今から2年前ーーー中澤君が高校3年生の時のことです。
学校から帰ってきた中澤君が1人留守番していると、母親が帰ってきました。
その顔は青ざめており、表現も随分険しいものでした。
母親は中澤君を呼び寄せ、「これから大切な話をするから、真面目に聞きなさい」と切り出したそうです。
母親が語った話の内容は次のものでした。
その日、いつものように仕事を終えた母親は、車に乗って帰宅する途中でした。ふとバックミラーを見ると、黒い人影が後部座席に座っていたそうです。
モヤモヤとした濃い霧が人型をとっているような…さんなわけの分からない、不気味なものがいたのです。
「これは生きている人間じゃないーーー怪異だ」
母親は瞬間的に察知したそうです。すると人影が言いました。
「私は死神。お前を迎えに来たのだよ。お前はこの後、事故に遭って死ぬ運転なのだから」
「し…死ぬんですか?私が?」
「そうだ。だから私がここにいる」
その時、母親の脳裏を掠めたのは、1人息子である中澤君のことでした。
早くに夫を亡くし、女手1つで育ててきた中澤君のことを思うと、どうにも死に切れません。
母親は一か八かこんな条件を出しました。
「待って下さい。私には息子がいて、まだ高校生なんです。あの子が二十歳になって自立するまで、何とか待って頂けませんか」
必死の思いで頼み込むと、「ではあと2年後だな。分かった、待ってやろう」そう言い残し、人影は消えたそうです。
話し終わると、母親は険しい表情のまま、何度も中澤君に言いました。
「分かった?私はあと2年、2年しか生きられないんたからね。その後のことは、あんたが自分で何とかするしかないの。いい?しっかりしないとダメよ…」
今年の秋。
中澤君は誕生日を迎え、二十歳になる。
作者まめのすけ。