中編3
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終電霊

ポツン、ポツンと赤と緑の光、後は暗闇………。

地下鉄のホームだった。オレは腕時計を落としたまま立ち尽くしていた。

あぁあ、

腕が、足が、首が………、千切れた。

あぁぁ、

耳が、鼻が、目玉が飛んだ。

いいぃ痛い痛い痛いぃぃいいい。

ポタ、

ポタ

ポタ。

鳴り渡る発車メロディ。

『一番線の電車は………行きです』

せわしなく乗り降りする乗客達

『ドアが閉まります、手荷物をお引きください。無理なご乗車はお止めください』

ピシっと閉まる扉。モーター音を唸らせながら走り去っていく車両。

今は乗客も駅員もいない。

オレが1人………、闇に1人………。

『アァーーァーンン』

オレが1人きりだ。

地下鉄に毒ガスが撒かれたって………?!

「はぁ、あ」

そのせいか? 電車が来ない、ずっと待っているのに。

テレホンカードを差し込んだ

部長………、すいません、電車が遅れていまして………。

すいません、

すいません。

申し訳ありません、

申し訳ありません。

いえ、ですから電車が………。

電車が電車が電車が電車が電車が電車が電車が電車が電車が………。

ビクン

胃が、痙攣した。

すいません、電車が電車が………。

ビクン、ビクン。

ビクン、ビクン。

所詮オレが悪いのさ、ブラック企業にしか入れなかったオレが悪いのさビク。

ステージ4の生存率は? 先生? 先生………。

自分の肉を噛みちぎった。何回も、何回も。ベッと吐き出した肉片が反吐のように床を汚していた。

カツッ

?!

ハイヒールがそれを踏み潰す。

ヨーコ?

ヨーコ!

幽鬼のように立つ女がいた。

シカトか?

結婚しようと言ったじゃないか。なのにお前は………。待て、何処へ行く? 待ってくれ。

カツ、コツ。カツ……、コツ………。

ヨーコ!

まって、

ヨーコ………。

許さない、オレは自分を許さない。

カサカサ、カサカサ。

何かが這いずり回っている。

カサカサ、カサカサ。

サッと足元を横切った

ネズミ………。

そいつはホームから線路へ飛び降りた。

おいおい、電車が来たら引かれちまうぞ。オレはホーム際に立って見下ろした。2本のレールが闇から来て闇へ消えていった。

「………………はあぁ」

オレはホームの1番後ろにいた。

『まもなく1番線に………行きが参ります』

何処………行きが来るって?

「………はあぁぁぁぁ」

走行音が近づいて来る

ゴオーーォォオオオーー

許さないオレは自分を許さない

「邪魔をするなぁぁぁああ」

アァアアアアーー。

トンネルの奥を見ようと身を乗り出した。

ガタ ン  ゴ ㌧

来た。

ガタタン、ゴトトン。

モーター音が唸りを上げ、2つのライトが迫る。

ゴオーと風圧で髪がなびいた。

何でだ? 何でだ? 何でオレだけ。

嫌だ、もう嫌だああーあァァァんまりだァァアア

『黄色いブロックの内側でお待ち下さい』

ゴオオオォーーオオォーーォォォォオオオオ

レールを見た、

電車を見た。

レールを見た、

電車を見た。

レール、

電車、

レール、

電車!

バアッ!ァァァー!!

目をつぶって宙へ身を投げだした。次の瞬間、我に返った。

バアァァアアアーー!!ンン

「!!!!!!」

轟音

絶叫

轢断

内蔵

真紅

キイィィィイイイイーーイイイ

キャアァァアアアーー

『急停止します、急停止します。お立ちのお客様は手すりに捕まって下さい』

イイイィーィィ………

絶命

ポタ

ポタ

ポタ

………

ここは

井戸の底………、だろうか?

緑と赤の光、後は暗闇。

カバンが無くなった。

ネズミが足元を横切った。

ゴオオオオォォォー

来た。

『まもなく1番線に………行きが参ります』

だから、何処へ行く………?

『まもなく1番線に………』

耳を傾ける。

『天の御国行きが参ります』

天の御国?! ふざけんな、そんなのは嘘っぱちだーあああぁぁああ

オレはまた飛び込んだ。

パアァアアァァアアァァアーーァアアァァアンン

終電霊

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