【祝祭】童話「マモルとヨタ」

長編17
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【祝祭】童話「マモルとヨタ」

(*^-^*)この話は、アワードを受賞したロビンM太郎.com様に贈ります。

怖くはありません。

興味のない方は、スルーしてください。

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まだ、夜の帳が明けきらぬ早朝。

旅の疲れを癒そうと、俺は、中華料理店の前の電信柱に降り立った。

ここなら、縄張りに関係なく、存分に獲物を頂戴出来るだろう。

やや白み始めた商店街。

街灯が、うすぼんやりと野良猫の姿を照らした。

チリリン

眼下を新聞配達の自転車が通り過ぎる。

そろそろだな。

ガラガラガラ

中華料理店の店主だろうか。

暗い店の奥からモゾモゾと現れ、俺の

止まる電信柱の前に どすんどすんとゴミ袋を二つ置いた。

袋には、これ以上入りきれないほどに昨夜の宴の残飯が、ぎゅうぎゅうに詰め込まれ、パンパンに膨れ上がっていた。

先手必勝!!!

野良猫に横取りされる前に、なんとかしてゲットしなければ。

俺は,ぐぃと身を乗り出し、戦闘態勢に入った。

その時だった。

きゃん!

薄暗い店舗の中から、店主の脇をすり抜けるようにして、電光石火、小柄な犬が 野良猫目がけ勢いよく飛び出してくるではないか。

ふんぎゃぁ

キャンキャンキャン。

小型犬は、獲物目がけて跳躍せんとする野良猫の周りを ぐるぐると旋回したかと思うと、

ワンワンワンワンワンワンワン

激しく吠えまくったのである。

こりゃたまらんとばかりに、野良猫は、すばやく踵を返し、薄暗い早朝の繁華街を滑るように走り去った。

「おぉ、マモル。ゴミ荒らしの野良猫を退治してくれたんだな。ありがとうなぁ。」

マモルと呼ばれるその犬は、ちぎれんばかりに尻尾を振り、身をくねらせながら、まだ髭も剃っていない店主の寝ぼけ顔を、ぺろぺろぺろと舐めまわした。

ゲゲゲのゲ

こいつ、犬のくせに鼻がないよ。

フガフガフガ言ってやがる。

人間に飼われているせいか、面(ツラ)まで人間くさいじゃねぇか。

こいつは、パグだな。

めぐせぇ 

年中鼻の詰まった 鼻ふちょげ野郎め。

よし、今だ!

じゃれ合う店主とパグのスキをつき、野良猫の姿が完全に視界から消えたのを見計らって、

俺は、昨夜の宴の旨そうな匂いのするゴミ袋の上に降り立った・・・・。

つもりだったのだが・・・・・・

店主に抱かれていたパグは、突然、腕の中で激しく身をよじり、この野郎とばかりに、

ワンワンワンワンワンワンワン

腹の底から吠えまくった。

くそ!気づかれたか。

俺は、もう一度態勢を整えるため、一旦飛び上がろうとした。

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ん?

背後に感じる違和感。

たった今感じた甘く温かい匂いとは違う異臭。

久しぶりに嗅ぐあの饐えた匂い・・・・

ひぃっ、

向かい合う店主の顔から血の気が引いた。

カァカァカァ

俺は、ここへ来て初めて声を挙げた。

そいつは、コンクリートの壁と電信柱の隙間に佇んでいた。

垂れ下がる長い髪からのぞく瞳のない空洞化した目は、辺りを恨めしそうに眺めている。

手の甲にはゴミ袋とは違う大きな袋状のものが巻き付き、

ボロボロの服に 紫色の皮膚 男とも女ともつかない がりがりに痩せた身体をした 何者かが

ズズズズズズズズズズ

と 袋を引きずりながら ゆっくりと ゆっくりと 

歩を進めている。

やがて、そいつは、ゆるりと店主の方に向きを変えた。

辺りは白んでいるのに、ここだけが真っ黒い靄に囲まれて、湿っぽい。

漂う邪悪な空気。

俺は思い出した。

あの殺人事件の遭った翌朝も、こんな匂いがした。

刺された挙句、海に打ち捨てられ、「どざえもん」となった被害者。

そう、たしか、被害者は、タクシーの運転手だった。

数日後、浜に打ち上げられた被害者。

その遺体をつついていた俺の先輩、旅ガラスの三郎が、何者かによって「どざえもん」の道連れにされたのだった。

くそ!ヤバいじゃねぇか。

俺は、羽をバタバタさせて逃げようとしたが、そいつの眼力に捉まって、店主同様身動きできない。

(『おまえ、さっきからバタバタと煩い。邪魔だ。』)

