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「あいうえお怪談」第15話「おめでとう」                      第1章「あ行・お」

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「あいうえお怪談」第15話「おめでとう」                      第1章「あ行・お」

「あいうえお怪談」

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第15話「おめでとう」

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第1章「あ行・お」

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昨年暮から新年初頭にかけて、体調を崩し、以来、どうも調子が良くない。正月休みが明けた頃、近所のかかりつけ医を訪れた時のことだった。

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混み合う待合室で、町内会長さんと鉢合わせした。何やら、困った様子だったので、それとなく尋ねてみると、◎△神社の新年行事「どんと焼き」の係になっていた中山さんが、新年早々、凍結した路面に足を滑らせ怪我をしたらしいとのことだった。

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「中山さんですか?」

中山さんといえば、前回第14話「絵馬に託す思念」で、信心深いMさんが体験した不気味な話を、事細かに教えてくれた町内会の重鎮である。

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「気味悪いですよね。一体誰が、あんな罰(バチ)たかりなイタズラをするんでしょう。」

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例の話は、町内会長さんも既に存じ上げていたらしく、眉間にシワを寄せた。

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あろうことに、中山さんの怪我は、治療の甲斐なく、ますます、悪化する一方なのだという。

それも、したたかに打ったはずの足腰より、なぜか、腕と目の具合が良くないらしい。

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実は、中山さんも、元旦に、新しく掛けられた絵馬を、それとなく見て回っていたらしいのだが、Mさんの時と同じ、一文字ずつ書かれた絵馬を象(かたど)った木の札を目にしたというのだ。

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別に、おかしなものではないが、ちょっと気になると話していたと。

「お」「め」「で」「と」「う」の5枚の札と、「お」と「う」の札の下に、

「✔」「レ」の記号のような札が隠れていたというのだ。

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「〇〇さん(私のこと)、分かりますか?」

「さぁ、何のことだか。」

しばしの沈黙に耐えかねていると、程なく、看護師が、私の名を呼び上げた。

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「すみません。お役に立てなくて。もしかしたら、例の18文字を解いたMさんなら分かるかもしれませんよ。」

立ち上がり、診察室へと足を向ける私の背後から、

「はぁ・・・、」

町内会長さんの、小さな嘆息が聞こえてきた。

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帰宅し、処方された風邪薬を飲み、小一時間ほど仮眠を取った後で、町内会長さんから教えてもらった例の絵馬の文字解読を試みることにした。

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「お」「め」「で」「と」「う」「✔」「レ」

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文字を並べ替えているうちに、ゾッと鳥肌が立った。

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「め」「と」「う」「で」「お」「✔」「レ」

「✔」は90度回転させると、「く」に読めなくもない。

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つまり、

目と腕(を)おくれ(レ)

中山さんは、たしか、腕と目の加減が、足腰よりも良くないと聞いた。

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私は、大急ぎでスマホを手に取ると、町内会長さんに、電話をかけた。

文字に隠された意味を説明し、あの絵馬を象(かたど)った札には、呪いが掛けられている。早く何とかした方がいいと告げた。

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町内会長さんは、少し長くなりますが、よろしいでしょうか。

と前置きし、徐ろに話し出した。

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「〇〇さん、・・・ご存知でしたか?あの神社は、元々[絵馬]など取り扱ってはいなかったこと。」

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確かに、子どもの頃から慣れ親しんだ地元の神社だが、かつては、絵馬を飾る習慣など無かった。少なくとも、祖父の代には、見たこともなかった。

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町内会長さんは続けた。

「中山さんの話によると、本来、[願い事]を祈願するような神社ではないと言うんです。絵馬には、動物の馬が描かれていますよね。でも、あそこは、四足 つまり馬のような四本脚で歩く動物を受け付けない神社だったそうです。」

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私は、絶句した。

あの神社が、絵馬を扱うようになる前に、祖父は他界した。生前も、そのような話は、聞いたことがない。

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ただ、普通の神社とは、違う雰囲気を漂わせているのは事実である。

初詣はともかく、七五三のお祝い、初宮参り、結婚式を行える神社ではない。

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どちらかといえば、山伏のような修験者が、苦行をするため訪れる神社という雰囲気だろうか。

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罰当たりなのは、むしろ、神社の方なのかもしれない。

祖父が他界してまもなく、神社内で、何らかのトラブルがあったのだろう。あの中山さんですら、どの程度までご存知なのかは分からないが。

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少なくとも、今ある神社は、既に、本来祀られていた神とは別のモノを神としているのかもしれない。

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四足を愛するモノ 

四足をした異形のモノ

手と足おくれ と言って憚りなきモノ。

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「〇〇さん、言い過ぎですよ。」

私の言葉を遮るように、町内会長さんは、冷たく言い放った。

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「この件に関しては、他言無用です。一応、私も神社の関係者なのでね。それと、中山さんの代役、Mさんがやってくださることになりましたから。ご心配なく。」

ボツと無機質な音を立てると、スマホは沈黙した。

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皆様へ。
本作を読むにあたり、前作第14話「絵馬に託す思念」をお読みいただいたほうが、よりわかりやすいかと存じます。
解説欄に追加訂正いたしますと、新作アップの通知が送信されてしまうかもしれませんので、
敢えて、こちらのコメント欄にリンク先を記載いたしました。
興味のある方は、こちらを先にクリックしてお読みいただくことをオススメいたします。
                  ↓
          https://kowabana.jp/stories/37393

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