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中編6
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友達リクエスト

しばらく使っていなかったSNSアカウントに友達リクエストが届いていた。

それは何と死んだはずの昔の恋人、岩清水美沙からだった。

同姓同名の他人なのか、もしくは誰かの悪戯なのか。

俺の知る限り、生前、彼女はこのようなSNSアカウントを作っていなかった。

彼女の友人がこのようなSNSアカウントでフォロワーから執拗な嫌がらせを受け、結局不愉快な思いをしただけでアカウントを閉鎖したことを聞いていたからだ。

それが何故?

彼女は五年以上前、まだ俺達が高校三年だった時に病気で死んだ。

急性白血病だったのだが、発見が遅く、彼女が倒れた時にはもう手遅れだった。

それでも毎日のように病院へ見舞に行った。

そして病院で彼女の臨終にも立ち会い、葬式にも参列した。

彼女がもうこの世にいないのは間違いないのだ。

首を傾げながらそのアカウントを覗いて見ると、プロフ写真はなく、内容も非公開。

同姓同名でまったく赤の他人という可能性もなくはないが、やはりそれは考えにくい。

やはり、高校時代の俺達のことを知っている誰かが、彼女の名前でアカウントを作成し、友達リクエストしてきたというのが可能性として高いと思う。

しかし何のために?

そして何故五年以上も経った今?

