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長編10
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山あいのラブホでの一夜

「ねぇ、もう帰ろうよ」

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助手席のN美が少し疲れた感じで、Sに声をかける。

彼はそんなN美の訴えに答えることもなくハンドルを強く握りしめると、さらにアクセルを踏み込んだ。

日はとっくに落ちていて、車の外は漆黒の闇が支配していた。

※※※※※※※※※※

それは夏のとある土曜日のこと。

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29歳のSと5歳下のN美は午後からSのアパートで遊んでいたが、暇を持てあましドライブデートに出掛ける。

隣町の中心部にあるショッピングモールに車を停めた後、しばらく2人でショッピングを楽しみ、モール内のレストラン街で晩御飯を食べた。

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それから再び車に乗り、走り出す。

その時はもう太陽は西の彼方に沈もうとしていて、辺りはだいぶん薄暗くなっていた。

SはN美とさらに濃密なひとときを楽しもうと郊外のインター近辺に建ち並ぶラブホの1軒に車を入れるが、あいにくと満室だった。ならばと周辺の数軒に入るが、やはり全て満室だった。

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しょうがないからSはまた県道を北へと走りだす。

そして途中に見つけた道沿いの一軒に入るが、これまた満室。

このくらいからSの顔には焦りの、N美の顔には困惑の表情が現れ出した。

どんどん北へと走り続けるSの横顔を見ながら、とうとうN美は口を開く。

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「ねぇ、もう帰ろうよ。私ちょっと疲れたよ」

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彼はN美の訴えには全く耳を貸すことなく、ひたすら正面に伸びる道を睨んでいた。

その顔には悲壮感さえ漂いだしている。

残念ながらオスの悲しい本性がむくむくともたげてきているようだった。

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やがて車はゆるやかな傾斜の坂道を走り出す。

県境の山あいに入ったようだ。

右手にはガードレール、左手には山林の迫る片側一車線の道を、Sの車は走り続けている。

既に辺りは闇に包まれていた。

この頃にはN美は腕組みして不貞腐れたような顔でウィンドウからボンヤリ外を眺めていた。

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何個めのカーブを曲がった時だろうか、突然N美が

「ねぇ、あそこ、何か光ってるよ!」

と言ってフロントガラスの左前方を指差す。

Sもそっちに視線をやった。

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そこは暗闇の中、鬱蒼と拡がる山林。

その手前辺りの道に沿って怪しく灯るアーチ型の電飾看板。

Sは速度を落とし車を左に寄せると、ゆっくり走り出した。

看板には「LOVE SPOT こもれび」という文字がピンクの光を発している。

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「こんなとこにも、あるんだ」

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感心し呟きながらSはゆっくりハンドルを左に切り、アーチ型の看板の真下を潜り進む。

そしてしばらく両側に木々の迫る狭い山道を走ると、やがて道が開け草地が広がった。

そこで彼は車を停め、ヘッドライトで前方を照らす。

手前に「LOVE SPOT こもれび」と書かれた木製の立て看板があり、その後方にロッジ風の平屋の建物が数軒疎らにあるのが見えた。

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「ここ、やってるのかな?」

ハンドルに顎をのせたまま、ぼそりとSが呟く。

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「ここ何だか気味悪いよ。もう帰ろうよ」

N美が不安げな顔でSの顔を見る。

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彼女の言葉が聞こえているのかいないのか、彼は無言のまま再び車を動かしだす。

悲しいオスの本性だけがSを突き動かしているようだ。

点々と建ち並ぶピンクの屋根に白い外壁の建物の間をぬって、ゆっくりと進んでいく。

パキパキというタイヤが枯れ木を踏む音だけが、やけに車内に響いていた。

そしてふと前方に視線をやったSが思わず「あっ」と声をあげた。

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そこは凡そ50メートルほど前方辺り。

暗闇の中、「空室」の二文字がボンヤリ青白く光っている。

彼は慎重にハンドルを操作し、そのコテージの真横に車を停車した。

Sがエンジンを切ると途端に、N美が「わたしはこんなとこ、入らないからね」と険しい顔で呟く。

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「じゃあ、ここにいろよ」

そう冷たく言い放つとSは運転席のドアを開き、さっさと外に出た。

慌ててN美も「ちょっと待ってよ」と言いながらドアを開き外に出る。

月明かりを頼りに彼は歩くと、その平屋建物の入口前に立った。

殺風景な白壁の中央には安っぽいドア。

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ドアには【オールタイム2,000円】と書かれたボードが貼られていた。

その上には「空室」の文字が青白く光っている。

Sはドアノブを握ると、回してみる。

するとそれは容易に回転しあっさり開いた。

同時に室内に明かりがパッと灯る。

見ると玄関上がってすぐ目の前にドアがあった。

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靴を脱いで上がりそのドアを開いた途端、何故か焦げ臭い匂いがSの鼻をつく。

