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フォトグラフ 【A子シリーズ】

中編7
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フォトグラフ 【A子シリーズ】

大学生活も最後の年に入り、比較的のんきな私も、いよいよ卒業に向けた準備をし始めた春の昼下がり───。

キャンパス内をとぼとぼと歩いていると、背後から明るい声で私を呼ぶ声がしました。

「せ~んぱいっ☆」

声の主は私の前に回り込み、私を少し見下ろすように顔を近づけてきました。

「あぁ……月舟さん」

卒論のことで頭が一杯の私が力なく笑うと、月舟さんは眩しい笑顔をしかめ、ぷぅっと頬を膨らませて私に言います。

「どうしたんですか?元気ないですねぇ……」

ついこないだまで貞子ってたとは思えないほど、劇的に変わった月舟さん。

顔の周りにキラキラがちらついているように見えますが、これには匠もビックリです。

「そんなことないよ……月舟さんは元気そうでいいね」

「やだなぁ~ツッキーでいいですよ?」

いや、月舟さんって呼ばせて。

「そうそう!ワタシ、写真のモデルになったんですよ~」

あぁ…そう……。

それどころじゃない私を無視し、バッグをゴソゴソやる月舟さんが、私をチラ見して言います。

「見たいですか?」

「いや……べ」

そう言いかけたところで月舟さんを見ると、物凄い形相で私に圧をかけています。

月舟さん、貞子出てきてるよ……。

「わ、わぁ……見た~い」

だいぶ、こういうことに慣れてきた自分に呆れつつ、月舟さんに対してご機嫌を取ります。

「もぉ~ぅ!しょうがないなぁ~」

コロッと顔が戻り、写真を探す月舟さんを見ながら、私は一つ溜め息を漏らしました。

めんどくさ……。

「コレですっ!!」

私に突き出した写真を社交辞令で見てみると、被写体の月舟さんは確かに可愛く撮れていましたが、何かがおかしい……でも、この違和感の正体はすぐに分かりました。

写真の中の月舟さんのあるべきはずのスラリとした足が、行方不明になっています。

「月舟さん、これ……変じゃない?ほら、ここのところ!」

「ヒドイなぁ、せんぱい……変なトコなんてな……ホンマや!!」

月舟さんのベタ過ぎるリアクションと、THE天然に言葉もない私。

「どうしよう!!足が、足がクララみたいになっちゃう!!」

それはそうと、クララの足はもげてはいないからね。

取り乱す月舟さんをどう落ち着かせるか、私が何となく考えていると、背後からあの声がします。

「楽しそうだね。何かイイコトあったの?」

よく見てよ!私はめちゃめちゃ困ってるんだよ‼

「A子せんぱ~い……」

月舟さんがA子にすがり付くと、A子は月舟さんに不信感全開で言います。

「アンタ……誰?」

「もぉ~……A子せ~んぱ~い……」

涙目でプルプルする月舟さんが哀れ過ぎて、私もつい口を挟みました。

「ほら、ツッキーだよ!」

「だから、誰?」

しっかりしなさいよ!!名付け親!!!!

「元オカルト研究会の!」

「そんなもん、もうないじゃん」

「一緒に廃校に行ったじゃん!!」

「廃校ぉ?何処のよ?」

コイツ、マジか……今度、雪さんに診てもらわなきゃだな……。

「A子せんぱい……ヒドイですよぉ~」

ほら、泣いちゃったじゃん……こんなにインパクトのある後輩、なかなか……そうか!!

私は咄嗟に閃いたことを試すため、俯いている月舟さんを呼びました。

「ねぇ、月舟さん」

私に呼ばれ、ゆっくりと顔を持ち上げた月舟さんは、私の予想通り、あの顔になっていました。

「あ!貞子じゃん!!何してんの?こんなトコで」

貞子ではないよ、雰囲気はあるけど……ってか、あなたが名付けた『ツッキー』は何処に行ったのよ?

「A子せんぱい、コレ見てください」

月舟さんが例の写真を見せると、A子は「あぁ」と関心なさげに呟いてから言いました。

「心配ないよ。ただ通りすがりのヤツが写りこんだだけ」

A子がそう言って写真に手をかざした後、手を退かして見ると、月舟さんの足の前を、頭から血を流した男の人がほふく前進していました。

「ほらね、心配ない」

ほらね、じゃないよ!!恐怖度が倍増してんじゃん!!

