短編2
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お店屋さんごっこ

主張先の小さな町で、昼時に小腹を空かせた私は、だらしなくシャツを圧迫している腹を擦りながら、食事処を探し歩いていた。

そこで一軒の食堂を見つける。

のれんがかけられているので営業しているらしい。

中はどうも暗いが、外はカンカン照りの真夏。

電気をつけなくてもそれなりに明るいんだろう。

ガラガラと扉を開けると、生ぬるい風が頬を伝って外界へと流れ出ていった。

「やってますか」

一声かけて店内をグルリと見渡すと、私は目を見張った。

客のような者もいるし、店主のような者もいる。

が、明らかにそれはマネキンだった。

マネキンに服を着させ、席に座らせたり厨房に立たせたりしているのだ。

店内のテレビはついていないが、テレビの方をジッと見ているマネキンもいる。

私は固まった。

体を動かせずにどうするべきかを考えた。

ふと目に入ったのは、私が立っている入口のすぐ横にある本棚。

中には新聞が入っている。

日付は昨日。

昨日の新聞が入っているということは、誰かが頻繁に出入りしているわけで。

気味の悪さに耐えられなくなった私はその場を後にした。

逃げるように来た道を戻る道中、小柄な老人と出会い、私の慌てぶりに驚いた老人は声をかけてきた。

私はさっき見たものを説明した。

すると老人は「あぁ」と心当たりがあるような反応をみせてこう言った。

「あの店はやってないよ。ただ、見に行く度にマネキンの配置とか種類が変わってるんだよ。

あんな廃墟にマネキンが置いてあるのは気味が悪いよね」

理解者に会えたことに安堵した私は、呼吸を整えて老人に感謝を伝え、その場を後にした。

ただ、私が来た道は一本道で、老人が進む先にはあの店しかない。

私は振り返った。

老人はゆっくりとした足取りで、あの店に続く道を歩いていた。

手には今日の新聞が握られている。

Concrete
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