16年11月怖話アワード受賞作品
長編25
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俺たちの罪と罰

エレベーターは音も振動もなく、静かに最上階で扉を開いた。

《7F 心療内科 隔離病棟》

俺は重い足取りで、歩き出す。

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昨夜の雨が嘘のように、眩しい日差しが病院の庭の芝生を照らしていた。

一番手前の病室の前に立ち、俺は深いため息を漏らす。

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《705 新藤 直人》

大学1年の時に知り合い、すぐに気が合った友人だ。

総合受付で借りたカードキーを、カードリーダーに当てると、“ピッッ”と機械音が鳴り施錠が外れる音がした。

個室には広すぎる部屋の真ん中に、直人はいる。

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薬が効いているのだろう…ぐっすりと眠っているようだ。

手首には昨夜、拘束されたのであろう跡が残っている。

(…と言うことは、あいつもか…)

俺は、座ることもせず部屋を出た。

さっきよりも、もっと深いため息をつき、更に奥へと歩き出す。

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隣の704号室を過ぎながら、目をやる。

《704 荒巻 美千留》

小学校からの親友、凉の彼女。

もちろん彼女とも小学校からのつきあいだが、凉を思うと、俺に今の美千留を見られたくはないだろうと、いつも入室せずにいた。

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《703 新川 すず》

同じ大学の俺の彼女。

部屋にはいると、直人と同じように点滴をされながら、ぐっすりと眠っている。

手首には、思った通り、直人と同じ跡があった。

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俺は、すずの隣に座り、やせ細った彼女の手を握った。

(どうしてこんなことに…俺たちが何をしたのか…)

もう何度、この言葉を繰り返してきただろう…その度に涙が出てきてしまう…

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一年前…午後の講義が休校、直人のバイトも休みということもあり、久しぶりに遊ぼうぜ!と、俺の家でゲームやらくだらない話しやらで盛り上がっていた。

…が、22:00頃にもなると、やることもなくなり、凉が美千留とすずを呼び出しドライブへ行こうと言い出した。

直人は「また俺が一人もんかよ」など言っていたが、そんなことはいつものこと。

それぞれの彼女たちを呼び出し、いざドライブへ!

どこの大学生もやっているようなことだ。

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俺たちの住むところは、コンビニも最近できたほどのまぁまぁな田舎。

目的地は、偶然俺と凉で見つけた山の上の神社。

舗装された坂道を登っていくと、左手に車が数台停めれる程度の広場が出てくる。

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その奥、生い茂った木々の間に

“よく見れば気づく”土に丸太を埋め込んだような階段が50段ほどあり、その頂上に神社がある。

その神社の祠の裏に周ると、都会の何万$の夜景とは程遠いが、田舎なりの夜景が見えた。

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車の中では、そこそこ盛り上がっていたものの、段々暗くなっていく道のりに、彼女たちが怖がり始めた。

「ねぇ、雨も降ってきたし、やめとこうよ」

「これくらいの雨なら大丈夫だって。むしろ、雨で夜景がきれいに見えるさ」

美千留が大好きな凉は、彼女を喜ばせることしか考えていない。

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目的地の広場に車を置き、外灯もない真っ暗な階段を、スマホの“懐中電灯アプリ”頼りにのぼり始めた。

一人あぶれものになっている直人は、気を利かす意味もあったのか、“恐怖”という神経がないのか、ホイホイと先頭を行き、階段の両端の木々を覗いて回ったり、小学生の遠足のようにはしゃいでいた。

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女性陣は、暗闇に目が慣れても、各々の彼氏の腕をガッツリ掴み、鋭い目つきで辺りを睨み付けていた。

俺と凉は、直人に気を使うこともなく、彼女たちに腕を組まれ、ほぼ横並びに登っていた。

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「お前ら変わってるよな。普通、怖かったら、目ぇつぶるもんじゃない?」

「見えない所で何か!とか、更に怖いじゃん」

「それ、気が強い証拠だな」

などと、本当に和気藹藹楽しみながら、頂上を目指した。

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目的の夜景は、凉の言った通り、小雨の粒がキラキラと効果をもたらし、怖がっていた彼女たちも満足したようだった。

異変は、帰りの下り道で起こった。

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隊列は、行きと全く同じで、直人が先頭で下にいた。

半分ほど下ったところで、直人が立ち止りキョロキョロしだした。

「なに、良い女でもみつけたか?」

アホなことを言いながら、俺たちも一段づつ降りていく。

直人もゆっくりと降りていく…

ちょうど、直人がキョロキョロし出した辺りで…

それが…その歌が聞こえた。

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俺たちは、固まってしまい、横一列に並んでいた。

ほんの一瞬だったのだろうが、数十分にも数時間にも感じた。

そして、先に立つ直人の雄叫びを聞いたのだ。

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その声が、まるで運動会のスターターのように、俺と凉は突っ走った。

