やれやれ、「早起きは三文の得」だなんて嘘をついたのは一体誰だよ。
日曜日の朝なんて、普通は九時過ぎまで寝ている。
それなのに、今日は珍しく六時に起床してしまった。
何て言うのかな。別に悪い夢を見た訳ではない。ただ、ちょっとした用事を済まそうと前日に決めて寝ると、だいたい翌日は無駄に早く起きてしまう。
そう、ちょうど次の日に運動会を控える子供みたいに、少し興奮気味にあったのかな。
我ながら、もう二十五だと言うのに、子供っぽいとこがあるんだな。
思わず笑ってしまう。
いやいや、笑っている場合ではない。
そうだ、俺は今、朝飯の目玉焼きとベーコンを焼いているのだ。焦がしたら大変だ。
そう、朝早く起きて愚痴っていた原因はこれだ。
わざわざ家族全員の朝食を作る羽目になったからだ。
やれやれ。思わずため息を吐いてしまう。
どれ、味噌汁の様子はどうかな。お、良い感じだな。
じゃあ、味噌を入れないと。うーん、味噌はどこだ?冷蔵庫の上段にだいたいあるんだが、無い。
もしかして、切らしたか?まずいな、これだとただのスープだ。
味噌、味噌味噌っと…。お、あったあった。
流しの下に、予備を買っておくとは流石だな。
お玉に味噌をとり、大根と油揚げの入った汁の中でといていく。
うーん、この香りこの香り。
思わず、腹の音がなった。
同時に、ピー、というお知らせの音が聞こえた。
どれどれ、ご飯が炊けたみたいだ。
何と言う事だ! これは、炊き込みご飯じゃないか! くそっ、母親め!
普通、朝のご飯といえば白米じゃないか。これでは、目玉焼きとベーコンのオカズの美味しさが半減してしまう。
…仕方が無い。こればっかりは、確認しようがない。前日に炊いた母親のせいだ。
気分は最悪になったが、時計を見てみると六時三十八分だ。いかんいかん、父親と娘が待っている。
それぞれ、ご飯、味噌汁、目玉焼きと焼きベーコンを皿に乗せ、居間に運ぶ。
居間では、娘がテーブルに突っ伏している。
やれやれ、ここに来て二度寝か。
ふふふ、テスト勉強で遅くまで頑張ったのかな。
父親は、テレビのニュースを見ている。
お待たせしました、俺特製の朝ご飯です。これを食べてお仕事頑張って下さいね。
おっと、キュウリの一本漬けがあったんだった。
再び、台所に戻り、冷蔵庫から一本漬けを取り出しまな板の上に寝かす。
さっき、よく研いだ斬れ味抜群の包丁で、キュウリがあっという間に一口サイズに切れた。
よし、これをこのお皿に乗せて、と。
「ちょ、何?え?」
あれ、お寝坊さんのお目覚めだ。
母親は、だらしなくピンクのパジャマを着て立っていた。
髪がボサボサで、まだ夢の中みたいだ。
起きるの遅いから、俺がみんなのご飯を作ったんだからね。
俺は母親に近づいた。
見てよ、この包丁も研いだんだから。斬れ味抜群、感謝してくれよ。
ようやく、家族が揃ったね。
テーブルには、俺、隣に娘、前には父親と母親。
そして、出来たての朝食が、美味しそうな香りを居間に満たしていた。
はい、みんなで。いただきまぁす。
うん、美味しい、美味しい。
さすが、俺だぜ。将来は、自分の店が持てるんじゃないか。
そういえば、父親、仕事はどうだ?順調?
まあ、この不景気の中、営業部長だからね。流石だよ。俺も見習って頑張るよ。
どう、母親。料理の味は。美味しいでしょ?
ほらほら、口からベーコンがこぼれ落ちそうだよ。詰め込みすぎ。そんなに、美味しかった?
ありがとう。
そういえば、娘は来年大学の受験だよな。
あまり、無理するなよ。って、また寝てるし。
ははは、さっき起こしたばっかりなのに。
ちょっと、父親、これどう思うよ?
あれ、父親も相変わらずニュース見てるし。
どれどれ、ああこれね。警察の不祥事。
ったく、市民の税金貰って暮らしているくせに、未成年との淫らな行ないとか腐ってるよな。
うんうん、あ、出た。××県の連続殺人事件。
これって、三家族が殺されたやつだよね。怖いわぁ、ウチも気をつけないとね。
お、あの女優さん、結婚したんだ。へえ、お相手は、一般人だって。すごいなあ。
ふーん、良いなー。この前の別な女優さんみたいに、早く離婚とかならないで、幸せな家族になると良いね。ウチみたいに。
よし、食べ終わった。ごちそうさま。
片付けと洗い物は、母親に任せるね。
お願いします。
俺は、シャワー浴びてくるわ。
え、だって見てよこれ。せっかくの白いシャツが汚れちゃって。
赤いの落ちると良いんだけど。あ、母親、台所も汚れているからお願いね。
じゃあ、父親は会社、娘は学校頑張ってね。
俺は、誰も動かない居間の人間に挨拶をして、新しい服を着てその家を出た。
平日なら、外には会社に向かうサラリーマンや、学校へ向かう学生で賑やかなはずだ。
しかし、日曜日の朝はとても静かで、人々が活動し始めるのはもう少し後の事だろう。
作者朽屋’s