大学生の田村明彦はアパートで一人暮らしをしていた。
ある日、部屋で寝転びながら雑誌を読んでいると、天井裏からガタガタと何かが移動するような音がした。
ネズミだ、と明彦は思い、翌日ネズミを捕るための粘着シートを買ってくると、はめ板を外して天井裏に設置した。
しばらくはネズミの足音が聞こえていたが、三日程経つと聞こえなくなった。
ネズミが捕まったのだろうと思い、明彦は天井裏から粘着シートを取り出した。
そして、心臓が凍りつくような恐怖を感じた。
シートに張り付いていたのはネズミではなく、人形だった。
女の人形で、大きさも見た目もリカちゃん人形に似ていた。
しかし、明らかにおかしな点があった。
全身の肌が赤色なのだ。
明彦は首をかしげた。
どうしてこんな人形がシートに張り付いたのだろうか。
まさか天井裏を移動していたのは、この人形だとでもいうのか。
明彦は人形をよく観察しようと思い、シートから人形をはがそうと掴んだ。
その時、変な感触がした。
人形の腹の辺りがぐにぐにと動く。
腹の中に何か入っているらしい。
明彦は人形のスカートをめくり、中をのぞいてみた。
人形の股から、小さな赤ん坊の人形が頭を出し、こちらを見ていた。
「うわっ」
明彦は驚き、人形をシートごと落とした。
赤い肌といい、赤ん坊の人形といい、誰がこんな悪趣味な物を作ったのだろうか。
明彦は気持ち悪くてたまらなくなり、人形をシートごとゴミ箱に放り込んだ。
separator
翌朝、人形が入ったゴミ袋を持ち、明彦はアパートを出た。
もうすぐゴミ収集車が来る時間である。
明彦は小走りでゴミ捨て場に向かった。
収集車が来る前に着き、明彦はほっと一安心した。
ゴミ袋を置き、アパートへの道を戻る。
その時、電信柱に変な張り紙があるのを見つけた。
近づいてよく見ると、そこにはあの人形の写真が印刷してあった。
どういう事かと思い、写真の横に書かれている文を読む。
そこにはこう書かれていた。
『この人形を探しています。見つけた方は下記の番号にご連絡ください。080-△△△△-〇〇〇〇。もしこの人形を見つけた場合、絶対に直接触れないでください。また、触れてしまった場合は、絶対に傷つけないでください』
明彦は最後の警告文が気になった。
シートからはがそうとする際、人形に触れてしまっている。
明彦は紙に書かれた番号に電話をかける事にした。
到着したゴミ収集車を尻目に、ポケットから携帯電話を取り出す。
電話はすぐに繋がった。
「はい、もしもし」
電話に出たのは女性だった。
明彦が言う。
「あの、人形の張り紙を見て連絡したのですが」
「ああ、ご連絡ありがとうございます。人形を見つけたんですか?」
「えっと、見つけたんですが、触れてしまいまして。だから紙に書かれてある事が気になるんです。人形に触れてはならない、あと傷つけてはならないって書かれてますよね。それってなんでですか?」
「……」
女はしばらく沈黙した後、こう答えた。
「人形と同じ目に遭うからです」
「え?」
明彦はゴミ収集車を見た。
自分が持ってきたゴミ袋が放り込まれ、中で潰されていく。
「待ってくれっ」
明彦は急いで作業員に声をかけた。
その瞬間、明彦の背骨がバキッと音をたてて後ろに折れ曲がり、後頭部が太ももの裏に付いた。
その後、頭が潰れ、脳味噌が血液と共に鼻と口から吹き出した。
作業員はそれを見て腰を抜かし、叫び声を上げた。
電話の向こうで女はその声を聞き、なんとなく状況を察して電話を切った。
そして一人つぶやいた。
「また死人がでちゃった。早くすべての人形を回収しないと」
作者スナタナオキ