そいつは、ニタリと笑いかけ、巻き付けていた袋を手元に引き寄せると、その口を、俺に向けて ゆっくりと開き始めた。

わわわわわわわ

とり殺される。

(って、俺 鳥 トリ とりの カラスだけどよぉ・・・)

その時だった。

ウウウウウウウウウウという低い唸り声とともに

ギャンギャンギャン

ワンワンワンワンワンワンワンワンワン

店主の手から飛びのくように降りたマモルが、そいつに向かって果敢に飛びかかったのだ。

(『ロビン様に手を出すな。この死にぞこないめ。てめぇこそ、地獄へ行きやがれ。』)

犬=パグ=マモルの声が聞こえた。

俺は一瞬何が起こったのか解らなかった。

それから、マモルは、這(ほう)う這うの体(てい)で逃げ出そうとする俺に向かって

(『やい!カラス。おまえ、いつもロビン様のゴミを漁って食い散らかして逃げているだろう。朝から旨いもん食わせてやっているんだ。たまには、恩返ししろ。』)

と、ワンではなく、リンとした声で吠えた。

ワンワンワン

(『一緒に闘え!こいつは悪い奴だ。やっつけないとロビン様のような善人が迷惑するんだよ。』

カァカァカァ

(『無茶いうな。俺とおまえで、こんなすごい奴倒せるかよ。おまえのご主人様のロビンさんは、どうしたんだよ。ビビってるだけじゃねぇか。』)

ワンワンワンワン

(『こいつは、幽霊だ。それも半端な奴じゃあない。死神もどきの悪霊だ。ロビン様のような生身の人間じゃぁ太刀打ちできない。おまえ、カラスだろう。仲間を呼べよ。あちこちにたくさんいるだろうが。』)

カァカァカァカァ

(『ご免こうむるわ。俺はなぁ。みなしごの旅がらすなんだよ。仲間なんかいねぇ。ここに来るのも初めてさ。何の収穫の得ぬままにこのざまよ。面倒なことに巻き込まれるのはたくさんだ。あばよ。』)

俺は、そこから飛び去ろうと 茜色に染まりかかった空を見上げた。

(『あぶない!逃げろ。捕まるぞ!』)

ワンワンワン

マモルの鳴き声が響き渡る。

ズりズりズりズりズりズりズり

ひひひひひひひひひひひひひ

干からびた不気味な声とともに、突然、辺りが真っ暗くなり、俺は袋の中に容れられた。

もがけがもがくほど、身動きが取れない。

羽が袋の中に飛び散った。

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その時、

ワンワンワンワンワン

パグ特有の大きな口が 薄汚いボロを纏った出来そこないの人間?いや幽霊に激しく噛みつく。

それから、大きくて丸い飴玉のようなマモルの目が 袋の中に飛び込んで来た。

ワンワンワンワン

(『おまえを守る。おまえ死ぬなよ。闘え!最後まで諦めるな。』)

激しい眩暈と、あちこちをキリで刺されるような痛みに襲われたが、俺は気力をふり絞って、ところかまわず、嘴でつつきまくり、宙を二本足で蹴り続けた。

気が付いたら、いつの間にか、真上にのぼった太陽が 真っ黒い俺の身体をじりじりと焼きつけるように眩しく輝いていた。

(『なぁ、おまえ。大丈夫かぁ。』)

店主ロビンさんに抱かれたマモルが心配そうに、俺をのぞき込んでいる。

「こいつ怪我してるな。ちょっと待ってろ。手当してやるから。水でも飲ませてやるか。」

店主ロビンさんは、そういうと、マモルを俺の脇に置き、店の中に入って行った。

カァカァカァ

身を起こしながら、俺は、マモルに尋ねた。

(『俺、助かったのか。』)

