ゴーストポリス3(その6)

長編8
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ゴーストポリス3(その6)

ロンドン市街 とあるホテル──。

 捜査会議から数時間後の午前1時過ぎ。

 ばけものがかり達だけが持つGPバッジが、一斉に赤い光を激しく明滅させた。

 そんなスクランブルの真っ只中、呑気に夢の中へとランナウェイしていたチカゲの額をペチペチ叩く者がいる。

 「……ふぁ」

 夢の世界から引き戻されたチカゲが目を開けると、ユキザワがニンマリと笑いながら見下ろしていた。

 「……ハッ!!ししし室長!!何でここに?!」

 「気持ちよぅ寝てたトコすまんが出動や……てか、何でパジャマ着とるん?」

 チカゲが着ていたピンク地にマングースがあしらわれたプリントパジャマを苦笑しながら見つめるユキザワに、チカゲは慌てて弁明する。

 「ちちちち違うんですよ!これはですね!……たまたま、そう!たまたまです!!」

 「何でもエエから早うしぃ……40秒で支度せぇよ?」

 「はいっ!」

 部屋から出るユキザワを見送りながら、素早く着替えたチカゲは、ユキザワがロックされた部屋にどうやって入ってきたのか考えた。

 そして、その答えは外れたドアノブが静かに物語っていた。

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 ホテルの外には既に捜査官達が揃っており、充電済みのえだまめ1号が一番後から現れた。

 「揃ったようだな!皆の衆!!」

 「お前が一番遅いんだよ!早く現場にナビゲートしろよ!!」

 「まぁまぁ、ムトウさん。その怒りは相手にぶつけましょうよ」

 えだまめ1号の安定の低スピードにイラつくムトウをハトムラが優しくなだめる。

 「アマノ、ちゃっちゃと場所を教えたれや……ムトウのモチベーションが下がってまう前に」

 ユキザワの命令で、心なしかキリッとした顔になったえだまめ1号が言う。

 「了解です!!場所はセント・ポール大聖堂!!移動手段は手配済みです!!」

 えだまめ1号が言い終わるのと同時に、一台のタクシーが猛スピードで走ってきて、ばけものがかりの前に横付けした。

 「お客さん!ロンドン最速のオイラに任せな!」

 運転席からドヤ顔を出した白人の優男がサムズアップで「乗れ」と促す。

 「犬っころはどうすんだ?乗れねぇぞ?」

 セダン型の車を見たムトウの心配を、えだまめ1号は豪快に笑い飛ばした。

 「案ずるなオッサン!わたしは飛んでいく!!」

 すると、えだまめ1号は四肢を横に伸ばしながら体を沈め、左右の前後足の間の空間を膜のようなものがシャッターを閉めるように塞いだ。

 「では、現場で会おう!!アイ!キャン!フラーイ!!」

 そう言うと、シュゴゴゴゴという轟音を響かせながら、えだまめ1号は空へと飛び立った。

 「ヌコせんぱい!カッケー!!」

 犬が空を飛ぶという画期的な状況を呆然と見送っていると、既に乗り込んだユキザワが発破をかける。

 「オマエら!はよ乗れや!追うで?」

 「「「あ……はいっ!!」」」

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 道交法アウトな荒ぶる運転で現場に到着したユキザワ以下の数名の捜査官達が車を降りると、ドライバーの優男は指をスリスリしてユキザワに言う。

