そうな顔をする。
私は何も考えられなかった。
目の前におじさんの刑事さんと鑑識さん。
「この度はお悔やみ申し上げます。奥さんですよね??」
そうだといいたかったが、何も言えなかった。
頷くしか無かった。
だって、あんなにキラキラ笑っていた夫は死んだんだから。
こういう時、ドラマとかでは大泣きしてるけど、ほんとに悲しいことがあると何も出てこなかった。
呆然と案内された部屋の机を見るだけだった。
刑事さんたちが気を使い、色々話をしてくれているがあまり聞ける余裕もなかった。
机の上に出される書類。
「奥さん、お辛いでしょうが聞いてください。Tくんは、心霊スポットにあたる廃墟で首を吊っていたとの事です。何か思い当たることはありますか??」
思い当たること??なにそれ。
私は当時、先輩達と県外で事業をしていたために、Tくんとの時間を取れていなかった。
そしてTくんもまた、建設現場の社長になるために色々と頑張っていた。
二人共がやりたいことのために、がむしゃらに頑張っていたのだ。
交わす言葉も少なかった。
だけど、時間が合えば、少しだけ会話をする。
普通の夫婦では無い形だったかお互い満足していた。
「…分かりません。彼はずっと仕事を真面目にやっていましたから。」
「そうですか。Tくんが今の会社に来られる前の勤め先で揉め事があったことは??」
「そんな話、Tくんから聞いてないです…。」
警察の人の話を色々と聞いては答えたが、思案していたのはTくんが見つかった場所。
夜の心霊スポットにあたる廃墟に一人でいき、地下室にあたる小さな部屋で首を吊っていた。
16日の夜の出来事なのにだ。
17日の早朝に発見されている。
しかも散歩してた人がらしい。
おかしくない??
誰でも直ぐに行けるような場所には面していない廃墟だ。
そんなとこに行くのは、確実に犯人だろ??
なんで捕まえないの??
なんで???
自殺なんかじゃないよ、他殺だよ。
心で思っていた事が、口に出ていたらしい。
刑事さんは、驚いた声で言った。
「どうして、そう思われるんですか??」
「私は、Tくんを殺したのは、Tくんを雇っていた先輩の知人だと思ってます。そもそもおかしいです。見つかるタイミングよすぎませんか??」
「それはそうなんですが、いくら調べても、自殺以外の要因が見当たらないんです。」
3時間にも及ぶ、事情聴取。
開放された時には、Tくんに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
その後、数日後に、先輩たちと先輩の知人と4人でTくんの無くなった場所に向かった。
見るからに異様な廃墟。
空気も少し違う。
地下室にあたる小さな部屋にたどりつくまでに、小さな足音が聞こえた。
感情は、悲しいという言葉で言い表せられないほどの複雑な気持ち。
涙があふれる。
後悔、怒り、悲しみ。
様々な気持ちがごちゃごちゃと入り交じる。
先輩たちの前だからと泣くのをこらえたが、問題の部屋にたどり着いた時、私は一瞬意識がなくなりかけた。
低い天井にはわされた太い配管にTくんの姿が見えた。
ゆらゆらと揺れる彼の体。
それが見えたのは少しの間だったが、彼が先輩の知人に対しての視線で何となくわかった。
何かしらその人が関わっているということ。
線香を上げながら心の中でつぶやく。
(何もしてあげられなくてごめんなさい。気づけなくてごめんなさい。私は何も出来なかった。)
それに答えるように彼は呟いた。
「ありがとう。」
よく聞かないと分からな声だった。
空耳だと言われれば終わるような小さな音。
だけど、Tくんは。答えてくれた。
そのまま、廃墟を出ていき、家に帰り布団に入って眠りに入った時。
夢の中にTくんは出てきた。
生前と変わらぬ笑顔で。
はしゃいでいた。
起きたら、いつも虚無感に駆られる。
そんな中でも仕事はこなさなきゃダメだから。
必死に仕事に打ち込んだ。
そこからしばらくだった秋頃に、警察からTくんの通帳を、渡された。
Tくんは、ほとんどのお金を先輩の知人に勝手に持っていかれていたのだと思った。
Tくんを助けられなかったことを酷く後悔している。
今も、ごく稀に夢に出てくることある。
私は、勇気が出ないから、Tくんのお墓参りには行けていない。
そして、Tくんが、私に残してくれたものは何も無いけれど、Tくんが、来世では幸せな生活を歩めることを願うことしか出来ない。
たまたま、彼の思いにリンクできただけの不思議なお話。
作者蒼龍シオン