室内は8帖ほどあるようだ。

そこはまるで昭和の頃のピンク映画に出てくるような安っぽいラブホテル一室の眺め。

天井からはシャンデリア調の照明がぶら下がっていて、淡い暖色系の明かりを灯している。

毛足の長いワインカラーのカーペットに安っぽいベージュのクロス。

片隅には時代錯誤な箱型テレビと小さな冷蔵庫があり、奥にはダブルベッドが一つある。

ベッドの真上の天井は鏡張りで、際は全面ガラスになっていて奥の浴室が丸見えのようだ。

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二人が入口で立ち尽くしていると、

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shake

ドン、、、ドン、、、

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玄関ドアを叩く音がする。

驚いたSとN美は顔を見合わせると、同時に振り返った。

緊張した面持ちでSが「はい」と声を出す。

するとドア向こうから「お泊まりですか?」というくぐもった男の声がした。

Sがドアに向かい「は、、はい」と答えると、下方にある小窓がパカリと開く。

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血走った2つの瞳が隙間から覗いている。

瞳はしばらくSらを凝視すると、「2,000円です」と呟いた。

Sはドアのところまで歩きジーパンの尻ポケットから財布を出すと、1,000円札を2枚抜き取り隙間に差し出す。

しばらくすると筋張った指がぬっと現れ、奪うようにして取り去った。

彼はすぐドアに鍵をかけると、さらにチェーンも掛けた。

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「ちょっと、シャワー浴びてくる」

そう言って、N美は奥の浴室へと行った。

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その間Sはベッド横にあるソファーに座り、携帯をいじっていた。

それから半時間くらいが過ぎて退屈しだした彼は、何気に浴室の方に視線をやる。

ベッド横の仕切りガラスの向こうにある浴室に、裸のN美の後ろ姿が見えていた。

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ただ少し様子が変だ。

電気もつけず暗闇の中シャワーを頭から浴びながら、ピクリとも動かないのだ。

不審に思ったSは立ち上がると、浴室に歩いた。

寝室との仕切りのガラスドアを開き、改めてN美を見る。

そしてハッと息を飲んだ。

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そこにあるのはいつもの白く張りのある身体などではなく、ぱさついた肌と腹回りにはでっぷりと肉が付き尻は少々垂れていて、まるで疲れ果てた中年女のようだ。

そんないつもと異なる身体の彼女がバスタブの手前に立ち頭からシャワーを浴びながら、ただじっと立ち尽くしている。

Sは恐る恐る声をかけた。

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「N美、、、」

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だが彼女は背中を向けたままうつむき、全く反応しない。

とうとうSは背後から近付きシャワーを止めると、真横から改めてN美の横顔を見た。

そしてまた衝撃を受ける。

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その額には幾筋もシワがより頬は弛み、あちこちシミがあった。

彼女はうつむき一点を見つめながら、何かぶつぶつと独り言を呟いている。

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「おい、何しかとしてるんだよ?」

そう言ってSが彼女の肩に手を乗せた時だった。

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突然N美が彼の顔の方を見ると両手でその首を掴み、グイグイと力をこめだした。

その瞳には黒目がなく真っ白だ。

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「おい何すんだよ、止めろよ!」

そう言いながらSは彼女の手首を掴み外そうとするが、その力は思った以上に強く二人はそのまま後方に倒れこむ。

浴室のタイルの上でN美は彼に馬乗りになると、その両手にさらに力をこめだした。

その顔には満面の笑みを浮かべながら。

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苦しさに耐えきれなくなったSは思わず力任せに彼女の頬を平手打ちする。

その勢いでN美は横手に倒れると、そのまま動かなくなってしまった。

慌ててSは彼女の傍らに寄り添うと、改めてその顔を見る。

そこには、いつものN美の顔があった。

どうやら彼女は気を失っているようで、彼は彼女を抱えると寝室に戻りベッドに寝かせた。

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その後Sはシャワーを浴びN美の隣に横たわると、電気を消す。

それからどれくらいの時が過ぎた頃か、彼はうなされながら突然目を覚ました。

どうやら悪夢を見ていたらしい。

枕元に置いた携帯に目をやると、時刻は深夜2時を過ぎている。

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隣を向くと、仰向けのまま熟睡しているN美の姿があった。

彼はホッと息をつき水でも飲もうとベッドから降り、暗闇の中壁際にある冷蔵庫まで歩く。

そしてその扉を開いた時だった。

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「うわっ!」

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彼は小さな悲鳴をあげ、そのまま尻餅をついた。

心拍数が一気にマックスになる。

Sの視線の先、小さな白い冷蔵庫の中には男の生首があった。

茶髪で色白の若い男の頭部だけがそこにはある。

その男は何か言いたげに大きく目を見開き、口は半開きにしている。

Sが恐怖のあまり動けずにいると、信じられないことに、その口から微かに声が聞こえてきた。

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タ、、タスケテ、、、アノ、オンナ、、クルッテル、、

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アノ、オンナ、、クルッテル、、アノ、オンナ、、、

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「あの女狂ってる?」

Sが男の言葉を復唱した。

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それだけ言うと首だけの若い男は、静かに瞳と口を閉じる。

Sが再び見たとき、その若い男の生首はなかった。

呆然と放心したまま座り込でいた彼は、おかしな匂いを鼻腔に感じる。

それは入室した時にも感じた、焦げ臭い匂い。

しかも最初の時よりも強くなっており、咳き込むほどだ。

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ただならぬ気配を背後に感じた彼は思わず振り向くと、眼前に広がる光景に小さな悲鳴を上げてのけぞる。