ワンワンワン

(『あぁ、悪い奴はもういないから安心しなよ。俺とロビンさんとでやっつけた。っつうか、おまえの力にも助けられたよ。おまえ強いなぁ。おまえがいてくれなかったら、正直危なかったわ。』)

カァカァカァ 

(『そそっか。ありがとな。』)

ハァハァハァ

(『おまえ、腹減ってんだろ。手当が済んでもそうすぐには動けないだろうから、しばらくここにいろ。俺からロビンさんにお願いしてみるよ。』)

 フガフガフガ

マモルはそう言うと、店の中に入っていった。

俺は再び気を失った。

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それから、どのくらいの時が経っただろう。

俺たちは、気が付くと 一人と一匹と一羽で暮らしていた。

俺は、生まれて初めて「家族」というものを知った。

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「カラスって、意外と可愛いじゃん。」

ロビンさんの妹さんらしき綺麗なお姉さんたちが、時々訪ねてきては、俺にお菓子をくれたり、似顔絵を描いてくれたりして、たいそう可愛がってくれた。

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舎弟の龍さんも、

「このカラス、なかなか賢いですぜ。旅ガラスを手なずけるとは、兄貴もまた 随分と粋なことをいたしますねぇ。」

お世辞か本音か解らない、でも、とても嬉しいことを語ってくれた。

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ロビンさんは、誰にでも優しかった。

料理は、天職だから得意なのはわかる。

が、趣味の釣りもなかなかの腕前だった。

余暇にはいつも、俺とマモルを連れて、時々海や川に連れていってくれた。

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俺はみなしごだったから、カラスの仲間とは上手くやっていけなかった。

どうしたものか。

いつも群れからはぐれてしまう。

恋人らしき女も出来たけど、長い放浪生活がすっかり板についた風来坊の旅ガラス。

いつも 肝心な時に、へまをやらかしては、愛想をつかされる。

気が付くと 「ぼっち」になっていた。

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マモルも、ロビンさん同様とても優しかった。

カラスの俺を差別したり、排除したりしないで、いつも同じ餌を食べさせてくれた。

「おまえ共食いだろうが。」

俺の好きな鶏の唐揚げが出ると、くしゃくしゃの顔を更にくしゃくしゃにして

自分の食い扶持から分けてくれた。

育ちの良くない俺に、マナーやエチケットを教えてくれた。

特に、ロビンさん仕込みの女性への気配りは、俺にとって目から鱗の連続だった。

愛されるよりも愛することの方が、もっともっと大事なのだと。

俺は知った。

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春が来て、夏が来て、そして秋が来て、冬が来た。

それを何度繰り返したか忘れた頃、俺は、神様の夢を見た。

「おまえは、ゴミを漁るカラスではなく、ゴミを片付けるカラスだそうだな。」

「はい!前は、荒んだ生活をしていたこともありますが、今は、善良なるロビンM太郎さんの元で、お世話になりながら、舎弟の一人として働かせていただいております。」

「左様か。人間の生活に馴染んでおるとはのう。なかなか出来ぬことであるぞ。

だが、おまえは、このままで一生を終えるつもりか。」

「・・・・と申しますと。」

「やがて、近い将来、おまえとマモルに別れの日がやって来る。それまでに、おまえの夢をかなえてやりたい。なにか私にしてほしいことはあるか。」

俺は少し考えた。

そして、徐に切り出した。

「はい!ロビンさんところのマモル君のようなパグ犬になりたいです。」

「なにゆえ、そのようなたわけたことを申すか。」

「カラスという身の上は、切のうございます。この姿。どこをとっても、嫌われ者でございます。まずは、この身体の色がよろしくありません。上から下まで真黒で。他の鳥の仲間でも家禽や愛玩される鳥たちとは違い、私がどんなに愛嬌を振りまいても、可愛いなどと言ってくれるものは、ほとんどおりませぬ。そのうえ、人間の周辺にまとわりつき、ゴミを漁り、死肉を喰らい、食い物が見つからないとなれば、仲間内で共食いなども致します。その残忍で容赦ない様(さま)は、我ながら、情けのうございます。」