片方では彼女の手を握り、空いた方の手で、凉と俺は直人の脇に手を突っ込み…

とにかく走った。

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広場の車に着き、もう歌声が聞こえてないことを確認すると、その場に全員でへこたれた。

息を整え、全員の無事を喜ぼうと周りを見渡すと…

3人は、焦点の合わない虚ろな目をして、ぶつぶつと何かを歌っていた。

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その後、3人はこの病院に入院し、俺と凉は

二人だけ無事だったことの後ろめたさから、疎遠になったのだ。

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ここに来るといつものことだが、ずっしりと重くなった気持ちと足取りのまま、受付でカードキーを返し、病院を出た。

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「ヒロ」

俺を呼ぶ声に、うなだれた頭をあげると、そこには凉がいた。

「受付でお前を見かけたからさ、待ってたんだよ」

そう言うと、いつも俺が飲んでいる缶コーヒーを渡してきた。

「時間あるか?」

俺は、一年ぶりに会話をする親友に、またもや涙が出そうになり、コクコクと頷くしかできなかった。

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病院内の庭のベンチに腰掛け、二人はしばらく黙って缶コーヒーを飲んでいたが、沈黙に耐えれず、俺から話しかけてみる。

「美千留の調子はどうなん?」

「すずちゃんと同じようなもんだよ」と答え、そのまま話を続けた。

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「俺さ、あれからすごく色々考えたんだけど。どうしても腑に落ちないんだよ。

なんで、あいつらだけがあんな事になったのか…

お前さ、あの日、例えばお守りとか、ばあちゃんの形見とか…そんなの持ってた?」

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「いや…ばあちゃん、生きてるし…」

「…だな。ごめん。」

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「あの神社だって、滅多に人がいかないってだけで、この辺の奴なら誰でも知ってるだろ?

あの祠の周りなんて、雑草一つないし、

誰かが頻繁に訪れて、清掃とかやってるってことだろ?

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今までだって、俺もお前も、直人だって、何度か一緒に行ったじゃん。

こんなこと一度もなかったし、変な噂も聞いたことないだろ?

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あいつらと俺たちの違いってなに?

よく言う“山の神様は女が嫌い”

とかだったとしてもさ、直人までああなるのはおかしいだろ?」

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一気に捲し立てた涼は、忘れていた呼吸を思い出し、深く息を吸った。

「それに…お前も…あの時の歌、聞こえたんだろ?」

俺は、黙って頷いた。

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「こういうのもさ、よくある話だと

“呪われた者だけがその歌を聞いた”

とかじゃん?

俺もお前も…全員聞いたのに、俺たちだけ無事なのは何でだよってさ…」

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そして、凉は少し声のトーンを落とし、

「それにさ…俺が腑に落ちないのは…ここもなんだよな」

そう言って、親指だけクイクイっと後ろの建物を指した。

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【神條総合病院】

こんな田舎には勿体ないほどに設備が整った、今風の総合病院。

確か、5年ほど前に設立されたはず。

しかし、この辺りの“神條”といえば、地主も地主、大地主で、今時でも“本家”だの“分家”だのある家柄だ。

この地に病院を建てることに、俺はそう違和感はなかった。

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「あいつらさ、いつもお見舞いに来たとき何してる?」

「宙を見ながら歌ってるな。あの歌…」

あの歌を、山で聞いた時に覚えたわけではない。

初めて見舞いに行った時、揃いも揃ってあいつらが歌っているのを聞いて、あの夜の恐怖がよみがえったのだ。

身体が覚えていた…そんな感じだった。

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「だろ?毎日毎日、歌を歌ってて、月に何度か何故か別室なのに、同じ日に暴れて、薬で眠らされている…それの繰り返しだろ?

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すずんちは分かんないけどさ、美千留の家はそう裕福ってほどでもない。

普通。普通のサラリーマン家庭。

で、直人の家は、お前も知っている通りだよな?」

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直人は、幼少期に父親を亡くし、母親と妹の母子家庭だった。

高校の時から、バイトをして、家計の一部を担っていた。

高校を卒業してすぐに働くと言ったそうだが、成績優秀な彼を

“大学へ行き、専門知識を身につけてから就職した方が、その後の人生の為になる”

そう言って担任に説得されたそうだ。

大学になってからは、バイトを掛け持ち、そのほとんどを母親に渡していた。

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「あいつらは、時々申し合わせたように暴れるとはいえ、普段はすごくおとなしい。

つまりさ、こんな設備の整った個室を与えられなくても、一人くらいなら自宅で見れなくもないよな?

美千留にしろ、直人にしろ…

こんないい病院の個室に、一年間も入院費を払える家庭ではないと思うんだよ。

…それにさ、夫婦でもない俺たちが、受付で名前書けば、すぐに隔離部屋の鍵もらえるのも変だろ?」

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後悔しては泣いて…ばかりを繰り返してきた俺とは違い、こいつは一年間、解決の糸口を考えていたんだ。

「俺さ、調べてみようと思ってるんだ。

一年経っても、あいつらがあのままってことはさ、この先もあのままの可能性あるだろ?

