この間、久しぶりに友人宅を訪れた時のことだ。友人には3つになる女の子がいる。奥さん似の可愛い子だ。
だが、生憎と奥さんはいなかった。買い物かと尋ねると、友人は困ったように「嗚呼…ちょっとな」と言って笑った。
もしかしたら喧嘩して実家にでも帰ってるのかな、と思い、深くは追求しなかった。
一息ついた後、俺達は3人で散歩することにした。家の周囲をぶらついていると、近所の林檎畑に出くわした。
時期ではないので、まだ実はなっておらず、若葉色の葉が生い茂っているだけだ。すると友人の娘が林檎の木を指差して言った。
「あれ、林檎がなる木」
俺はギョッとして娘を見た。何故そんなことが分かるのだろう。林檎の実がたわわに実っていれば話は別だが…。
友人にも聞いてみたが、そんなことは教えた覚えがないと言って、奴もかなり驚いたようだ。
それからも女の子は「あれは桜の木」とか「あれは柿がなる木」と、目にした木に何の花が咲くか、何の実がなるかを言い当てた。小さい子が一生懸命喋っている姿が微笑ましく、俺達も心が和んだ。楽しい散歩日和となった。
散歩を終えて家に戻ると、庭に立っている木に目がいった。確かこの木は、何の花も咲かないし、何の実もならない木のはずだ。俺は冗談半分で娘に聞いた。
「これは何がなる木?」
女の子はすぐ答えた。
「ママがなる木」
作者まめのすけ。