中編3
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赤ちゃん

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これは、私が高校生の頃に体験した話です。

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当時の私は、変に親への反抗意識もあったため、深夜部屋から抜け出して友人と明け方まで遊び回るのが日課になっていました。その日もいつものように家を抜け出し、友人の先輩が運転する車で目的地へ。

私が通っていた学校は家から少し遠かったのですが、その学校の近くにあった公園が私たちの溜まり場でした。到着すると、いつも話したり馬鹿をやるベンチまで足を運び、その日は適当に談笑をしていました。

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2時間ほど経った頃。友人が私をトイレに誘います。

『トイレ行こう?』

「行ってらっしゃい。」

『嫌や!怖い!』

「じゃあ漏らせ。」

なんてやり取りをしつつ、私と友人はトイレへ向かいました。

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友人のトイレを待っていた私の耳に一瞬、赤ちゃんの泣き声が聞こえました。

≪___?気のせいか。≫

そう思った矢先、次は確実に先程より大きな声で泣く赤ちゃんの声が聞こえます。

≪……。水子さんかな。今日は、帰った方が良さそう。≫

トイレを済ませ、出て来た友人とみんなの待つ場所へ向かおうとしたその瞬間、頭を割るような痛みが私を襲い、思わずその場にしゃがみこんでしまいました。

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__ズキン、ズキン

__おぎゃあ、おぎゃあ

__ズキン、ズキン、ズキン

__おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ

声がどんどん大きくなって、近付いてくるのが分かりました。

__んぎゃあああああああああああああああああ!!!

耳元で聞こえたその声で、私は気を失いました。

次に目を覚ましたのは友人の運転する車の中です。

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心配そうに声をかける友人たちには、貧血だ。と告げました。

≪…霊障なんて言っても混乱させてしまう。≫

自宅へついたのは午前4時頃。屋根を伝って、自室へ入った私は自分の家へ帰れたことの安堵から、ホッとため息を付きました。

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バンッッッッ!!!!!!

勢い良く開かれた扉に大きく身体を跳ねさせると、そこには母が立っていました。

≪うわ、ヤバ。怒られる。深夜外出、殺される。≫

私は謝罪の言葉を脳内でグルグル巡らせていたのですが、母から出たのは意外な一言でした。

『アンタ、何背負ってんの。どこで拾って来たん。』

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母がいうには、私は背中に赤ちゃんを背負っていたそうです。

寝ていた母は、急に脳内に響いた赤ちゃんの泣き声に飛び起き、私の部屋へ来たんだとか。除霊…とまではいいませんが、母はそういう力も多少あるので、塩をぶっかけられ、背中を叩かれ、その赤ちゃんの霊はどこかへ去って行ったそうです。

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後日、学校では全校集会が開かれました。

在学中の私たちの先輩の一人が逮捕されたためです。

容疑は「死体遺棄」

その先輩は、学校のトイレで乳児を出産。しかし、親や学校にバレるのを恐れ、学校の近くにある、あの公園へ死体を捨てたとのことでした。

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私が聞いたのは、その赤ちゃんの泣き声だったのか。

そもそも遺棄されたのはあの一件があった後だったのに。

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母があの日言った一言。

『悪霊に近かったで。危ない。』

…あの赤ちゃんの行く末は、私には知る由もありません。

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>セレーノ様
コメントありがとうございます。

セレーノ様のそのお話し…
とても心が痛む内容ですね…無数の、生きるべき命が身勝手な理由で絶たれてしまったのだと思うと、悲しみよりも憤りの方が強く、辛抱堪らない気持ちになります。人の生き死にに関わっている仕事故か、こう云ったニュースや出来事、事件にとても敏感になってしまいました。聞きなれたフレーズですが「生きたくても生きられない子だってこの世にはたくさんいるのに…」と本気で痛感します。

温かいお言葉、本当に感謝です。
私のようなヒトでも、彼らにとっての「なにかしら」になっているのであれば、とても嬉しく思います。

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>むぅ様
コメントありがとうございます。

子供が子供をおもちゃのように育てる現状が今や当たり前になりつつある現代において、こういった子供たちの無き魂の叫びはあちこちに漂っているのだと思います。

私に何かしてあげられることがあれば。
なんて浅はかなことを考えてしまう自分にも聊か、憤りを感じますが…
こんな悲痛な子供たちの叫びを二度と聞きたくない。
そう思っても、この体質で生まれてしまった私は、やっぱりその声を聞いてしまうのです。
とても、悲しい話です。

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>mami様
コメントありがとうございます。

本来は祝福されて、この世に生を受けるべき対象でありながら、こんな非情な事件が年々増加していっており、子供の霊を多々見ることもある私は、その度に自分の無力感を感じます。

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>鏡水花様
コメントありがとうございます。

恨みを込めて私に憑いて来たのか、助けを求めて憑いて来たのか…
そこについても謎のままなのですが、憑いてこられても何もしてあげられない。
こういう時に、自分の見える体質を呪いたくなるんです。
何も出来ないなら、こんな能力を私に授けないで欲しかった。と。

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>月舟様
コメントありがとうございます。

私が聞いた泣き声は、その赤ちゃんのものだったのか、また別の件だったのか。そこまでは分かりません。ですが、このご時世において虐待やネグレクトが日常茶飯事に行われている今、どんなタイミングで幼児の声を聞いてもおかしくないと思うのです。そう思うと、実に悲しい体験でした。

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>ろっこめ様
コメントありがとうございます。
この一連の事件の真相はあまり明かされていないのですが、どうやら死産(流産)だったようなので、出産後は既に亡くなっていたのだと思います。

その後、先輩がどのような措置を取られ、現在どのように生きているのかは分かりませんが、例え死産であったとしても、遺棄なんで外道も外道に行為を未成年の過ちで片づけてはいけないと私も感じております。

輪廻転生を信じる私としては、水子のなったその赤ちゃんが、今はどこかで幸せに暮らしていれば良いな…と願うばかりです。

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