原因が分かれば、あいつらの助かる方法も分かるんじゃないかって…」

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(そうだな…お前、小学生の時からずっと美千留のこと好きだったもんな。

学校一美人に告られても、眉ひとつ動かさずフッてたし。

美千留と付き合えた日なんて、放送室のっとって校内放送で発表して、担任と美千留にめちゃくちゃ怒られてたよな…)

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俺だって、助けたい。

「俺は何をすればいい?」

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凉は山の上の神社を調べてみると言うので、俺は病院を調べてみると言った。

3日後、大学の近くのファミレスで落ち合うことを約束し、その日は別れた。

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(さて…調べると言ったものの、5年程しか経っていない病院の何を調べる?

何かが出てくるとも、大学生なんかの俺が調べれるとも思えない。

…となれば…医院長を調べてみるか)

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(昔からの金持ちとなれば、黒い噂だの悪行など…きっと出てくる!)

完全に庶民の妬みと偏見だが、一度そう思うとそれが真実のようにも思えてくる。

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俺は、近所に住む祖父母宅へ行き、神條家について聞いてみることにした。

久しぶりの孫の訪問に、祖父母は大喜びで、駄菓子だのサイダーだの…色々並べだした。

(俺…もう大学生なんだけど…)

と思いつつも、日頃から顔を出さない自分を反省した。

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一通り、世間話につきあったあと、いよいよ本題を切り出した。

不謹慎にもつい俺は

(来い!来い!溢れんばかりの悪い噂来い!)

と願っていた。

…が、祖父母の話は、そんな俺の願いを完全に裏切ってくれた。

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「神條さんのところは、昔っから学者さんやらお医者さんになる人が多かったね。

良い人ばっかりでねぇ、今の医院長先生のお爺さんなんて、私達が子どもの頃に、いっつもお世話になっとったんよ。

夜中に熱出しても、イヤな顔一つもせずに、すぐ見てくれてね。

本家さんも分家さんも…あそこの悪口を言う人はおらんよ。

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医院長先生のお父さんが、都会の方の大学の偉い先生になってね。

それで、本家のお屋敷を田町さんに任せて、一家で都会の方へ引っ越したんよ。

息子さんも、そっちのほうで偉い先生になったって聞いてたんだけど、こんな所にあんな立派な病院を建ててくれるなんてねぇ…

やっぱり、偉い人は偉いんだよ。

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え?田町さん?

代々、神條さんのお宅で働いているお手伝いさんよ。

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あそこは、庭師さんやら運転手さんやら、沢山雇ってるからね。

お手伝いさんのリーダーみたいなものかね」

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(なるほど…素晴らしさしか出てこない…

さて、どうすればいい…

病院が怪しいってのも、凉の憶測だし、こんなにいい人だから、あいつらを看てやってるとも考えられる)

そうは思いつつも、病院だって、慈善事業ではない。

同情だけで、退院の目途がたたない患者を受け入れるだろうか…

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「そっか…うーん…

ばあちゃんたちさ、その“本家さん”の電話番号なんて知らないよね?」

俺って本当に馬鹿だなぁ…

この二人が知っているはずがなかろう…

それに、電話番号を知ったところでどうする…

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「そんなの、電話帳見れば載ってるだろ…」

と祖父が電話を置いている台の扉を開けて、分厚い黄色表紙の本を出してきた。

「あそこほどの家なら、今でも載せてるやろ…」

そう言いながら、

「かみじょう…かみじょう…か…か…

あったあった。

本家さんなら、この神條さんだよ」

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そこには、いくつか並んだ《神條》の名前や、住所・電話番号がぎっしりと書かれていた。

「昔はどの家も、こうやって電話帳に載せてたんよ。

今は、載せる人も少なくなったってねぇ」

(なに、この個人情報の山…

昭和って…怖っっ)

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自宅に帰り、神條氏の自宅の番号が書かれたメモを、いつまでも見ていた。

(さて…まさか手に入るとは思っていなかったが…

こうして手に入ってしまった…どうする?)

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散々考えたが

(えぇい!無鉄砲も若さの特権。

これしか俺には残ってない)

呆れるほど無計画…

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長いコールの後、年配の女性がでた。

「神條でございます」

「俺…自分…私…吉野と申しますが、医院長先生お願いします」

「……旦那様はただ今留守にしております」

かなり怪しまれている。

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「あの、一度お話をさせてもらいたいのですが」

「…旦那様はお忙しいので…私がお伝えいたします」

(そりゃそうだよな…こんな電話がかかってきたら、俺だって替わらないな…

しかし、ここで切られたら、俺には何も手札がなくなってしまう)

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「自分、神條総合病院の7Fに入院している者の友人です」

“だから何?”

自分で突っ込んでしまった…愚かな俺…

が、しかし…少し沈黙したあと、相手は意外なことを言った。

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「少々お待ちください」

少しの間、保留音が流れ、

「お待たせいたしました。では、明後日の午後3時に、こちらに来ていただけますでしょうか」

あまりの驚きに、その後何と言って電話を切ったのかも覚えていない。

ただ、段々と激しい後悔が押し寄せてきた。

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(え?どういうこと?

