主張先の小さな町で、昼時に小腹を空かせた私は、だらしなくシャツを圧迫している腹を擦りながら、食事処を探し歩いていた。
そこで一軒の食堂を見つける。
のれんがかけられているので営業しているらしい。
中はどうも暗いが、外はカンカン照りの真夏。
電気をつけなくてもそれなりに明るいんだろう。
ガラガラと扉を開けると、生ぬるい風が頬を伝って外界へと流れ出ていった。
「やってますか」
一声かけて店内をグルリと見渡すと、私は目を見張った。
客のような者もいるし、店主のような者もいる。
が、明らかにそれはマネキンだった。
マネキンに服を着させ、席に座らせたり厨房に立たせたりしているのだ。
店内のテレビはついていないが、テレビの方をジッと見ているマネキンもいる。
私は固まった。
体を動かせずにどうするべきかを考えた。
ふと目に入ったのは、私が立っている入口のすぐ横にある本棚。
中には新聞が入っている。
日付は昨日。
昨日の新聞が入っているということは、誰かが頻繁に出入りしているわけで。
気味の悪さに耐えられなくなった私はその場を後にした。
逃げるように来た道を戻る道中、小柄な老人と出会い、私の慌てぶりに驚いた老人は声をかけてきた。
私はさっき見たものを説明した。
すると老人は「あぁ」と心当たりがあるような反応をみせてこう言った。
「あの店はやってないよ。ただ、見に行く度にマネキンの配置とか種類が変わってるんだよ。
あんな廃墟にマネキンが置いてあるのは気味が悪いよね」
理解者に会えたことに安堵した私は、呼吸を整えて老人に感謝を伝え、その場を後にした。
ただ、私が来た道は一本道で、老人が進む先にはあの店しかない。
私は振り返った。
老人はゆっくりとした足取りで、あの店に続く道を歩いていた。
手には今日の新聞が握られている。
作者夏の旭