 「お客さん?都会のシステムを知らねぇのかい?」

 ゲス顔の優男にニッコリ微笑みを返しながら、ユキザワが「せやったな」と、親指と人差し指で摘まんだ半開きの窓を水飴のようにパキンと折り取ってみせた。

 「ゲンコツでエェか?釣りは要らんで?」

 折り取った窓の欠片をポイと投げて寄越したユキザワに、すっかり青ざめた優男は「結構です!」と悲鳴に近い返事をすると、来た時よりも速いスピードで走り去って行った。

 「さて、行こか」

 何事もなかったかのように現場に向かうユキザワに、部下達は黙ってついていく。

 現場前には先に到着していたえだまめ1号が待っていた。

 「遅かったな、そこを見てみろ」

 えだまめ1号の鼻先を辿ると、聖堂前に立ちはだかる巨体が目に入った。

 3メートルは超える体長に、二本の足が異常に長く、体自体はムトウくらいなのに、そこから生える二本の腕は丸太のように太いという異形の人型──まさに、人造人間だ。

 そんなモノが待ち構えるように静かに立っている。

 「ありゃあ、何だ?」

 「ガラクタだろう?形が美しくない!センスの欠片も感じられん!!」

 「ヌコちゃん……言い方」

 「ひょっとして、あれが公園の事件の実行犯じゃないですか?」

 「イタドリ、冴えとるやないか」

 各々がそれぞれ思いの丈を漏らした後、唐突にチカゲが言う。

 「そもそも、あの先に何があるんでしょうか……」

 チカゲの素朴な疑問に、えだまめ1号が返す。

 「我々は誘き出されたんだよ。狙い通りにな」

 「つまり、罠にかかるための罠を仕掛けたってことよね?」

 ハトムラが捕捉すると、チカゲは理解したのかしないのか、複雑な顔をした。

 「まぁ、行ったらわかるて……行くで?」

 ユキザワが飛び出したのを合図に、みんなが続く。

 ばけものがかりに気づいた異形の人造人間が、迎撃体勢をとり、拳を振り上げた。

 「邪魔や!ボケェ!!」

 ドデカいソレが拳を振り下ろす前に、ユキザワが右足に蹴りを叩き込むと、ソレはバランスを崩し、拳は狙いを外して空を切った。

 「室長!コイツは俺が!!」

 ムトウが銃を抜き出してユキザワに言うと、ユキザワは頷いて指示を出す。

 「アマノ!ムトウの援護せぇ!他のモンはウチの後に続け!!」

 「「「「了解!!」」」」

 それぞれが指示通りに行動を取り、その場にはムトウとえだまめ1号が残った。

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 「前時代のポンコツが……この最新鋭最強ロボ、東方不敗のえだまめ1号に勝てるわけがなかろう!」

 「オマエ、こないだカッパにワンパンでやられてたよな?」

 「そんな昔のこと、とうに忘れた!行くぞ!!オッサン!!」

 都合の悪いことは華麗にスルーして、えだまめ1号が凛々しく立つ。

 体勢を立て直した異形の巨体が、ムトウとえだまめ1号を向き、凪ぎ払うように腕をグルンと回転させた。

 「おっ……と!」

 ガンッ!!

