中編3
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返却

「堕ろしてよ」

俺の言葉を聞いて志保は理解ができないというような顔をした。

「え……どうして? 間違いなく優くんの子だよ……?」

理解が悪い女だな、と思いながら俺は言葉を探した。

「だってさ、俺達まだ学生だぜ? 育てられるわけないじゃん。学校辞めるわけにも行かないしさ」

「そんな……優君は嬉しくないの?」

遊びで付き合っていた女が妊娠して嬉しいわけがないだろう。

医学部の生徒で男慣れしてなさそうだったからちょっと遊んでやろうと思っていただけだ。

「そもそもさ、結婚の約束とかもした覚えないし、急にそんなこと言われても認められるわけないでしょ」

そう言うと志保は顔を伏せ、無言になった。

この女とも潮時だな……通い妻気取りで食事を作りに来るのも鬱陶しくなってきた頃合いだった。

「そういうことでさ、金なら少しは出してあげるから、ちゃちゃっと堕ろしちゃおうよ」

「……いらない。……そんな人だと思わなかった」

「あっそ、ならいい機会だし俺達終わりにしよっか」

志保は俯いたまま応えなかった。

「じゃあ俺次の講義の時間だしそろそろ行くね、なんかあったら連絡してよ」

そう言って俺は席を立った。

志保は最後までこっちを見ようとはしなかった。

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一ヶ月後、あれから連絡がなかった志保から電話があった。

「全部終わらせたよ。優君からもらったプレゼント全部返したいから、最後にご飯作りに行っていいかな?」

正直面倒くさかったが、それで気が済むならいいだろうと了承した。

確か安物のアクセサリーなんかをあげていたから、綺麗だったら次の女へのプレゼントに使えるかもしれない。

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その晩、大きめの鞄を抱えた志保が食材を持って一人暮らしの俺のアパートにやってきた。

食事をとり終え、ビールを飲んでいる俺の前で志保は鞄を開けた。

「今まありがとうね、こっちで処分しようかとも思ったんだけど、やっぱりきちんと返しておきたくて」

「ふうん、別に良かったのに。でもまあ、そう言うなら返してもらおうかな」

志保は鞄から一つ一つ大事そうに俺からのプレゼントを取り出した。

ネックレス、腕時計、髪留め……

あげた本人ですら忘れているようなものまで残さず持ってきたらしい。

数個のプレゼントが並ぶテーブルに志保は最後に最近では見なくなった黒いゴミ袋を取り出した。

「これが最後に優君からもらったプレゼントだよ」

そう言うと志保は愛おしそうな表情が浮かべて、黒いゴミ袋を撫でた。

ゴミ袋は撫でるままに形をぐにゃりと変えた。

何か嫌な予感を感じ、トイレに立とうとした俺はうまく立ち上がれずその場に倒れた。

「あれ……なんだこれ……」

体の動きが鈍い……

「ごめんね。こうでもしないと、優君ちゃんと受け取ってくれないと思って」

志保はそう言うと立ち上がり、台所へと向かった。

「私の中に返してあげたかったんだけど、よく考えたら元々は優君の中にいたんだもんね」

そう言いながら戻ってきた志保の手には包丁が握られていた。

薄れ行く意識の中で見た志保の表情は、母の慈愛に満ちていた。

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○月☓日未明、大学生の男性が暮らすアパートで一体の変死体が発見された。

男性の遺体の下腹部は切り裂かれ、堕胎されたと思われるバラバラの胎児の遺体が詰め込まれていた。

警察は怨恨での犯行が強いと考え、男性の周辺人間関係を捜査している。

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読んでくださった方、ありがとうございます。