「犬は、パグ犬は、そうではないと申すのだな?」

「はい!たいそう、羨ましゅうございます。店主のロビンさんに、それはそれは可愛がられております。あの愛嬌のある顔と飼い主ロビンさんを思う忠誠心。利口な振る舞い。人に媚びない猫のような尊大な気質を持ちつつも、気品と自信に満たされております。この嫌われ者の俺の生き方を変えた、いのちの電話 いえ、いのちの恩人です。」

「お前の気持ちはようわかった。じゃが、お前の望むようにはできないのだ。カラスのままで、愛されるようになるにはどうしたらよいか考えてみてはどうじゃ。」

「カラスのままではダメなのでございます。どうか、神様、マモル君のような犬にしてくださいとは申しません。でも、もし、もしお出来になりますならば、どうか、この足に、もう二本足をたしていただいて、四本足にしていただけないでしょうか。」

「何を申す。四本足のカラスなど聞いたことがないわ。」

「でも、神様。お言葉ですが、あなた様のお使いとして名高い八咫がらす様は、三本足でございましょう。そして、はるか海を渡った異国の地には、頭がカラス、身体が人間のカルラ様という神様もおると聞いております。三本足が良くて、四本足がいけないなどという理屈は通りませぬ。」

「お前はロビンのところのマモルと懇意になってからというもの、ずいぶん賢くなったようだな。」

神様は微笑みながら、そういうと ゆっくりと諭すように話し出した。

「じゃがな。おまえの申しておることは、創造主なる神を冒涜することでもあるのだぞ。カラスにはカラスの良さがあり、犬には犬の良さがある。それぞれ必要があってこの世に生を受けておる。それは、おまえたちには、容易にわからんだろうがな。まぁ、よかろう。おまえの良き業と賢さに免じて、おまえの望みを叶えてやろうと思う。幼き頃に両親を暴徒に襲われ、みなしごになったおまえだ。苦労の連続だったろうからな。」

「目を閉じよ。」

神様はそういうと、両手を広げ、そっと俺の身体を包み込んだ。

柔らかい光が覆い、馨しい香りが漂う。

数分も経っただろうか。

「目を開けよ。どうじゃ。」

羽毛に覆われていた下腹部には、今までの足に加え、更に、もう二本の足があった。

一、二、三、四、合計四本。

「どうじゃ。気に入ったか。」

「す、素晴らしい。ありがとうございます。神様。」

「よいか?四本足のカラスになったからには、もう二度と元のカラスの姿には戻れないのじゃぞ。その覚悟は出来ておるのだな。」

「はい!与えられたこの四本足でマモル君のように人間や動物を愛するカラス犬になります。」

「その決意しかと承った。決して弱音を吐くでないぞ。これは、お前が決めた道じゃ。」

(『ウナギイヌなるものは漫画では見たことがあるがのう。カラス犬などになって、あいつはどのような余生を送るつもりなのだろう。』)

神様はそう呟くと、金色の雲に乗り、はるか遠い天の御国へと戻って行った。

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俺は、生まれ変わった。

四本足のカラスになって、気高く生きるのだ。

第二の人生は、俺にとって、明るく輝いたものに思えた。

俺は、澄み渡る青空に向かって高く高く舞い上がる・・・・はずだった。

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重い。

身体がいつもと違う。

「いてぇ。」

飛ぼうとして大きく羽をひろげ、飛び立とうとしたにもかかわらず、地面に身体を叩きつけられた。

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しばらく、身動きできないでいると、

ランドセルを背負った小学生5~6人が通りかかった。

「あぁ、カラスだ。カラスが死んでる。」

「げぇ、気持ち悪いってば。ほっとけよ。」

「待って!ちょっと、見てよ。」

こざかしそうな男の子が叫んだ。

「ほら、このカラス。足が四本ある。」

ゲゲゲ

「うわぁ、なんだこいつ?」

「気持ちわりぃ。」

あちこちから、声があがる。

「だから、飛べなくて、ヨタヨタしているんだ。」

一番体格の良さそうな男の子が、俺の身体を棒で小突き出した。

「捕まえて焼き鳥にしてやろうか。」

「やめろよ。カラスは不吉な鳥だぞ。後から祟られたらどうするんだよ。」

「うん。うちのお父さんも言ってた。カラスは、後から集団で仕返しするって。

襲われたら大変だよ。」

ふん!