 ムトウは後ろに跳び退いて腕をかわしたが、えだまめ1号がそれをまともに食らって弾き飛んだ。

 「避けろや!」

 木の葉のように舞い飛ぶえだまめ1号にムトウが叫んだ。

 「案ずるな!オッサン!!耐久性は以前の六万倍に強化してある!!」

 「それが出来るならスピードも上げろよ!!」

 頑張るベクトルが独特なアマノに呆れるムトウを他所に、エレガントな着地を決めたえだまめ1号が吼える。

 「今の一撃で、わたしを完全に怒らせたな……もはや慈悲はないぞ?腐れ鉄クズがぁ!!……スクラップにしてやるっ!!」

 「威勢のいいこって……」

 二手に分かれたムトウとえだまめ1号は、バカデカい図体の人造人間を挟むように立つと、反撃に転じる。

 ムトウが銃をぶっ放しながら間を詰める隙に、えだまめ1号は低いモーター音を響かせる。

 「リミットリリース!えだまめワイルドビースト!!フルスロットル!!」

 かけ声と共に、可愛らしかったえだまめ1号の顔が、みるみる恐ろしげな形相に変わっていく……かと思ったが、牙がちょっと伸びただけだった。

 「今宵のえだまめ1号は一味も二味も違うぞ?」

 「それよりオマエ、牙伸びただけじゃねぇか」

 「見た目に囚われるなとママに教わらなかったのか?オッサン」

 そう言って動き出したえだまめ1号は、おじいちゃんの散歩くらいだったスピードが飛躍的に上がり、ボルト並の瞬発力を見せた。

 「さぁ、パーティーの始まりだ!覚悟しろよ?デク人形め」

 勢い良く向かって行くえだまめ1号に、ムトウも続いて走り出す。

 繰り出される拳をヒラリとかわし、えだまめ1号は空中に身を踊らせて、前足から鉄をも引き裂く爪を出して振り上げた。

 「三枚におろしてやんよ!フランケンの怪物ヤロー!!」

 鈍く光る爪が突き刺さる手前で、えだまめ1号は「ぷすんっ」と言う音と共に活動を停止した。

 「おろっ?」

 「バカやろう!!アマノ!!」

 そのまま地面に落下したえだまめ1号を、人造人間がバカデカい足で容赦なく踏みつけた。

 「オマエ、狙ってやってんだろ!」

 「バカか?!こんなタイミングでブーストが切れるなんて、お釈迦様でもわかるか!!」

 くだらない言い合いの中、人造人間が標的をムトウへと変える。

 「チッ……俺が相手してやるよ」

 ムトウは鋭く睨みつけて、果敢にも人造人間へ立ち向かって行った。

 「かかって来いや!木偶の坊!!」

 人造人間は大きく振りかぶって、ムトウに狙いを定める。

 「オッサン!!横に跳べ!!」

 えだまめ1号の声に反応してムトウが横っ跳びすると、人造人間の拳がリーチを超えて飛んできた。

 足スレスレを通りすぎた拳を見送って、ムトウが肝を冷やす。

 「ロケットパンチ?!……マンガかよ」

 青ざめるムトウの視線の先では、さっき飛ばした拳を拾いに行く人造人間の姿があった。

 「いちいち拾いに行くんかいっ!!」

 その隙にえだまめ1号が指示を出した。

 「オッサン!作戦Bに変更だ!」

 「そもそも作戦Aから知らねぇんだが……」

 「わたしが囮になる!オッサンはチャンスを待て!トドメはくれてやる!!」

 「わかった……が、オマエ、動けるのか?」

 「問題ない!!」

 そう言って、えだまめ1号はむくりと体を起こす。

 「あのオモチャの行動パターンは解析済みだ。ヤツは動くものに反応する……だから、チャンスが来るまでオッサンは動くなよ?」

 「了解だ」

 「とりあえず、わたしに任せろ」

 アマノは、えだまめワイルドビーストを再度展開し、人造人間に向かっていく。

 攻撃をかわし、受けては吹き飛ばされることを何度も繰り返している内に、ちょうど人造人間がムトウに背中を見せるポジションになった。

 「オッサン!ゴーグルの赤いボタンを押せ!」

 えだまめ1号からの突然の指令に、ムトウは驚きながらも素直に従う。

 「お遊びはここまでだ……クソポンコツめ!!」

 ライトに人造人間をディスり、えだまめ1号はしっかりと地面に四つ足を踏ん張って口を大きく開けた。

 「エネルギー充填150%!!わぉん砲……ファイヤー!!!!」

 わ゙おぉぉぉぉぉ……ん゙!!!!

 合図と同時に、えだまめ1号の口から目映い光と空気を揺るがすソニックブームが巻き起こる。

 「喰らえ!デクヤロー!!」

 グラグラと巨躯を震わせる人造人間の背中によじ登ったムトウは、延髄にあたる部分へ霊撃警棒ブラックを深々と突き立てた。

 ビリビリと火花と閃光が漏れる中、二、三度の痙攣の後に、人造人間は完全に沈黙した。

 「手こずらせやがって………クソが」

 えだまめ1号が呟くと、ムトウは「全くだ」と珍しく同調する。

 今はもう動かない人造人間から飛び降りたムトウに、えだまめ1号が言う。

 「オッサンは皆を追って中に入れ。わたしはこのスクラップから使えそうな部品をリサイクルする」

 「追い剥ぎかよ……」

 「言葉を選べよ?これはエコだ!!」

 「はいはい……後始末は任せたぜ?」

 「さっさと行け!ご老体!!」

 憎まれ口をスルーして駆けていくムトウの後ろ姿を見送ったえだまめ1号は「さてと」と周りを見渡し、静かに活動を停止させた。

Concrete
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えだまめちゃん…かっこかわいい…

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