あいつらのことを言った途端に、大病院の医院長様が時間を作るって…

やっぱり何かあるのか…

あるんだろうな…

あれ?俺、これってやっちゃってるよな…

そうだよ。普通“誰かを調べる”って、本人にバレないことが大前提だよな…)

明後日、凉に殴られる覚悟をした。

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待ち合わせのファミレスで、まず昼食をとった。

食事を終え、ドリンクバーから戻るのを合図に、本題へ入った。

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何の手柄もなく、むしろ余計なことしかしていない俺は、早く謝罪したくて、自分から話し出した。

祖父母から聞いただけの、何の足しにもならない俺の話を、凉は頷きながら真剣に聞いてくれた。

神條氏とアポがとれた事には、さすがに目を丸くして驚いていたが、

腕を組んで何か考えている様子で、

一人“うんうん”と頷くと

「いいかもしれない」

と言ってくれた。

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「じゃ、次は俺な。

お前さ、あの山の上のあれ。なんだと思う?」

「は?山の上って?あの神社のこと?」

すると、凉はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

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「じゃあさ、お前何を以ってあそこを神社だと思った?」

「何?めっちゃ偉そうじゃん。

あの祠だよ。あぁいうのは、神社にあるものじゃないの?」

「分かる、分かる。

じゃあ、神社のイメージって他に何?」

「あ?鳥居とか、狛犬?

…あっっ」

「な?確かに祠っぽいのはあるけど、それ以外の神社の定番みたいなのは、ないだろ?」

小憎たらしい顔をしながら、凉は続けた。

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「あそこ、どうも、神社じゃないんだよ。

《海龍庵》っていう“寺”みたいなんだ。

寺の名前って“○○寺”とか“○○院”とかだろ?

でも、昔はさ、この《庵》って書いてたんだよ。

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で、その海龍庵の住職じゃないけど…

管理者として誰の名前があったと思う?

“神條 宗一郎”

医院長のおじいちゃんみたいだな。

やっぱりなんだよ。

やっぱり、病院とあの山は無関係じゃないんだよ」

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凉は、そのことだけでも神條氏に聞く価値はある。

と、15:00の面会を喜んでくれた。

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長い廊下を歩き、いったいどのように判別できているのか、同じ障子をいくつも横切り、

一つの座敷に通された。

開け放された障子の向こうには、見事な日本庭園がまるで絵画のようにある。

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「なぁ、あの池…鯉が絶対いるよな?

俺、鯉より狭い部屋で寝てるのか…」

俺の情けない声を聞くと、涼はチラリと庭に目をやり

「大丈夫。

あそこの鯉は、きっと集団部屋だ。

個室をもらえてる以上、お前の勝ちだ」

…凉、お前いい奴だな…

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すっかり場に呑み込まれているところへ、スーツ姿の紳士とお盆を持った年配女性が入ってきた。

「お待たせいたしました。神條です」

学生の俺でも分かる、生地が良い上質なスーツの神條氏を見て、少しホッとした。

この佇まいから、和服にひげの怖いおじさんが来るかと思ったりもしていたからだ。

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お茶を出し終えた年配の女性は、机の端の方に控えめに座った。

ん?こういう時って、お茶出したら普通退室するもんじゃないのかな?

よっぽど俺が不思議そうに女性を見てしまっていたのか、神條氏は紹介をしてくれた。

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「こちらは田町さんと言って、代々うちのことをやってくれている方です。

君たちが知りたいことを、私より詳しく知っていることもあるんじゃなかろうかと、同席してもらってます」

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俺たちが知りたいこと…

この人は、全て察したうえで、俺たちを迎え入れたのだろうか…

今日、ここに来たことは、正しかったのか?

それとも…

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主に話を進めたのは凉だった。

凉は、あの日夜景が目的であの山に行ったこと、帰りに歌を聞いたこと、自分たちは段々と不信感を持ち、山のことなどを調べたこと…

全て、嘘偽りなく、一つの無駄もなく説明した。

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神條氏は、凉の目を見ながら、時折相槌をうち、最後まで誠意をもった様子で話を聞いていた。

そんな神條氏を見ていると、祖母の『神條一族は皆いい人』に納得できた。

話を聞き終えた神條氏は、静かに話し出した。

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「私が知っていることが、君たちが求めていることになるのかは分からないけど、私が知っている話を全てお話ししましょう」

深く息を吐き、神條氏は続けた。

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「昔…私の曽祖父が学生だった頃の話しです。

曽祖父は医者になるために、他県の学校へ行っていました。

ある年の長期休暇で帰省していた時のことです。

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その時期、この辺りは、雨に恵まれなかったり、そうかと思えば、台風が来たりと、全く作物が育たず、数年飢饉に襲われていたそうです。

