俺は5年前、この街を出ていった。
仕事も、彼女も、とにかく全てから開放されて、新しい生き方を手に入れたかったんだ。
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だけどそんな新しい生活にも、もう疲れた。
俺はふと昔、あの街で付き合っていた彼女を思い出した。今はどうしてるだろう?
あの頃は全てが面倒くさかったが、やはり俺には彼女との生活が向いていたんだ。
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俺は今更ながら、彼女とまたやり直したくて帰って来た。
そして今、彼女の家の前にいる。
玄関先に、あの頃、彼女が使っていた傘がまだそのままある。
横の小窓から部屋の明かりが漏れている。
今更どういうつもり?って追い返されるかな。
もう新しい男が出来ちまったかな。
俺はそう考えながらドアをノックした。
しばらくするとドアがカチャッと静かに開いた。中から、彼女がこんな時間に誰?といった表情で顔を覗かせた。
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俺が「久しぶりだな」そう言うと、
彼女は一瞬驚いた顔をしたが
「本当、久しぶりね。きっと貴方は帰って来ると思ってたわ」とドアを開くと、俺を家の中に招いた。
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あの頃と変わらぬ部屋、変わらぬ小さなテーブルを挟み俺と彼女は向かい合った。
「どこにいたの?」
「どうしてたの?」
ぽつりぽつりと聞く彼女の問に俺は答えた。
そして「もう一度、初めからやり直そう」
そう彼女に言った。
暗い部屋をカーテンから差し込む月の光が、ぼんやりと部屋を照らしている。
畳に並べて敷いた布団に俺と彼女は、あの頃の様に並んで寝た。
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それはまるで時間が逆戻りしたかの様に、あの頃のままだった。
俺はふと時計を見たが、それは止まっていた。
彼女に目を遣ると、彼女は背中をこちらに向けて眠っている。
その時、突然彼女が、ふふ…ふふふ…と肩を揺らして小さく笑い始めた。
俺は「なんだよ?」と聞き、彼女の方へ寝返りを打った。
彼女はそれでも何も答えず、ふふ…ふふふ…と、ただ笑っている。
俺は「だから何だよ?!」と彼女の肩に手を掛けた。
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すると彼女は下側になった手で俺の手首を掴み、ゆっくりこちらを向き
ワタシハ
アナタヲ
ユルサナイ
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そう呻くように言った。
その顔は片側が朽ち果て、
白骨と化していた。
作者zero