中編4
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【祝祭】切り分ける食卓

朝から、俺の鼻腔を味噌汁のにおいが満たした。

「まーた味噌汁かよおい、たまにはカレーでも食わせろよブス!」

「はっ?作って貰っといて何言ってんのよこのハゲ!文句あんだったら食うなやデブ!」

気にしている一番痛い所を二つも突かれ、俺は激昂した。

「おい!今なんつった!テメーのクソ不味い飯を毎日毎日食わされる俺の身にもなれってんだよこの貧乳ケツデカマグロ女!」

「け、ケツデカマグロ!!」

まあ、このくらいはいつもやってる挨拶レベルの些細な日常会話(喧嘩)だったのだが、思いのほかヒートアップした彼女は言ってはならない一言を口にしてしまった。

「酷い!もういや!あんたなんか出てってよ!電脳ゾンビのクセに偉そうに!」

あーあ、遂にその言葉を言っちゃったのね。ゲームオーバーだ。

電脳ゾンビ取り扱い説明書、36頁に記載されている超重要禁止事項。

『何人であっても当施設以外において、電脳ゾンビに関する一切の情報を漏らしてはならない』

モロに規約違反だ。

※ 電脳ゾンビに関しての詳しい情報は、よもつひらさか先生の「張り詰める食卓」をご参照下さい。

案の定、俺の頭の中に埋め込まれたICチップが反応し、プログラミングされた博士からの指令がくだる。

『殺せ!!!』

俺は素早く彼女の喉笛に噛みつくと、そのまま骨ごと引きちぎった。

彼女は眼球が溢れ落ちそうなぐらいに目を見開き、エグれた首の穴から血泡と共にコヒュー、コヒューと空気を漏らして、必死に呼吸を続けようとしている。

密かに世間へ紛れ込み、必要のなくなった人間を抹殺する俺たち電脳ゾンビ。

俺たちが手を下す条件は三つある。

一つは、年齢四十歳以上。

二つ目は、ある一定の収入と地位を満たしていない底辺層の人間。

三つ目は、今回のように俺たち電脳ゾンビの存在を知り他言した者。口に出してもいけない。

俺は噛みちぎった妻の喉肉をゴクンと呑み込むと、次は肩にかぶりついた。

シャク、シャク、シャク、シャク

硬いな。

ごっくん!

次は胸。

シャク、シャク、シャク、シャク

柔いな。

ごっくん!

背中。

シャク、シャク、シャク、シャク

脂っぽい。

ごっくん!

腕。

シャク、シャク

ごっくん!

足。

シャク、シャク

ごっくん!

「あーあ、もう胴体と頭だけになっちゃった」

腹を裂き、新鮮な臓物をバケツへと移す。

下処理が面倒だがここが一番旨い、酒のアテにはもってこいだ。

俺はさっきまで妻だった残りの肉塊を食卓テーブルの上にドサリと乗せて、鋭い肉切り包丁を手に考えた。

久しぶりに喰う旨い食事だ、一気に食べてしまっては勿体無い。

「さーて、どう切り分けて保存しようかな?」

用意周到な俺はもしもの時を想定して特大冷蔵庫を二台準備していた。拳大に細かく切り分けてZIPROCKすれば、なんとか収まるだろう。

とりあえずテーブルの上で大まかに解体して、仕込み場所を風呂場へと変えた。

洗面台に妻の首を置き、浴槽一杯に氷を張った。そこへ血抜きした肉塊達を次々と放り込む。

シャワーをMAXにして流しているが、血の量が思いのほか多く、何度か滑ってタイルに頭を強く打ちつけてしまった。

頭を摩る。

頭皮が裂けて中の溶液が漏れ出したのか、バチバチと火花を上げているようだ。

しかもさっきから洗面台の上に置いてある妻の生首から、いたい…いたい…と啜り泣く声が聞こえる。

ICチップにスキャンされている生前の記憶を探ってみても、やはり死んだ人間が喋るという記録はないと出た。

『頭の破損には気をつけろ!』

アインシュタインの生き写しのような博士の言葉が脳裏をよぎる。

「やべ、壊れたかな?」

血塗れの顔を鏡に映す。

予想通り、俺の頭部からは赤い血に混ざり青い溶液がドクドクと漏れ出していた。

「ここまでか」

今から五年前、俺は白血病を患い25歳の若さでこの世を去った。

いや、去りかけた。

しかし、アメリカのNASAが昔から異星人と交わしている情報、技術、テクノロジーの遂を結集して開発された技術によって、生前の俺の記憶は小さなナノチップにスキャンされ、新しく身体を形成され蘇ったのだ。

今や世界的に深刻な問題である、人口大爆発の抑止を担うための殺人マシンとして。

だが、俺の身体は溢れ出した特殊な溶液によってみるみる溶かされていた。

既に頭のほぼ全体が溶けきり、中心に埋め込まれたナノチップに溶液がかかれば、電気信号がストップし、俺の思考も止まる。

俺は堪らず、その場に崩れ堕ちた。

もうタイムリミットも近い。

不思議な事に以前、死にかけた時に感じた死の恐怖が湧いてこない。博士が気を利かせて取り除いてくれているのだろうか?

「やっぱりあんたは馬鹿ね」

妻の声だ。

また記憶の「バグ」が原因での幻聴だろうか?

「電脳ゾンビは頭を潰さないと死なないのは知っているでしょ?男って本当に単純で鈍感で間抜けな生き物よねー、きゃははは!!」

浴室では、妻の狂ったような笑い声がいつまでも響いていた。

【了】

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