今でこそ、車で数十分も走れば、そこそこの町に出ますが、当時はそんな訳にもいかず。

その集落単位で飢饉に合うことは、珍しいことではなかったようです。

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始めは助け合っていたご近所も、いよいよ人様どころではなくなってきた。

そうなると、決まって最初に犠牲になるのは、幼い子供です。

君たちも、授業なんかで、そういう事が行われてきたことは、聞いたことがあるでしょう…

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そのことが、曽祖父の耳に入ったようです。

曽祖父は、古くからうちに仕えてくれていたお手伝いの方…

この田町さんのおじいさんに

“今夜にでも我が子に手をかけそうな家庭”

を見つけてもらっていたそうです。

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うちは、昔から農業を生業としていませんでしたから…

この辺りだけの不作には、全く影響を受けなかったと言いますか…

まぁ、昔からの金持ちだったわけですよ」

人の良さが表れたように、彼は自嘲ぎみに言った。

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「当時の田町さんが、家人と話をつけたようです。

田町さんの話を了承した者は、その晩、家族でここの離れ…当時、曽祖父が一人で住んでいた、4人ほどなら十分に住めるほどのものです。

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その離れを訪れる。

そして、家族で腹いっぱい飯を食うのです。

腹が膨れれば、笑顔になる。

親が笑えば、子も笑う。

そして、夜も更け、子供が幸せに満ちて眠った頃…

今夜、犠牲になるはずだった子供を置いて、家族は裏口から帰って行く…」

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一瞬、意味が分からず、口を挟んでしまった。

「え!?曾お爺さんの目的は?」

神條氏は、笑みを浮かべつつも辛そうな表情で

「…わかりませんが…

曽祖父も医者を目指していた頃でしたから…」

それだけ、呟くほどの声で言った。

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「つまり…人体…じっけ…ん」

俺は、吐き気を感じた。

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「身内を庇うつもりではありませんが…

そう長い期間行われていたわけではありません。

曽祖父の休暇中の間で…

その後は、この地も元のように作物はとれるようになったようです。

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その後、曽祖父は医師の資格を取り、この地に帰ってきて、普通に生活をし、結婚をし、子供にも恵まれました。

あの時のことは、その家族、近所の者達も、暗黙の秘め事となっていたようです。

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調和のとれた“秘め事”に変化が訪れたのは、息子…

つまり、私の祖父の誕生によって…でした。

祖父は、生まれつき左手・足が少々不自由でした。

左足はいつも引きずるように歩き、左手はだらんと垂れたままです。

指先に問題はなく、右手で左手を机の上に乗せさえすれば、他の者と変わらず何でもできました。

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しかし、歩いてる祖父の姿は、一目瞭然でした。

そうすると…段々噂をし出す人たちが出てくるわけです。

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“あの子があんな姿に生まれたのは、父親の行いのせい”だと…

驚くのは、それを吹聴していたのは、主に自分の子供を連れてきていた家の者達だったとか…」

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そこで、今まで黙っていた田町さんが、涙声で声を荒げた。

「ひどい話しです。

うちの祖父が声をかけた家なんて、ほんの2~3件で、ほとんどが

“ここに子供を連れてくれば、腹いっぱい飯が食える”

と聞きつけて、自分たちで押しかけた人達だったんですよ」

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まるで、自分の家族の不名誉を訴えるかのように話す田町さんを、優しい眼差しで見ていた神條氏は

「親が一番辛かったのでしょう。

時が過ぎれば、飢饉も過ぎていく。

その一時の事で、我が子を犠牲にせねばならなかった。

飢饉が過ぎて、悔やまれることは、そのことばかりだったと思います。

誰かを悪者にしたかったのです。

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祖父は、自分に向けられる視線やヒソヒソ話しに気付きます。

そして、全てを知っているであろう田町さんへ詰め寄るのです。

祖父を不憫に思っていた田町さんは、全てを話しました。

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不思議なもので、当の本人…曽祖父の耳には入らないものなんですね。

だから、曽祖父は最後まで、息子への陰口、息子の悩みは知らないままだったようですよ。

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祖父の体と、曽祖父がやったことの因果関係は分からないままだったのですが…

自分の父親がしてきたことを全て知った祖父は、この事は、我が家の大罪と受け入れたようです。

自分の不自由な体も、父親の大罪のせいだと。

しかし、祖父は、このことについて、一切誰の事も責めませんでした。

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あの山…あそこは、うちの山です。

そして、この辺りの人が“神社”だと思い、君たちが“寺”だと調べてきた、あの祠は…

祖父が建てた、子供たちの“墓”です。

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もちろん、納骨などはされておりません。

当時、この集落内にあり、全てを知っていた《海龍庵》というお寺の和尚さんに、『魂入れ』をしていただいたそうです。

足が不自由な祖父が、足場の悪い山の上に墓を作ったことも、祖父なりの、自分への罰だったと思います。

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私も父も、この話しを聞かされ、よくあの山へ墓参りをしておりました。

都会の方へ引っ越してからは、この屋敷同様に、墓の管理も田町さんへお願いをしておりました」

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神條氏が話し終えた様子を見て、凉が切り出した。

「あの山が何なのか、それについては分かりました。

大変失礼なことをお聞きしてもいいでしょうか?

