それにしても少し飽きてきた。
女の子はうつむいたまま
手を握りしめ無言でテクテクと歩いている
ずり落ちそうな男の子を担ぎ直し無言のまま歩く…
楽しげな音楽が聞こえている気もするのだけれどどこでなっているのかわからないので、気にしないことにする
『いつからここで迷子になってたの??』
たずねても伝わらないとわかっていて話を振り続ける、
『ユアーママー、ママーどこ??』
反応はない…
木々の木漏れ日と少し強い横風が頬に触れていっては、何事も変わらなく進む時間だけを暗示している
いい加減に兄貴や彼女ちゃん達にあってもいいのになぁ…
この子達をどうしたものか…
とりあえず出口まで行けばどうにかなるだろう。
と自分の中で結論をだしていると、その音は不意に聞こえてきた…
『ぷ~ぴ~ぷ~♪』
目を見開き女の子がキョロキョロしている
握っていた手に力が入ったことが伝わってくる。
『どうしたの?』
女の子の緊張感が伝わったからか、木漏れ日やそよ風はどこへやら…
雨雲が立ち込め、ポツポツとふりはじめ、雨に気づく。
そして空気は変わり続ける、
『ぷ~ぴ~ぷ~♪』
機械的で気味が悪くて…そして耳障りな音だ…
その音が近づいて来ている気がする…
そこですぐに臆病者の勘が働く
これはなんか危ない流れではないか?
逃げた方がいいものに違いないのでは??
でも?なにから??
どこへ…?
女の子をみると
人差し指をたて手の甲をこちらに向けてそれを自分の方へと引き寄せている…
『ん??なに??顔??どこを指さしてるの??』
なおも女の子は同じ動きをしている…
その間も音が近づいて来ているのはもう明確なものになっていた…
『ぷ~♪』
『ぴぷ~♪』
『ぷ~♪』
『ぴぷ~♪』
女の子はあからさまに怯えていた…
キョロキョロとその白眼で周りを見ている…
もちろんAはそれをみてパニック発動。
『なに!?なに??なに!?なんなの!?』
おぶっていた男の子も背中でおろせと、いわんばかりに暴れ始める…
すると女の子が手を振りほどき、Aの手をはねのけるように手をほどくと
今度は男の子を掴む、
そして、
自分より一回り小ぶりなその子を引きずり、生け垣へと突っ込んでいった…
Aは唖然…
生け垣へと、突っ込んでいった女の子と男の子はまるで吸い込まれるようにいなくなったのだ…
『ぷ~♪』
またあの音だ、さっき自分たちが来ていた方から近づいてきている…
あの子達のことも気になるけど今はこっちもヤバそうだ…
そう思った矢先
『ぴ~ぷ~♪』
曲がり角をゆっくり曲がりながらそいつはあらわれた。
広場にいた笛吹男の石像!?
が前転をしながら笛を吹いている…
『うわぁ~!!!』
情けない奇声を発しながらAは走り出した。
自分の振り返った先が、あの子達の消えていった生け垣だということも気にせず突っ込んでいった、
全身に枝が引っかかり、葉っぱが視界をふさぎ、押し返されているのか、通すまいとしているのか、そんな感覚を感じは、したものの、押し通る。
そこには長い長い一本道があった。
いくつかの選択肢、道がそこにはつながっていて、
そしてその道は出口へとつながっている最後の道らしかった。
出口前、アトラクション最後の見せ場とでもいいたげなオブジェ…
その道の真ん中には言葉を失わせるほど綺麗な“ステンドグラス”があった。
それはハーメルンの笛吹男の描かれているステンドグラスだった。
女の子と男の子は、
そのステンドグラスの左右に立ち、はさみこみ、指さしている。
『君達はなんなのっ!?』
話しかけたAはその
女の子と男の子が石像だということに気がつく…
『えっ…?』
と、脳内整理の追いつかない状況で俺と彼女が脇道から合流した。
『彼女ちゃん!?あにきぃ~!!』
泣き出しそうなふぬけ面を見て少し安心する…
それぞれ、安否確認をしたりだとか、
ここはちょっとヤバそうだとか、
早く抜け出そうだとか、
あいつは!?さっきまですぐそこにいたよ!?
と一言二言話し、
『たぶんこのステンドグラスの先にあるのが出口だと思うんだ』
と言うAの言葉を聞き、すぐさまその横を通り出口へと向かった。
女の子のオブジェの横を通ったとき、Aは頭をなでるようにポンポンとふれていたが、その時はまだAが何を見てきたのかを知らなかったのでたいして気にもとめなかった。
ステンドグラスから出口までは500メートルと言ったところだろうか、小走りに進む俺たちは、生け垣から出てきているネズミが増えていることを見て見ぬ振りをしていた。
いやな予感しかしないのだ、
『兄貴、これ、くるっしょ?』
一番口にして欲しくないやつに聞かれてしまった…
こと、いやな予感に関してAが絡むと期待を裏切られたことがないのだ。
そう案の定そのいやな予感は形をなし、現れた…
『ぷ~ぴ~ぷ~♪』
と不快な音が聞こえると
広場で耳にしたあの不協和音のような音楽が流れ始める…
出口の扉は開かれ…
ゆっくりと笛吹男は入ってきた…
ニヤニヤしながら俺たちの方へ踊りながら近づいてくる…
『A君…』とつぶやいて彼女がAの後ろに隠れている
いつの間にか、
もうひとつの人格に戻っているようだ…なぜここで!!?