「何や、楽しそうやね?ウチも混ぜてぇな」

そう言いながら、私の肩に手を乗せてきたのは、雪さんでした。

「お久しぶりです」

私がめちゃめちゃ近い雪さんの顔に会釈すると、雪さんはニッコリ笑って言います。

「ホンマやね。なかなか会われへんから心配してたんよ。またA子に振り回されとるん違うかて」

雪さん、ご明察です。

「失礼だなぁ、アタシらは変わらず仲良くしてるよ」

『変わらず』だけは合ってる。

「せんぱい、あの人、誰ですか?」

雪さんの登場で、月舟さんが恥ずかしそうにこそこそと私に耳打ちしてきます。

「あぁ、医学部の雪さんだよ」

月舟さんはA子と親しげな雪さんが気になっている様子で、雪さんをチラチラ見ています。

「あれっ!?この可愛い子は誰なん?」

月舟さんの視線に気づいた雪さんが、月舟さんを指差して言うと、隠しきれない嬉しさ全開で身をくねらせて言います。

「可愛いだなんて、そんなことないですよぉ♪ワタシ、文学部二年の月舟さや子です!!ヨロシクです!雪せんぱい!!」

雪さんは、そんな月舟さんを見て、豪快に笑いながら、うんうん頷きます。

「オモロイ子やなぁ!こっちこそよろしゅうな!!ツッキー」

雪さんもA子とセンスが同じだ……。

「はいっ!!」

月舟さん……ツッキー気に入ってるんだ……。

若い女が四人でワイワイやってると、通りすがりの女性から、声をかけられました。

「さや子ちゃん、もうすぐ講義始まっちゃうよ?」

四人が声の主に目を向けると、見覚えのある顔に、思わず声が出ました。

「いさ美さん!」

私が声をかけると、いさ美さんも私に気づいて笑顔になります。

「その節は、ありがとうございました」

「いやいや、もう身体は平気?」

「えぇ、お陰さまで」

私といさ美さんの会話を聞いて、雪さんが興味ありそうに会話に入ってきます。

「なんや、この子もかいな!いろいろあちこちで手広くやってんなぁ」

手広くって……別に仕事じゃないですけどね。

「いさ美ちゃんもせんぱい達と知り合いだったんだ」

「うん、ちょっと……ね」

月舟さんの言葉に、流石のいさ美さんも言いづらそうに俯きます。

「まぁ、アレだ!ここにいる人間は、少なからずA子と何かしら関わってるっちゅうことやな!」

微妙な空気をぶち破る雪さんの声で、陰り始めた雰囲気が戻りました。

ナイス!雪さん!!

「じゃあ、皆で写真撮りましょうよ!!」

そう言いながら、月舟さんがバッグをゴソゴソやって、満面の笑みで何かを取り出します。

「テッテレ~♪デ~ジ~カ~メ~!!」

それ、バッテリー入ってるんでしょうね?

私はあの時の出来事を思い出し、ちょっと心配になりましたが、今回は大丈夫みたいです。

「さぁ、皆さん!並んで並んで♪」

月舟さんの指示の下、私達は中庭の噴水をバックにして並びました。

一番背が高い雪さんが向かって左端、その隣にA子、雪さんとA子の前にチビの私が立ち、私の隣にいさ美さんが立ちました。

「はいっ!じゃあ撮りまぁす!」

「ちょっと待って!さや子ちゃん!!」

カメラを構える月舟さんに、いさ美さんが待ったをかけます。

「さや子ちゃんは入らないの?」

いさ美さんの言葉で、ハッとした月舟さんが軽めの動揺をしながら言いました。

「や、ヤだなぁ~ワタシも入るに決まってるじゃん……」

いさ美さんが止めなかったら、絶対あのまま撮ってただろうね。

「タイマーをセットして……っと、じゃあいきまぁ~す!!」

月舟さんがシャッターを押し、急いで並ぼうとすると、列に並ぶ前にシャッターが切れました。

「あ~ん……やっぱ2秒じゃムリだったか」

2秒じゃ、 たぶんボルトもムリだよ……。

「ちょっ、ツッキー!早よしてぇや」

関西人の雪さんが急き立てると、月舟さんは例のあの顔で雪さんを睨みます。

「うわっ!!ツッキー、めっちゃ怖っ!!」

コレでもマシになったんですよ?

気を取り直して、セットし直し、今度はキレイに収まります。

「いい記念になりましたねぇ」

「ホンマやな……なかなか写真なんか撮らへんから、ウチも久々に撮ったわ。ありがとな、ツッキー」

プリントしたら皆に配るという約束をして、その場は解散になりました。

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数日後、私の前にいさ美さんが写真を持ってやって来ました。

「先輩、この間の写真なんですが……」

何だか歯切れの悪いいさ美さんに、私は笑顔で訊きます。

「どうしたの?」

いさ美さんは私の問いには答えず、あの時の写真を見せてくれました。

左端の雪さん、A子、月舟さん……そして、いさ美さんと私、キレイに撮れていますが、数が合っていません。

私といさ美さんの間に、私のスカンツの裾を掴んで、はにかんでいる見覚えのある女の子がその場にいるように写っていました。

「はとちゃんだ……」

私の呟きが聴こえたいさ美さんが、私に問いかけます。

「知ってる子ですか?」

「う~……ん、知ってるけど知らない子」

私のどっちとも取れない答えに、いさ美さんは首を傾げました。

「でも、この子……何だかスゴく先輩になついてますね」

「私、独り暮らしこじらせて産んじゃったのかな?あははは」

そんな冗談を言いながら、私が笑ってごまかすと、いさ美ちゃんも一緒に笑います。

「そうかも知れませんね」

ここは、さりげなく否定して欲しかった……。

素直すぎるいさ美ちゃんに地味に傷ついた私が、もう一度写真を見ると、写真の中のはとちゃんが一層ニッコリ笑ったように見えたのは、また別の話です。

Concrete
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