男の子は棒を投げ捨てると、

「行こう。つまんねぇや。」

と言って、集団の中に戻って行った。

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やがて、静寂が訪れる。

なんてこった。

でも、こんなことで負けてはいられない。

俺は、生まれ変わったんだ。

そう言い聞かせ、何度も何度も羽ばたき、その都度、地面に叩きつけられながら、やっとの思いでロビンさんの元に帰ることができた。

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「どどどどうしたんだよ。おまえ?その足。」

いなくなった俺を探していたロビンさんが、変わり果てた俺の姿を見て驚いていた。

(『おまえ、なんてこった。足が四本になってるぞ。なんか悪いもんでも食ったんじゃないだろうな。』)

マモルは、心配して今にも泣きそうな声で叫んだ。

(『ちっ、違うんだ。ごめんよ。心配かけて。これは、俺が望んだことなんだ。』

マモル・・俺、君のような四本足になって、もっともっとロビンさんやみんなのお役に立ちたかったんだよ。羽と嘴だけじゃ、空き缶一個しか運べない。ゴミ拾いもボランティアも二本足じゃぁ思うように出来なことばかりだろう。だから、カラス犬になって、みんなの力になりたかったんだ。でもでも・・・。

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俺は泣いた。

啼いたんじゃなく。

泣いた。

神様のいうとおりだった。

俺は、すべてを失った。

ただただ、ロビンさんとマモルと その周辺の人たちの愛と情けを受けるだけの 

情けないカラスになってしまった。

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そんな四本足のカラスが珍しいのだろう。

地元の新聞社が取材に来て、俺の写真を撮って行った。

また、ある時は、動物園の園長が引き取りたいと言って、有名な大学の先生を連れてやって来た。

○眼鏡をかけた先生は、俺をしげしげと眺めた後、

「環境汚染の影響でしょうか。カラスの突然変異かもしれませんね。どうもあちこち弱っているみたいですね。これは、引き取っても、どうしようもないでしょう。」

と言って、海老マヨとチャーハンを食って帰って行った。

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それから、ロビンさんは、四本足のカラスを飼っている中華料理店の店主として、有名になったが、本来の仕事が出来なくて、ほとほと困り果てていた。

その日も、取材に来たいというテレビ局の申し出をロビンさんが断っていた。

「途中から四本足に?それは珍しい。」

奇形のカラス・・

突然変異・・・・

環境汚染か!

何らかの異変の前触れか!

世間は、騒ぎ立てた。

「こいつは俺の家族だ。見世物じゃないぞ。」

しつこいテレビ局の要請に、ロビンさんは荒々しい言葉を発して電話を切った。

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俺は、空も飛べなくなり、やがて、嘴で啄むことも水を飲むこともできなくなった。

ロビンさんとマモルは、そんな俺を見守り、優しく介護してくれた。

「実の親にさえ、俺はこんなに世話しなかったぞ。」

なんて冗談を言いながら・・・弱る俺の身体を優しくさすり、時々涙をぬぐってくれた。

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春が来て夏が来て、秋がやって来て、もうじき、冬になりそうな

そんなある日のこと。

マモルが俺の枕元にやって来た。

「なぁ、おまえここに来て何年になる?」

「さぁなぁ、こうなってからは、申し訳なくて、数えておらんわ。」

「俺さぁ、そろそろ行かなきゃならないんだ。」

「行くって、どこに。ロビンさんには話したのか?」

「いや、まだなんだけどさ。ほら?俺 病気だったじゃん。どうも、それがさ。

よろしくないんだわ。」

「嘘つけ。おまえ、元気になったって言ってたじゃないか。」

「うん。一時的に良くなっただけでさ。元々あんまりよくないんだ。年だしさ。」

「馬鹿言うな。俺と違っておまえは、まだ・・・。」

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俺はハッとした。

襖を背にしているはずのマモルが透けているのだ。

どうりで、遠くの景色が鮮明だと思った。

「なぁ、おまえもさぁ。どうせなら一緒に行かないか?」

「・・・・そうだなぁ。そうしようか。俺もそう長くはないだろうな。

いつまでも、ロビンさんの情けにすがることもできないだろうし。」

「よし、決まった。一緒に行こう。今から身支度するわ。おまえもせい。」

俺は、身体中の力を振り絞って勢いよく立ち上がった。

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ん?

