中編2
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帰り道

成績が悪いということで、強制的に塾に通わされた。

反駁する語彙がまったく見つからず、ただ押し黙って説教を聞く破目になった。

塾の帰り道。2時間という時が終わり、自転車のペダルを疲労感が充満する足で漕ぐ。

何も塾が嫌と言うわけじゃない。

中学3年生のこの時期、自主的に勉強する気が皆無の俺には、強制的に通わせられない限り、何処の高校へも行けないだろう。

そこは、有難いと思っている。

だけど。

問題なのはそこじゃない。

帰り道だ。

曲がり角を曲がる。

嗚呼、居たよ。居た。

曲がり角を曲がって、すぐ。

女が居る。

ナイフを持った。こんな夏場だというのに、レインコートを羽織った。

曲がると直前にいるので、最初出てきたときは人を轢いてしまったと、思った。

だけど。

こいつは人じゃない。

俺はその女の胴体をすり抜けた。

最初のときは本当に吃驚した。

だって、人をすり抜けるなんて、現代じゃ考えられないことだろ。

後ろを向く。

こちらに背を向けて、ただぽつんと立っている。

何時までああしているつもりなのかな。

今日も何もしてこない。

追いかけてもこないし、あの手に持っているナイフで刺してきたりもしない。

用は、何もしないんだ。

微動だにしない。

怖いよ。何だよあいつ。

危害を加えないというのが、更に俺の恐怖心を掻き立てた。

うわ。居るよ。居る。

帰り道は、ある高校の前を通るのだけれど、その駐車場のところに居る。

暗くてよく見えないけど、恐らく男。

だけど、目が光っている。

いや、光っているっていう表現は正しいくない。

目が充血していて、そこだけがくっきりと見える。

そして、俺を目でギロリと追う。

気持ちが悪い。

最近は出来るだけ目を合わせないようにした。

あいつも、特に何もしてこない。

ただ、怖いだけ。

学校を通りすぎると、家がある。

小さい家だ。

俺が通るときはいつも、全部の部屋の電気が消灯されているわけだけど。

何故か2階の電気はついていて・・・。

そこにも居る。

体が長細くて、多分女。白いブラウスを羽織っている。

だけど。

顔は見えない。

体が長すぎて。

怖い。怖い。怖い。

早く家に帰りたい。

塾の疲労感。帰りの疲労感。

嫌だよ。あんな怖いのが居る道。

だけど、親に言っても信じてもらえないし。

逆に変な子だと思われる。

天井を見上げた。

背に当たる布団。心地いい。

あっ。

新しいの見つけてしまった。

ナイフ女。

充血男。

デカイ女。

そして。

今見ている。

自分。

天井にもう1人自分が居る。

何処もかしこも俺だ。

嫌だ。嘘だろ?

天井の自分は。

「今日も怖かったなあ」

そう言って、天井の中へ消えた。

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