ポツン、ポツンと赤と緑の光、後は暗闇………。
地下鉄のホームだった。オレは腕時計を落としたまま立ち尽くしていた。
あぁあ、
腕が、足が、首が………、千切れた。
あぁぁ、
耳が、鼻が、目玉が飛んだ。
いいぃ痛い痛い痛いぃぃいいい。
ポタ、
ポタ
ポタ。
鳴り渡る発車メロディ。
『一番線の電車は………行きです』
?
せわしなく乗り降りする乗客達
『ドアが閉まります、手荷物をお引きください。無理なご乗車はお止めください』
ピシっと閉まる扉。モーター音を唸らせながら走り去っていく車両。
今は乗客も駅員もいない。
オレが1人………、闇に1人………。
『アァーーァーンン』
オレが1人きりだ。
地下鉄に毒ガスが撒かれたって………?!
「はぁ、あ」
そのせいか? 電車が来ない、ずっと待っているのに。
テレホンカードを差し込んだ
部長………、すいません、電車が遅れていまして………。
すいません、
すいません。
申し訳ありません、
申し訳ありません。
いえ、ですから電車が………。
電車が電車が電車が電車が電車が電車が電車が電車が電車が………。
ビクン
!
胃が、痙攣した。
すいません、電車が電車が………。
ビクン、ビクン。
ビクン、ビクン。
所詮オレが悪いのさ、ブラック企業にしか入れなかったオレが悪いのさビク。
ステージ4の生存率は? 先生? 先生………。
自分の肉を噛みちぎった。何回も、何回も。ベッと吐き出した肉片が反吐のように床を汚していた。
カツッ
?!
ハイヒールがそれを踏み潰す。
ヨーコ?
ヨーコ!
幽鬼のように立つ女がいた。
シカトか?
結婚しようと言ったじゃないか。なのにお前は………。待て、何処へ行く? 待ってくれ。
カツ、コツ。カツ……、コツ………。
ヨーコ!
まって、
ヨーコ………。
許さない、オレは自分を許さない。
カサカサ、カサカサ。
何かが這いずり回っている。
カサカサ、カサカサ。
サッと足元を横切った
ネズミ………。
そいつはホームから線路へ飛び降りた。
おいおい、電車が来たら引かれちまうぞ。オレはホーム際に立って見下ろした。2本のレールが闇から来て闇へ消えていった。
「………………はあぁ」
オレはホームの1番後ろにいた。
『まもなく1番線に………行きが参ります』
何処………行きが来るって?
「………はあぁぁぁぁ」
走行音が近づいて来る
ゴオーーォォオオオーー
許さないオレは自分を許さない
「邪魔をするなぁぁぁああ」
アァアアアアーー。
トンネルの奥を見ようと身を乗り出した。
ガタ ン ゴ ㌧
来た。
ガタタン、ゴトトン。
モーター音が唸りを上げ、2つのライトが迫る。
ゴオーと風圧で髪がなびいた。
何でだ? 何でだ? 何でオレだけ。
嫌だ、もう嫌だああーあァァァんまりだァァアア
『黄色いブロックの内側でお待ち下さい』
ゴオオオォーーオオォーーォォォォオオオオ
レールを見た、
電車を見た。
レールを見た、
電車を見た。
レール、
電車、
レール、
電車!
バアッ!ァァァー!!
目をつぶって宙へ身を投げだした。次の瞬間、我に返った。
あ
バアァァアアアーー!!ンン
「!!!!!!」
轟音
絶叫
轢断
内蔵
真紅
キイィィィイイイイーーイイイ
キャアァァアアアーー
『急停止します、急停止します。お立ちのお客様は手すりに捕まって下さい』
イイイィーィィ………
絶命
ポタ
ポタ
ポタ
………
ここは
井戸の底………、だろうか?
緑と赤の光、後は暗闇。
カバンが無くなった。
ネズミが足元を横切った。
ゴオオオオォォォー
来た。
『まもなく1番線に………行きが参ります』
だから、何処へ行く………?
『まもなく1番線に………』
耳を傾ける。
『天の御国行きが参ります』
天の御国?! ふざけんな、そんなのは嘘っぱちだーあああぁぁああ
オレはまた飛び込んだ。
パアァアアァァアアァァアーーァアアァァアンン
終電霊
作者小笠原玄乃
半永久的に自死を繰り返すという地縛霊。死ぬ間際が何度も訪れるとしたら恐ろしい事です。自殺は思いとどまるべきでしょう。
はじめまして、小笠原玄乃です。おがさわらくろのと読みます。投稿1作目です。怖い画像も投稿しています。そちらもぜひご覧ください。