もちろん、本件と関係ないこと・言いたくないことなら、お答えいただかなくて大丈夫です。」

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「先生は、何故今になって、この地に帰って来られたのでしょうか?

都会の方でも、成功されていたと聞きますし、定年退職の歳から言うと、まだお若いですよね?

あの総合病院も、以前お勤めされていたところから多くの医師が来られている。

ということは、人間関係で辞められたわけでもなさそうですよね…?」

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一瞬、意味が分からない様子だった神條氏が

「あぁ…なるほど。

私が帰ってきたことと、お友だちがあの状態になったことは、全くの無関係ですよ。」

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そして、また神條氏は話し出すのだが、今までの話し方とは違い…

辛そうに、悲しそうに…

聞いてる方も辛くなるようだった。

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「私には、二人の娘がいましてね。

上の子は、おとなしく慎重派なんですが、下の子は…

好奇心旺盛で、やんちゃ者。

小さい頃なんて、何度菓子折り持って、余所のお宅に謝りに行ったか…

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ある時、私は海外へ長期出張がありまして。

その最中に、妻から電話があったんですよ。

“下の子が足を引きづって歩いている。

痛くはないと言っているけど、病院に行った方がいい?”と。

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“医者の嫁が、こんなところに電話までしてきて、何を言っているのか…”

そんな事をつい思ったりもして、私は深く考えなかった…

『あの子のことだ。またどこかで打つなりしたのだろう。

成長期の子供には、稀にあるものだ。

痛み出したら、病院に連れて行けばいいだろう』

そんなことを言って電話を切り、私はそのことはすっかり忘れてしまいました。

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出張から帰った日、いつもなら、お土産目当ての娘たちは必ず玄関まで迎えに来てくれるのです。

特に、妹の方は、“姉を踏みつけてでも一番にやってくる”

そんな子だったんですけどね…

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その日は、いつまでも姿を見せない。

少し気になった頃、妻に手を引かれやって来た彼女の姿を見て、私は卒倒しそうでした。

引きずる左足・だらんと垂れた左手…

祖父の姿と全く同じになっていたのですから。

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私は、娘たちの手を引き、出張帰りの姿そのままでこちらに…

あの山に来ました。

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まったく…医者が聞いて呆れるでしょう。

病院に連れて行くより、何より先に墓参りをしなければ。

そう思ったんですよ。

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そして、その判断が大きな間違いだったのです。

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こちらに着いた頃は、すっかり日が落ちてしまい、雨も降りだしていました。

足を引きずる娘に、足場の悪い山道を歩かせるのはためらいましたが、

祖父もその様にしてましたから…

ゆっくりゆっくり、下の子のペースに合わせ歩きました。

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あの通り、辺りは真っ暗です。

上の子は、私にしがみつき、ほとんど目を瞑っていたようです。

下の子は…こんな時でも好奇心が勝っていたようですが、その姿に少しホッとしたりもしていたんです。

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何とか、墓前に着き、私は必死に手を合わせ、謝りました。

娘たちも、意味は分からないままでも、父親の雰囲気から察したのでしょう。

神妙な面持ちで、手を合わせていました。

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帰り…下りは、さすがに危ないと思って、下の子はおんぶして帰ることにしました。

そして…あの歌を聞いたのです」

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(えっ?この人も、あの歌を聞いたの?)

これには、さすがの凉も驚き、取り乱した。

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「娘さん達は?

娘さんたちは、今どうなっているのですか!!!」

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神條氏は、悲しげに外を見つめ

「長女は医学部に進みました。

ゆくゆくは、あの病院を継いでくれるでしょう。

次女は…

次女は、お友だちと同じ階で、同じように毎日同じ歌を歌っていますよ」

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言葉がでない俺とは違い、凉は畳掛けるように神條氏に迫った。

「あなた方と、下の娘さんとの違いは何か分かりますか?」

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神條氏は静かに首を横に振った。

「長女は、歌が聞こえた時、私の片腕に顔をうずめるようにしていました。

次女の方は、背負っていたので分かりません。

とにかく、私は、長女の手を掴み、次女を落とさないようにしながら、慎重に山を下りました。

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私は、あの墓を粗末にしていたつもりはなかったのですが…

しかし、里帰りをしても、段々とあそこへは行かなくなりました。

粗末にしていたのも同然かもしれません。

祖父の言いつけすら忘れていたのですから。

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お友だちが、時折、申し合わせたように暴れる…

これに、法則性があることに気付いていますか?」

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(え!?法則性…?)