Sの背後はいつの間にか青白い炎に囲まれていた。

炎の勢いは強く、間近に迫っている。

慌てて立ち上がった彼が「N美!」と叫び、ベッドの方を見る。

そして炎に包まれたベッドの前に黒い人影があるのに気付いた。

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「N美?」

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彼の問いかけに答えることなく、その人影はただじっとその場に立ち尽くしている。

そしてその目がようやくその姿を捉えた時、彼の背筋は一瞬で凍った。

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それは白髪交じりの黒髪を無造作に伸ばした女。

そしてその2つの瞳には黒目がなく真っ白だ。

しかも首から下の身体は影のように真っ暗だった。

女はじりじり歩きながらSに近づいてくる。

彼は少しづつ後退していく。

そしていよいよ、その女が目前に迫った時だった。

恐怖のあまり彼は意識を失うと、その場にへたりこんだ。

※※※※※※※※※※

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…………

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「ねえ、起きてよ!」

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N美の声でSは目覚める。

そして辺りを見回した彼は愕然とした。

その視界には、まるで火事の焼け跡のような光景が入ってきた。

周囲の壁はほとんど焼け落ちたかのように無くて、炭化した黒く太い支柱だけが数本立っているような状態だ。

焦げた床の上に横たわっていた彼はよろけながら立ち上がった。

傍らには真っ黒になった冷蔵庫と箱型テレビ。

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2メートルほど前にあるぼろぼろのダブルベッドの上には布団にくるまったN美がいて、今にも泣きそうな顔で彼の方を見ている。

ベッドの向こうには焦げたバスタブがあった。

見上げると、雲一つない青空が広がっている。

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Sはふらふらと歩いてN美のいるベッドまで行くと、ドスンとその端に座った。

そしてしばらく二人ただ呆然としていると、前方に立ち並ぶ林の間から忽然と作業着姿の初老の男性が現れた。

男性は怪訝な顔をしながら二人の傍まで近づくと「あんたたち、こんなとこで何してんだ?」と尋ねる。

男性はこの近くの部落の者ということだった。

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Sは男性に、昨晩ここで起こった不思議な出来事の顛末を覚えている限り話した。

男性は彼の話を聞いた後しばらく何かを考えるような様子で腕組みしていたが、やがてこのようなことを喋りだした。

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「あんたの言う通り、確かにここら一帯には怪しげなホテルが数軒あったな。

ただそれは昭和の頃の話でな、元々はなんでも、他所の土地からふらりと来た胡散臭い女がここら一帯の土地を買い占めて営業始めたみたいでな。

その女、なんやいつも派手な化粧と露出多めの真っ赤な服を着た、ちょっと変わったおばさんやったそうや。

なんでもバブルの頃不動産投資で大儲けしたと、えらい自慢しとったらしい。

それで数年はうまくやっとったみたいなんやけど、ある日ここらの平屋の中の一棟が火事になってな、そう、あんたらが今いるそこの棟や。

焼け跡からは、なんとホテルオーナーの女の遺体が発見されたそうなんや。

しかも一緒に若い男の首のない遺体が見つかったようでな、どうやらここの女オーナー金にものを言わせてホスト遊びにはまっとったみたいでな、普段から若い男をその棟に連れ込んでは楽しんどったみたいや。

それでとうとう一人のホストにがち惚れしたようでな、ある日そのホストと痴話喧嘩のあげく殺してしまったみたいでな、

最後は自ら命を絶って火を放ったみたいなんや。

まあ当時は結構話題になったそうや」

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男性はそこまで話すと、あんたたちも気いつけて帰りやと言い残し立ち去った。

それからSとN美は二人ベッドから離れると、棟に横付けしている車のところまで歩き乗り込んだ。

※※※※※※※※※※

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ようやく帰路に付くことが出来たSは、なだらかな傾斜の山道を下りながら何度となくN美に話しかける。

だが彼女は左手のウィンドウにもたれかかったまま、黙りこんだままだった。

そして何回めかの信号待ちの時、彼はとうとう彼女の肩に手を乗せ、「なあ、いい加減何か喋れよ」と少し強く言う。

するとN美はゆっくりSの方に向き直った。

そしてその顔を見た瞬間、彼の背筋は凍りつく。

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彼女は黒目のない白い瞳でニタリと微笑んでいた。

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Presented by Nekojiro

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2024年10月30日 17時45分

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