とは思ったものの、その彼女の手前、ミジンコハートのAも引っ込みがつかなくなったのだろう…
『兄貴、考えがあるんだけど…兄貴に頼まないといけないことがあるんだ!』
『なんだ??』
『あいつをこっちにこさせないで!時間を稼いで!彼女ちゃんを守って!!』
叫ぶようにそう言うとAは全力で出口に背を向けて、ようは、奴とは逆の方向へと全力でダッシュし始めた。
『最低かっ!?』
突っ込みながら笑ってしまった。
やってやる。
俺の中で何かが吹っ切れた瞬間だった。
それはどうやら笛吹男もそうだったようだ、ニタニタ笑っていた顔は表情を失いこちらをみている、
そのまま、スローモーションなのに、早送りという訳の分からない表現しかできないような動きで、
こちらへとガンガン進んでくる
それぞれの距離、残り200メートル
なぁ神様、俺のいとこはどこへ向かってるんだ?
彼女は俺の裾を掴んで背中で震えている
残り100メートル
あのバカは何かを叫んで走っている…
雄叫びにしか聞こえない。
残り50メートル
逃げ道はもう作るしかない、と思った。
彼女を少し後ろへと押して走り始める
残り10メートル
『hiiihiihihaha』
笑い声が聞こえるのは後ろからだ?
そのまま止まることなく俺は全身全霊のちからを込めてこんしんの右ストレートを同じく止まることなく突っ込んできた、笛吹男へといれた。
男の頭はボロッと胴体から外れ後ろへと飛んでいく
『 Legende, dass ich nicht sterben sterben nicht hiiihiihihaha』
また声がAの方からした、
頭を失ったその石像は、それでもなお進み続ける
狙いはAか!?
しまった、もう追いつけない。
後を追ってみてるものの早くて追いつけない
その時、俺は異様な、もうひとりを見た…
彼女が、いやまた人格を入れ替えたのであろうか…
横から飛んできている、
いや、何というか…
見事なドロップキックを、
彼女がその石像にかましていた。
肩と腕を両足で力ませに押された石像はそのまま平行移動をし生け垣に半身がうもれている。
『お前なんか怖くねぇよ!かかってこい!俺が相手だ!』
憎めないおバカなAは未だに叫びながら走っている
彼女はとっさに何事もなかったかのように俺の後ろにはしり隠れる。
Aは何がしたいのかと見ているとそのままステンドグラスに突っ込んでいった
『みんなを怖がらせやがって、この子たちを解放してやれ!』
声でわかるが、たぶん泣いてるなあいつ。
頭から突っ込んでいき、ステンドグラスは見事に壊れ原型は跡形もなくなっていた…
そして不気味な音楽も雨も止まり、笛吹男が動くことはもうなかった
どうやら石像は媒体に過ぎなかったようだ、そして、見事なステンドグラスを作った職人が意識的だったのか、それとも無意識になのかわわからないが、
伝説をそこに宿らせていたのだろうか。
Aはそのまま倒れ、気を失ったのだが、その後、帰りの飛行機で、
聞いた話では、女の子と男の子が微笑んでいるのを見たといっていた。
ちなみにAは全身に切り傷を、
俺はというと、右手拳の中指と薬指を粉砕骨折した、石像に本気でパンチを入れたのだからしかたがない。俺達は飛行機でそれぞれの観点で今回のトラブルを語り合い、小さな機内用のボトルを飲みながら意気揚々と日本へ、帰ってきた
そうそう、機内での話を、補足をもう少し…
彼女は
『A君かっこよかった』だの、
『今度は2人でまたこようね』だの、
三人で横に並んで座っているのに、
いないように終始、扱われていた俺は1人ボトルをあけていた
そのうちAも彼女も眠り
やっぱりひとりで飲みつづけている俺がいた…
最後の一滴…
これを飲んだら、
俺も少し眠ろう。
そう思って口をつけると耳元で囁かれた
『ラストワンドロップ…』
横をむくと彼女の顔があり、そのまま唇が触れ合った。
彼女は唇の片端だけ持ち上げていう。
『最後の一滴は私がもらったからお願い事をするね…四人でまたこよう。それが私の願い。』
ニコッと微笑むと自分の席に戻り眠り始めたのだった。
それは、彼女達のそれぞれの意図的な意志や、思考の違いからきていた行動だったのだろう…
ただただキョトンとする俺は一睡もできずに日本へと帰り着いたのだった。
ラストワンドロップ…
彼女の、いや、Sの願いが叶わなくなることはこのあとすぐにわかることになったのは、俺達4人にとっての最後の話へとつながっていく。
日本についてからの、
高速道路での出来事を、俺はまだ整理できない。
もう4人で過ごせることは二度とないのだから、
Aはもう死んでしまったのだから。
作者Incubus
一回り歳下ないとこのAと俺のトラブルメーカーな2人がだいた い自業自得な目にあうシリーズ物です ゆっくりですが更新していくつもりですのでよかったら どうぞ
※シリーズ物なので他のトラブルメーカーも読んでいたたけるといろいろと見えることもあるかもです
長かった~・・・お待ちいただいたかたがた、そして読んでいただいた方々、ほんとうにありがとうございました!!
ちなみに笛吹男がしゃべっているのはドイツ語で、
『俺は死なない、伝説は死なない』です!!