ふうわりと身体が宙に浮いた。

俺の真っ黒い身体が、透き通り、周りの景色に溶け込んでいる。

下を見ると、俺の抜け殻が、痩せてぺったりとなって床に横たわていた。

「俺って、こんなだったの?」

「あぁ、亡骸ってそんなもんさ。魂が抜けた後って、ぺたんこになるんだ。」

足の本数を確認したが、足は、四本ちゃんとついていた。

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もうじき、店にとって一番忙しい季節、冬がやって来る。

ロビンさんは、いつもと変わらぬ様子で掃除をしたり、仕込みの確認をしていた。

横顔はどこか哀愁を帯びていたが、その背中には、店を切り盛りする男の逞しさと優しさが溢れていた。

マモルは言った。

「ロビンさんは、男の中の男さ。」

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俺は、去り際に、戸口で マモルに声をかけた。

「なぁ、おまえ、ロビンさんに挨拶しなくていいの。」

「あぁ、いいんだ。俺は、またここにちょくちょく顔を出せるからね。ロビンさんには、俺たちが見えるんだ。」

マモルは、くしゃくしゃな顔を更にくしゃくしゃにして微笑んだ。

「そうなんだ。そいつは大助かりだ。」

「それにさ。ロビンさんには、時々、ちょっかいを出す悪い輩が来るんだよ。ほら、俺たちが初めて会った時のような性根の悪い幽霊がな。俺たちは、そいつらからロビンさんを守らなければならない。悪霊祓いの努めもあるのさ。」

「なんだよ。死んでからも忙しいのか?ゆっくり休めないのかよ。」

「おまえだって、ロビンさんが気になるだろう。時々は、来てみたいだろう?」

「そりゃそうだけど。いつも悪霊払いみたいなことばかりやらされるのは嫌だよ。」

「そんなことばかりじゃないさ。最近のロビンさん。いいことあったみたいだし。女にもモテモテみたいだし。

モテキ到来かもな。」

「けっ、そんなこと知らなかったぞ。少しは、俺にもおこぼれくれよ。」

そう言いながら、店を出た。

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俺は元気だった頃のように、電信柱の前のゴミの収集場に羽を休めた。

商店街は、黄昏とともに夜の顔を呈して来た。

隣に座り、フガフガフガ鼻息を立ててマモルが問う。

「そもそもおまえ、なんで四本足になったんだよ。」

俺は、今朝がた ロビンさんが捨てたであろう煙草の吸殻を口にくわえ、煙を吐く真似をした。

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「おまえのようになりたくてな。神様に四本足にしてもらったのよ。」

「ばかだなおまえ。本当に大ばか者だ。でも、そんなおまえが、俺は大好きだ。」

マモルは、そう言ってワンワンワンと吠えた。

が、

俺には、その声が 深い哀しみと憐れみと 自愛に満ちた 人間の泣き声

えんえんえんえん

と聞こえた。

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やっとマモルの涙も乾き、フガフガした鼻のつまりも、俺のガザガザした汚い翼も少し落ち着いて来た。

もうじき、夜の帳が降りる時刻がやってくる。

「これからどうするんだい。」

「それがなぁ。一旦、死出の旅に出なくちゃならないらしい。」

「死出の旅?ここから遠いのか。どのくらかかるのだ。」

「良く解らんが、俺たちのような幽体というか霊体は、ある場所に行かなきゃならんらしい。

なんでも、坂を上らなきゃならんのだそうだ。その坂を上りきった先が、あちらの世界。おまえは既に神様と会ってるからなぁ。解るだろう。そこだよ。」

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「坂かよ?」

「あぁ、その坂は、『よもつひらさか』といってな。亡くなったものが歩く坂だ。」

「俺はもう飛べないからな。この四本足で歩くしかないわけか。」

もうかつてのように、羽で高く飛べないと思うと、少し心細く、また淋しくも感じたが、俺は、気を取り直した。

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「でも、四本足だから歩くのは早いかもな。死んでるわけだし。それにおまえと一緒だ。淋しくないさ。」

