長男の場合
彼は、二階の自室で物の整理をしていた。
ふと庭に面した窓を見ると、黒いボサボサ髪の頭が、踊るように揺れながら通過した。
「あん?今の…?ここ二階やのに。なんぼほど背の高いやつやねん!」
彼は一応窓を開けて見たが、そこには何もいなかった。
何の疑問も感じていないーっ!
次男の場合
彼は夜九時頃、自転車でバイト先から帰って来た。自宅前の道を曲がってしばらくすると、建築中の向かいの家から、人間の頭だけがヘラヘラ笑いながら出て来て、彼の右肩にドンとぶつかった。
彼は転倒しそうになるのを何とか持ちこたえて、
「何するんじゃ、ボケ!」
と頭が行った先へ振り向いた。
頭はさも楽しそうに上下左右に揺れながら、T字路を左へ曲がった。
次男は気丈にも、すぐあとを追いかけたが、もうそれは見当たらなかった。
なんで怖がらへんねっ!
私の場合
私はキッチンで夕食の支度をしていた。
カウンター越しにリビングの鏡を見た。
調度ガラスを通して、庭が写っている。
「ん?」
よく見ると、何か黒い髪の毛…?
それがピョンピョン飛び跳ねている。
そして、大きく飛び上がった時、首や肩が…ない…。頭だけ…?
ぎやあーーーー!!!
鍋は焦げついていた……。
近所のおじいちゃんの場合
二軒先の八十五歳のおじいちゃんは、友達の自治会長じいちゃんとお茶会から帰って来た。
「ほな、またな。」
自治会長じいちゃんと別れて、自宅へ通じる道を曲がった途端、後ろから来た何者かに突き飛ばされた。
「おっとっとぉ」
おじいちゃんは、高齢ゆえに虚しく転倒。
うつ伏せに倒れて頭を上げて前を見た。
すると、黒いボサボサ髪の人間の頭が、ピョコピョコ揺れながら遠ざかって行った。
「あ、あ、頭やあーー!助けてぇーーー!!」
おじいちゃんは、通りかかった人に助けられて、救急車で病院へ運ばれた。
あらぬことを口走るため、頭部MRIまで撮ったらしい。
救急車まで呼ぶか?ふつう!?
最近、見やへんなあ。
三年くらい前、うちの町内で起こった怪現象です。
何だったのでしょう。
作者クロミちゅわん