俺は、そんな事考えたことすらなかったので、皆目見当もつかなかった。

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「雨の夜…ですね?」

凉が静かに言葉を発すると、神條氏は黙って頷いた。

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「祖父は

“出来る限りここには来なさい。

ただ、雨の日には絶対に来てはならない”

と、いつも言っていました。

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いや、それは祖父が“あの歌”の事を知っていたということではなく。

祖父は、子供たちの家族にだけ、あの墓のことを話していたようです。

その家族は、祖父に感謝してくれたそうです。

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…が、ご近所の手前、堂々とはあそこには行けない。

まぁ、飢饉の時期に一人子供がいなくなってるわけですからね…

近所も、周知の事だったはずなんですけどね。

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そこで、家族は雨の日の夜にひっそりと、あの山に行っていたようです。

祖父は、その家族と会わないように、気を使ったに過ぎないと思います」

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「あの歌は…?

あの歌は何なのでしょう?」

この問いに答えたのは、田町さんだった。

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「置いて行かれた子供たちに、祖母が歌ってあげていた手まり歌です。

祖母が、嫁ぐ前に住んでいた里で歌われていたようです」

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この神條氏に、全く罪はない。

むしろ、隠しておきたいであろうことを、懺悔するように話してくれたことに、誠意は感じる。

…が、俺は無性にやるせなく、腹立たしい気持ちになった。

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「なぜ…

そんな体験をされ、あの山が危険なものだと予想できていたのなら…

なぜ、もっとこのことを広めてくれなかったのですか!

そんな危険な所と知っていれば、俺たちはあそこには行かなかった!」

意外にもそれに答えたのは、凉だった。

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「ばか。

今のご時世、九州の心霊スポットを、遠く北海道の人が知れるんだぞ。

危険だと知らせているところへ、わざわざ訪ねる連中もいる。

本当に危険な場所は、むしろ知れてはいけないもんじゃないの?」

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俺たちは、誠意をもって話してくれた神條氏にお礼を告げ、屋敷を後にした。

見送ってくれた神條氏に

「ご迷惑をおかけしますが、宜しくお願いします」

と、深々と頭を下げる凉に

「亭主かよwww」

と笑い、少し和んだ。

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それから、数日…

俺は何もする気になれず、自宅でゴロゴロとしていたが、ある日の夕方、凉からラインが来た。

『今日、あの山に行きたいんだ。

一緒に来てくれないか』

『は?何言ってんの?

これから雨降るらしいぞ』

『俺さ、この一年、何度もあの山行ったけど、雨の日に行ったことないんだよ。

頼むよ』

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『絶対無理だろ。

俺たちもあいつらみたいになったら、シャレになんないって』

『大丈夫だって。

何か思い出せるかもしれないじゃん』

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絶対に行きたくない。

しかし、ここで断るのは“裏切り者”のレッテルを貼られそうで、断る選択肢は俺にはなかった。

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山に着く頃には、予報通り雨が降り出していた。

凉は、前の直人のように、俺の数段先を行く。

なるほどな。

夜・雨・前を行く人…

シチュエーションが同じだと、あの日のことが鮮明に思い出される。

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山の上の“子供たちの墓”に手を合わせ、裏の夜景を無言のまま眺めていた。

「帰るか」

凉は何とはなしに言うが、俺は震えていた。

だって…

帰りは確実に、あの歌が聞こえるはずだ。

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しかし、登った以上、降りなければいけない。

むしろ、その為にここへ来たのだ。

凉は、やっぱり俺の前を行く。

俺は、あの日の光景が重なり、鼓動が早くなっていくのを感じた。

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(負けるな、俺。

手がかりだ。あの日、あの時何があった?

考えろ、俺。考えろ)

恐怖を払拭するため、全神経を集中させようとした。

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(ん?いや、違うな…

俺たちと、あいつらの相違点を考えるからわかんないんだ。

あいつ等の共通点はなんだ?)

おれは、たったこれだけの思いつきで、真相が分かったかのように、胸が高鳴った。

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服の色、あの日の行動…

俺が必死に思い出していると、凉がピタリと止まった。

一瞬で、全身に鳥肌がたつ。

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そうだ。あの付近だ。

今、凉にはあの歌が聞こえているんだ…

怖い…怖い…行きたくない…行きたくない…

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固まる俺とは違い、凉はまた歩き出す。

俺も慌てて、前に出る。

(集中だ。集中。

きっと、答えが出る)

…歌声が聞こえだした。

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恐怖と、出そうな答えとの間を、振り子のようにぶらんぶらんしていると、凉が話しかけてきた。

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「お前さぁ、すずちゃんと付き合ってどれくらい?」

「は?

(こいつ、なに落ち着いてんの?それどころじゃないんだよ)

んーと…1年と3ヵ月くらい?」

「まじ?

じゃあさ、一年前にあんなことなかったら、もう別れてたかもじゃん?

お前、長続きしないしさ」

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「お前がしつこすぎるんだよ」

「あぁ、かもな。

俺、まじで美千留いないとムリ。

この一年で思い知った。

でも、お前はそうじゃないじゃん」

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「はぁ?」

俺は、凉の言葉にイラッとしたが、もう出て来てそうな答えに集中することに努めた。

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(恐れ知らずであちこち覗いていた直人。

心底怖がっていた二人…

共通点なんてあるのか?