「まぁ、急ぐ旅でもなかろうからな。知らぬものと同行するわけじゃないから。気が楽だ。」

しばし、沈黙が流れた。

いろんな思いがこみ上げる。

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「俺は、神様に出会ったら、カラスに生まれてきてよかったと言うよ。マモルやロビンさんに会えてよかったとね。」

「おぉ、俺もだ。犬、それもパグに生まれてきて本当に良かった。ロビンさんを通して、いろんな人に出会えた。釣りにも行ったし、旨いもんもたらふく食えた。チョーおっかねぇ思いも何度かしたけれど、いい思いもいっぱいしたよ。」

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やがて、一羽と一匹は、『よもつひらさか』に着いた。

思ったよりなだらかで、平坦な坂だった。

「さぁ、行くかね。」

マモルが言う。

「おぉ、いいことを思いついた。おまえに新しい名前を付けてやるよ。ヨタヨタしている四本足のカラス。八咫ガラス様をもじって、ヨタガラス。そうだ。それがいい。我ながらいいセンスしてるぜ。なぁ。『カラスのヨタ!』」

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「そいつはいいや。神様に頼んでみよう。八咫ガラス様の舎弟にしてくださいって。」

「ロビンさんと龍さんみたいな?」

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俺たちは、笑った。

腹がよじれ、内臓が飛びでるかと思うほどに。

笑い転げた。

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その日の『よもつひらさか』は、夕刻にもかかわらず、真昼のように明るく、繁華街のように賑やかだった。

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にゃにゃみ様
お嬢様とご一緒にお読みいただいたのですね。
ありがとうございました。
お読みいただいただけでなく、嬉しいコメントまで頂戴し感無量でございます。

感受性が豊かで繊細な心を持った長女様。
号泣させてしまってごめんなさいね。
「マモル君」と「ヨタ君」は、いつも傍にいて見守っていてくれていますから。
悲しまなくても大丈夫ですよ。
時々、地上に来ては、ロビン様やにゃにゃみ様や皆様のことを 応援してくれていますよ。
ほんわか、あったかい気持ちに包まれたときは、きっと、「マモル君」と「ヨタ君」が傍にいてくれているんだなって安心してくださいね。

なかなか、作品投稿できなくて 申し訳ございません。
もう少しお仕事が落ち着いたら、少しずつですが、またアップしていきたいと思います。
どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
だんだん、春めいてまいりましたね。
お元気でお過ごしください。

すごく、暖かく、また幻想的な気持ちになるお話でした。

マモルちゃんとヨタちゃんが、
すごく愛らしくて、長女に読むよう勧めたら、
号泣していました…。

素敵な作品、親子で楽しませていただきました。
ありがとう。

ケイ様

いつもお読みいただいてありがとうございます。
本作にも「怖い」ありがとうございました。
とても嬉しく存じます。
これからも、よろしくお願い申し上げます。

緋月様

いつもお読みいただいてありがとうございます。
「怖い」の評価 感謝申し上げます。
励みになりました。

清水白桃様

お読みいただいてありがとうございました。

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りこ様
「怖い」ありがとうございました。
ロビン様のアワード受賞に伴う祝祭楽しんでいただけて嬉しいです。
いつもお読みいただいて感謝申し上げます。

みぃねこ様
「怖い」ありがとうございました。
素敵なコメントありがとうござます。
はい!これからもいろんなジャンルにチャレンジしてみたいと思っております。
よろしくお願いいたします。

よもつひらさか様
「怖い」ありがとうございました。
長編になってしまい申し訳ございません。
また、後半に お名前をお借りしてお詫び申し上げます。
おかげさまで、ロビン祭りに華を添えることができました。
改めて御礼申し上げます。

麻衣子様
「怖い」ありがとうございました。
とても嬉しかったです。
麻衣子様の投稿作、完成度の高さに感心いたしました。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

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いいお話ですね♫
よもつ様の名前を出してくる所は流石です。

私は鳥類が大好きなので、作中に出てくるヨタ君はハシボソガラスかミヤマガラスだと思いました。ミヤマガラスは渡りもするので旅カラス、ハシボソガラスは頭が良くて単独で行動するカラスなんで。あん姫様も詳しのかと思ってしまいました。
無駄なコメント失礼いたしましたm(._.)m(笑)

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