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中編3
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「セミ」

かぼちゃの怖い話「セミ」

「プルルルプルルル!」

スマホの電話が鳴る。彼氏からの着信だった。

私は飛びつくようにしてスマホを取り通話を繋げた。

高2になって人生で初めての彼氏で頭の中は彼のことでいっぱいなのだ。

「もしもし、ユリちゃん?今から遊びに行かない?」

時計を見れば夜10時と未成年が出歩いてはいけない時間になりかけている。

しかし、私にとってはそれよりも彼に会うことの方がずっと大事だ。

「うん、良いけど。お母さんに見つからないかな?」

「大丈夫!大丈夫!もしバレてもおれが悪いって謝りに行くからさ!」

実際、前に夜中二人だけで外出した時は私を庇って親に頭を下げてくれた。

「分かった!じゃあどこに行けば良い?」

私たちは互いの家から近い公園を待ち合わせ場所にして会うことにした。

公園に着いた時は既に彼氏の姿があり、私は急いで駆け寄る。

「よ!ユリちゃん後ろ乗って乗って!景色が綺麗なとこに連れてくからさ!」

彼は同じ高2で同じクラスだが、17の年になってバイクの免許を取った。

それでよく私を遊びに連れて行ってくれる。

「うん!ありがとう!」

彼のバイクに乗せてもらうと何とも言えない優越感がある。クラスの他の子には私のような彼氏がいないはずだから。

ブーンブーン!と強く風を切って夜道を進む。

二人だけで夜外出すると世界が自分たちだけのものになった気もする。

彼がバイクを左へ右へと傾けるたびに私はより強く彼の体を感じることができて幸せになる。

そんな幸せな時間は一瞬で過ぎるもので気がつけば辺りは真っ暗な山道になっていた。

明かりはバイクのライトのみ。

いくらか不安になってきたけど、確かに感じられる彼の背中に身を寄せて安心した。

ブーンブーンとバイクの音が鳴る。しかし時々妙な音が聞こえる。

ブーンブーン、mんmーん

よく耳を凝らすとミーンミーン!というセミの鳴き声らしい音だった。

それは次第に山中で鳴り響き出した。ミーンミンミンミーン!ミーンミンミンミーン!!

夏によく聞くあのうるさい鳴き声がまだ6月の夜に大きく聞こえる。

変だなぁおかしいなぁと不安が強くなり、彼の体にグッとしがみついた。

クシャ

変な感触が彼の背中からする。彼のシャツの隙間から1匹のセミが飛び出した。

それならさっきの変な感触は?

セミを潰したものだと理解した。さらに彼のシャツからは2匹3匹と溢れるようにセミが出てくる。

その異常を知らせようと彼の肩を叩く。

すると彼はゆっくり首を横にした。そして私の顔をいつもの優しい顔で正面から見てくれた。

不安と恐怖で震えている私を見て彼は口を近づけた。

あぁ、キスして安心させようとしてくれているんだ。彼の愛が嬉しくて私も口を差し出した。

唇と唇が重なった瞬間、私の口の中に動く何かが入り込んできた。

チクチクと舌を無数に刺す細いもの、口の中を必死に押し上げようとする平らなもの

喉の奥を突き押してくる固い何か

あまりの気持ち悪さに彼の背中を両手で強く押した。

一瞬、自分の体がフッと浮く感じがして地面に激突した。

体に激痛が走る。しばらくは痛みで動けずにいた。

それから何とか両手が動くことを知り地面を這って道の端へと向かう。

意識が保てないままボンヤリとしていると白い明かりが目の前に広がった。

あぁ、死ぬんだ。そう思いながら目を閉じた。

次に私が気がついたのは病院のベッドの上だった。

両親が心配そうに私の方を見ている。

何があったのかを尋ねると彼のバイクはガードレールを突き破り、彼ごと転落したそう。

私は運良くガードレールに引っかかり道の端で意識を失っていた。

そこへ通りかかった車の運転手が救急車や警察を呼んでくれたということだ。

「セミ!セミの仕業よ!!」

私は必死にそう言ったが両親は事故で不安定なんだろうと信じてくれなかった。

「ユリ、まだ6月よ?セミなんているわけないでしょ」

そう優しく宥められるだけだった。

いや本当はセミなんていなかったのかもしれない。単なるバイク事故だったのかも

そう思うことにした。

「ゆっくりお休みしなさいね」

母がそう言って病室を後にするとミーンミンミンミンミンミーン!!と何処からともなくセミの鳴き声が聞こえるのだった、、、

Concrete
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