あるはずだ。

考えろ)

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「お前さ、もうあの病院には行くなよ。

もうさ、あいつらのお見舞いは行くな」

「はぁ?

なんなの?お前さっきから。

ちょっと黙ってろよ」

考えはまとまらない、凉は変なことを言いだす、歌は聞こえている…

頭がどうにかなりそうだった。

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「考えたらさ、お前がこれ以上、巻き込まれることなんてないんだよ。

もともと、あの日言い出したのは俺だし」

恐怖とは違う鼓動がする。

嫌な予感しかしない。

早く…早く答えを見つけなければ…

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焦る俺に、神條氏の一つの言葉が蘇った。

『下の子は…

好奇心旺盛で、やんちゃ者。』

…好奇心旺盛…

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うろちょろ・きょろきょろしていた直人、怖いくせにあちこちを見渡していた美千留とすず、好奇心旺盛な次女…

俺たちがやっておらず、彼らがしたこと…

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凉は更に話し続ける。

「医院長の話し聞いて、確信したんだ。

あいつらはもう戻っては来ない。

子どもたちは、雨の日に来てくれた家族が恋しかったんだ。

“もう、おいていかないでくれ”と。

ってことはさ、子供たちがもう手放すわけない」

そう言いながら、凉がゆっくりと振り返る。

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あいつらがして、俺たちがしなかったこと…

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「凉、こっち見るな!!!」

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凉は、俺の目を見て、

「ごめんな…」

それだけ言うと、目線を俺の背後にやり、目を見開き、あの時の直人のように雄叫びをあげた。

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何かがいる。

俺の後ろに何かがいる…

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振り返る勇気は持てず、凉の首根っこを掴み、とにかく走った。

途中でずたぼろになっているであろう凉のことなど、思いやる余裕もなかった。

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あれから数週間後、俺は神條家の客間にいる。

神條氏から連絡があったのだ。

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凉はあの日…俺と最後にあった日、神條氏に手紙を送っていたそうだ。

内容は、これからの行いへの謝罪と、俺が今後面会に行けないようにすること。

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神條氏からは

「私も、鈴木君の言う通りだと思います。

貴方だけでも、彼らの為にも…

もう、関わらない方がいい」

そう言われた。

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凉と美千留は、神條氏の配慮で、同部屋にされたそうだ。

「二人で、ずっと子守唄を歌っているよ…

とても幸せそうだから」

そう聞かされ、とても複雑な気持ちになった。

凉が、神條氏に別れ際に言った言葉は、美千留の事でなく、自分のことだったんだな…

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見送りに出てくれた神條氏と、大きな大きな、庭を二人で歩いていた。

この神條氏に、罪はない。

むしろ、俺なんかより被害者だ。

しかし…

どうしても、やるせない怒りが込みあがってくる…

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「彼らの罪は何だったのでしょうか…

俺の罰は…何なのでしょうか…」

神條氏は、何も言わず、ずっと頭を下げていた。

俺も何も言わず、頭を下げた。

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俺は、この土地を出ることに決めた。

あれからずっと、後ろから子供たちの歌声が聞こえるんだ。

きっとこれが、俺の罰なのだろう…

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むぅ様、コメント・怖ポチをありがとうございます。

それは…怪奇現象ではなく、長ったらしい私の書き方に睡眠効果があったのでは…(´д`|||)
なんて言いますと、むぅ様が気を使われてしまいますね(*´ω`*)
それでも、何度も訪れていただいたこと、励みになるほど嬉しいです。
…いったい、どの様な夢だったのでしょう(((((((・・;)
まさか、歌が聞こえてしまった…とか…

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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ミート君様、コメント・怖ポチをありがとうございます。

なんだか…とても嬉しく恥ずかしく…でもやっぱり嬉しいコメントをありがとうございます(///∇///)
思わず、私が以前書いた、他の方への作品コメントを読み直してしまいました。

ミート君様が仰っていただいた様な人物像とは、遠くかけ離れておりますが…
ボロが出ないよう、こちらでの皆様との関わりを大切にしたいと改めて思いました。

私の方こそ、前作に続き、ご評価いただきましたこと、本当に本当に有り難く思っております。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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ますゆう様、コメント・怖ポチをありがとうございます。

一行一行すべて、とても嬉しいお言葉でした(*´ω`*)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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るん様。
コメント・怖ポチをありがとうございます。
ラストの締めにいつも悩むので…
『いい後味』
…素敵な誉め言葉をありがとうございます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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いい後味ですね!

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mamiさん、ご無沙汰しております。
興味本意、不安、恐怖、後悔、悲観、様々な思いが交わる。まさに【罪】と【罰】ですね。
あの【一つの真実】と並び、物語の一つ一つに入り込んでしまいました!
同じく書籍として出しても頷ける、mamiさんの作品は作家レベルです!
ありがとうございましたm(__)m

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