彼女が最後の病床でアカウントを作成し、友達リクエストを掛けてきたのが何らかの理由で遅配されてきたのではないかとも考えてみたが、

俺自身がアカウントを作成したのは、彼女が死んだ後、高校を卒業し実家を出て東京にある大学に入学してからなのだ。

まったく理解できない。

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*********

俺は思い切って友達リクエストを許可してみた。

何か不都合が起れば、このアカウントを閉じればいい。どうせほとんど使っていなかったアカウントなのだ。

そして許可のボタンを押した後、もう一度彼女のアカウントを見に行った。

彼女の自己紹介はなかったが、居住地、出身校などの詳細データが表示されており、それはどう見ても彼女のプロフィールだ。

そしてスクロールしてタイムラインが表示されると、まず目に飛び込んできたのは葬式の祭壇の写真。

真ん中に飾られている遺影は間違いなく彼女であり、それは俺の記憶にある彼女の葬式の時の遺影と一致していた。

そしてその投稿の日付は間違いなく彼女の葬式の日だ。

自分のタイムラインに自身の葬式の写真を投稿するなんてあり得ない。

しかしそこから下には高校時代の彼女の写真がずらっと並んでいる。

彼女自身の写真はもちろんだが、俺も記憶にあるデートの写真も混じっているではないか。

そして写真に添えられた文章、そしてその日付も当時のままなのだ。

俺に黙ってこのようなアカウントを作っていたのだろうか。

ふと気がついて他の友達を見てみると、登録されている友達は俺だけ。

友達登録を削除をした人間がいない限り、このアカウントは誰にも見られない状態だったということだ。

まあ、日記代わりに非公開で日々を綴っていただけだということは考えられなくはない。

しかし最後の葬式の写真だけは・・・

そこでふと彼女の妹の顔が思い浮かんだ。

そうだ。

彼女なら姉から死の直前にアカウントを閉じる為のIDとパスワードを聞いていてもおかしくない。

そして最後に葬式の写真を投稿することも可能だ。

確か二歳年下で有沙という名だった。

しかしそれにしても、その妹が姉のアカウントで俺に友達リクエストを送ってくる理由が分からない。

どうしても確認して見たくなり、彼女の実家に電話してみた。

当時はかなり頻繁に彼女の家を訪れていた為、電話をするのにそれほど抵抗はなかった。

電話に出たのは、妹の有沙だった。

彼女はまだ大学生で自宅から通っていた。

有沙に電話で概略を話したのだが、彼女は姉のそのようなアカウントに全く心当たりはないと困惑したように言った。

ただ、自分もその姉のアカウントを見てみたいから是非会ってくれと言ってきた。

俺も自分ひとりで悩むより、美沙に一番近いところにいた有沙と話をするべきだと思いそれを承諾した。

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********

週末、車を飛ばして実家のある山梨県の甲府へと戻ると、有沙と待ち合わせしているファミレスへと向かった。

久しぶりに会った有沙は、今年大学を卒業するだけあってすっかり大人びた雰囲気になっていた。

「有沙ちゃん、久しぶり。」

「お久しぶりです。祐樹さん(俺)、もうすっかり社会人ですね。」

「有沙ちゃんこそ、すっかり大人っぽくなって。前に会ったのは高1の時だもんね。」

そして有沙は俺のスマホを手に取ると、美沙の物と思われるそのアカウントを驚いた表情で食い入るように見つめた。

有沙と一緒に写っている写真もあり、その日付も彼女の記憶と合致していた。

「ねえ、これ動画だよ。」

有沙が突然、タイムライン上で一番新しい葬式の映像を指差して言った。

全く画面が動かない上に、俺は普段から消音モードでスマホを使っているため、静止画だと思い込んでいた。

確認して見ると再生時間は三分以上ある。

消音モードをオフにして再生してみた。

しかしサーッという軽いノイズが入っているだけで特に何も聞こえない。

しかし動画が終わる寸前だった。

(忘れないで)

いきなりの音声と共に、映像の中の遺影がうっすらと悲しそうな表情に変わったのだ。

「お姉ちゃん・・・」

有沙はそれを見て、口を手で覆って涙を浮かべた。

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********

もう疑う余地はない。

死んだ美沙が俺に対して、自分を忘れるなと送ってきたのだ。

「でもどうして今なんだろう・・・」

俺の呟きに有沙は少し考えるような素振りを見せた後、ゆっくりと話し始めた。

「実は来週お姉ちゃんの七回忌の法要なの。」

そうだ、今年の命日で丸六年になる。

そして、美沙の両親はその法要に俺を呼ぶのを止めようと言ったそうだ。

夫婦ならともかく、高校生の時の彼女の法事に延々とつき合わせるのはどうか、三回忌に出席して貰えたのだからもう充分であり、早く忘れてくれた方がいいと。

「そしてそろそろ私達家族も忘れた方がいいと、それまでずっとそのままにしていたお姉ちゃんの部屋を先週片付けたの。」

そうか。

それで忘れてくれるなと訴えるために、俺に友達リクエストを送ってきたということか・・・

しかし、そうすると、美沙はまだ成仏していないということになる。

俺はどうすればいいんだろう。

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********

翌週、俺は美沙の七回忌の法要に参列した。

有沙から話は聞いていたのだろう、両親はどこか悲しそうな表情で俺に深々と頭を下げた。

「祐樹くん、申し訳ない。娘がいつまでも迷惑をかけているようで。」

俺は何と返事していいかわからなかった。

そして母親が俺にガラス玉のブレスレットを差し出した。

「これ、美沙の部屋を片付けていたら出てきたの。祐樹くんからのプレゼントよね。捨てるに捨てられなくてお返ししようかと思って。」

確かにそれは、俺が美沙に誕生日のプレゼントとして、なけなしの小遣いとバイト料で買ってあげたものだ。

「いえ、美沙が死んだからと言ってプレゼントした物を取り返すような事をしたくないです。よろしければ仏壇の隅にでも置いておいて頂けませんか?」

「でも・・・」

困ったような表情を浮かべる母親の横から有沙がそのブレスレットを取り上げた。

「じゃあ、私が貰ってあげる。お姉ちゃんだって私なら文句を言わないわ。祐樹さんもいいでしょ?」

俺は苦笑いを返すしかなかった。

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しかしこれをきっかけに、有沙と時折連絡を取るようになり、彼女が都内に就職を決めたことで、正式に付き合い始めた。

そしてそれと前後して美沙のアカウントはいつの間にかなくなっていたのだ。

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*********

昔は、娶った嫁が早逝した場合、その妹を嫁に貰うということがあったらしい。

もちろんそれは家と家の繋がりを保つために行われてきたことだ。

しかし、死んだ嫁からすると全くの他人を後妻として迎えられると、自分はただ忘れ去られるだけになってしまう。

妹が嫁いでくれれば、自分のことを忘れないでいてくれる、

そんな気持ちもあったのかもしれない。

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ひょっとすると美沙もそんな気持ちでいたのだろうか。

そして

これで成仏してくれたと思って良いのだろうか。

◇◇◇◇ FIN

Concrete
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とても読みやすく面白かったです。現代人かつ、風習に関係のなさそうな所で偶然なのか必然なのか倣う形で辿ってしまうのがとても美しい文だなと思いました

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@pc様
そうですね、そこがこの話の起点です。

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