これは私が小学生だったときの話だ。
私は友達の家でかくれんぼをすることになった。
メンバーは私を含めて四人。
鬼はユキオという子に決まった。
私はユキオが数をかぞえ終わる前に、急いで押入れの中に隠れた。
押入れには布団が仕舞われていたので、その中にもぐりこんで身を隠した。
ユキオが数を数え終わり、階段をのぼっていく音が聞こえた。
私が隠れていたのは一階なので、しめしめと思っていた。
しばらく息を潜めていると、二階からユキオの声が聞こえてきた。
「ショウタみーけっ」
私は不思議に思った。
ショウタとは、私のことだ。
誰かと勘違いしたのだと思っていると、別の声が聞こえてきた。
「みつかっちゃた」
聞き覚えのない声だった。
私はユキオの「なんだ、ショウタじゃなかったのか」という声がすぐに聞こえてくるだろうと思っていた。
しかし、ユキオはそのようなことを一向に言わず、見つけられた子とわいわい騒いでいるだけだった。
そして、いつまで経っても、見つけられた子が誰なのかを言わない。
私は気になって、すぐに押し入れから出ようとした。
しかし、なぜだか体が動かなくなっていることに気づいた。
私はとても怖くなった。
どれだけ体に力を入れてもぴくりとも動かない。
すぐに友達を呼ぼうとしたが、声を出すこともできなかった。
私は真っ暗な押入れの中で、外から聞こえてくる声に耳をすませることしかできなかった。
「カズキみーけっ」「タクヤみーけっ」
他の二人が見つかった。
あとは私一人だ。そう思っていると、ユキオが言った。
「よし、全員見つけたぞ」
私は耳を疑った。
ユキオは私のことを忘れている。
いや、ユキオだけじゃない。
カズキもタクヤも、私のことを忘れてしまっている。――そんなことがあり得るだろうか?
私はまた怖くなった。
私以外の三人と、私の知らない誰かとが、楽しそうに次の鬼を決めている。
どうやら鬼はタクヤ決まったようだ。
タクヤが数をかぞえる声が聞こえてくる。
かぞえ終わると、ドタドタとタクヤが走り出す音が聞こえてきた。
それからは、何も聞こえなくなった。
私はまた体を動かそうとしたが、駄目だった。
そのとき、押入れの近くで足音がした。
ひた、ひた、と足音がゆっくりとこちらに近づいてくる。
鬼のタクヤだろうか。
それとも、新しく加わった子だろうか。
私は直感的に、新しく加わった子に見つかったらまずいと思った。
金縛りの原因がその子にあるような気がしたからだ。
布団の中に顔を引っ込めたかったが、体はやはり動かない。
足音が押し入れの前で止まった。
突然、ぱっと視界が明るくなった。
襖が開けられたのだ。
私はタクヤと目が合った。
「ショウタみーけっ」
タクヤが明るい声で言った。
その瞬間、私は自分の体が動かせることに気づき、押入れから飛び出した。
タクヤはそれを見て笑った。
私はすぐに、新しくかくれんぼに加わった子が誰なのか訊ねた。
しかし、タクヤはそんな子はいないと言った。
私はかくれんぼを中断させ、隠れていたユキオとカズキを呼び出した。
そして、先ほどと同じことを問いただしたが、二人もやはり、新しく加わった子などいないと言うのだった。
最初に鬼だったユキオはこうも言った。
「ショウタ」は確かに、寝室のベッドの下に隠れていた、と……。
私は一刻も早くこの家から逃げ出したくなり、三人が止めるのを無視して、自分の家に帰った。
以来、この家でかくれんぼをすることはなくなった。
作者スナタナオキ