中編4
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日曜日の朝

やれやれ、「早起きは三文の得」だなんて嘘をついたのは一体誰だよ。

日曜日の朝なんて、普通は九時過ぎまで寝ている。

それなのに、今日は珍しく六時に起床してしまった。

何て言うのかな。別に悪い夢を見た訳ではない。ただ、ちょっとした用事を済まそうと前日に決めて寝ると、だいたい翌日は無駄に早く起きてしまう。

そう、ちょうど次の日に運動会を控える子供みたいに、少し興奮気味にあったのかな。

我ながら、もう二十五だと言うのに、子供っぽいとこがあるんだな。

思わず笑ってしまう。

いやいや、笑っている場合ではない。

そうだ、俺は今、朝飯の目玉焼きとベーコンを焼いているのだ。焦がしたら大変だ。

そう、朝早く起きて愚痴っていた原因はこれだ。

わざわざ家族全員の朝食を作る羽目になったからだ。

やれやれ。思わずため息を吐いてしまう。

どれ、味噌汁の様子はどうかな。お、良い感じだな。

じゃあ、味噌を入れないと。うーん、味噌はどこだ?冷蔵庫の上段にだいたいあるんだが、無い。

もしかして、切らしたか?まずいな、これだとただのスープだ。

味噌、味噌味噌っと…。お、あったあった。

流しの下に、予備を買っておくとは流石だな。

お玉に味噌をとり、大根と油揚げの入った汁の中でといていく。

うーん、この香りこの香り。

思わず、腹の音がなった。

同時に、ピー、というお知らせの音が聞こえた。

どれどれ、ご飯が炊けたみたいだ。

何と言う事だ! これは、炊き込みご飯じゃないか! くそっ、母親め!

普通、朝のご飯といえば白米じゃないか。これでは、目玉焼きとベーコンのオカズの美味しさが半減してしまう。

…仕方が無い。こればっかりは、確認しようがない。前日に炊いた母親のせいだ。

気分は最悪になったが、時計を見てみると六時三十八分だ。いかんいかん、父親と娘が待っている。

それぞれ、ご飯、味噌汁、目玉焼きと焼きベーコンを皿に乗せ、居間に運ぶ。

居間では、娘がテーブルに突っ伏している。

やれやれ、ここに来て二度寝か。

ふふふ、テスト勉強で遅くまで頑張ったのかな。

父親は、テレビのニュースを見ている。

お待たせしました、俺特製の朝ご飯です。これを食べてお仕事頑張って下さいね。

おっと、キュウリの一本漬けがあったんだった。

再び、台所に戻り、冷蔵庫から一本漬けを取り出しまな板の上に寝かす。

さっき、よく研いだ斬れ味抜群の包丁で、キュウリがあっという間に一口サイズに切れた。

よし、これをこのお皿に乗せて、と。

「ちょ、何?え?」

あれ、お寝坊さんのお目覚めだ。

母親は、だらしなくピンクのパジャマを着て立っていた。

髪がボサボサで、まだ夢の中みたいだ。

起きるの遅いから、俺がみんなのご飯を作ったんだからね。

俺は母親に近づいた。

見てよ、この包丁も研いだんだから。斬れ味抜群、感謝してくれよ。

ようやく、家族が揃ったね。

テーブルには、俺、隣に娘、前には父親と母親。

そして、出来たての朝食が、美味しそうな香りを居間に満たしていた。

はい、みんなで。いただきまぁす。

うん、美味しい、美味しい。

さすが、俺だぜ。将来は、自分の店が持てるんじゃないか。

そういえば、父親、仕事はどうだ?順調?

まあ、この不景気の中、営業部長だからね。流石だよ。俺も見習って頑張るよ。

どう、母親。料理の味は。美味しいでしょ?

ほらほら、口からベーコンがこぼれ落ちそうだよ。詰め込みすぎ。そんなに、美味しかった?

ありがとう。

そういえば、娘は来年大学の受験だよな。

あまり、無理するなよ。って、また寝てるし。

ははは、さっき起こしたばっかりなのに。

ちょっと、父親、これどう思うよ?

あれ、父親も相変わらずニュース見てるし。

どれどれ、ああこれね。警察の不祥事。

ったく、市民の税金貰って暮らしているくせに、未成年との淫らな行ないとか腐ってるよな。

うんうん、あ、出た。××県の連続殺人事件。

これって、三家族が殺されたやつだよね。怖いわぁ、ウチも気をつけないとね。

お、あの女優さん、結婚したんだ。へえ、お相手は、一般人だって。すごいなあ。

ふーん、良いなー。この前の別な女優さんみたいに、早く離婚とかならないで、幸せな家族になると良いね。ウチみたいに。

よし、食べ終わった。ごちそうさま。

片付けと洗い物は、母親に任せるね。

お願いします。

俺は、シャワー浴びてくるわ。

え、だって見てよこれ。せっかくの白いシャツが汚れちゃって。

赤いの落ちると良いんだけど。あ、母親、台所も汚れているからお願いね。

じゃあ、父親は会社、娘は学校頑張ってね。

俺は、誰も動かない居間の人間に挨拶をして、新しい服を着てその家を出た。

平日なら、外には会社に向かうサラリーマンや、学校へ向かう学生で賑やかなはずだ。

しかし、日曜日の朝はとても静かで、人々が活動し始めるのはもう少し後の事だろう。

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