呪いのアプリ(再投稿作)

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呪いのアプリ(再投稿作)

今年で大学2年になるA子は最近携帯をスマホに変えた。

一人暮らしを初めたばかりの頃はお金に余裕がなかったが、バイトを始めてから少しずつ貯金を貯めてようやく購入にこぎつける事が出来た。

今までずっとガラケーだった為、嬉しさのあまりそれからは毎日携帯とにらめっこする日々だ。

ネットを見たりTwitterでつぶやいたりとスマホで出来る機能はなんでも試した。

中でもA子が特にハマったのはアプリだった。

最近の流行りは、世間でまだ評価されていない優良アプリを探す事。

他の人よりも早く面白いアプリを見つける事はA子にとってこの上ない喜びであり、ここ最近の楽しみだった。

 

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そんなある日、A子はいつものようにネットで無料アプリを探している時にあるサイトを見つけた。

「【呪いのアプリ】? 何これ面白そう!」

それはとてもシンプルで質素なホームページで紹介されていた。

アプリの紹介記事を読んでいくと、どうやらこのアプリは「心霊現象体験風アプリ」というものらしい。

簡単に説明すると、アプリを起動している間その携帯に心霊現象が起こるというのだ。

大の怖い話好きだったA子は迷わずダウンロードする事にした。

DL終了の表示を確認し、すぐにアプリを開く。

画面には六角形の形に置かれた6本のロウソクと、その中心に見慣れた形の頭蓋骨が表示された。

高鳴る胸を抑えながら「touch」と表示されたドクロマークに触れる。

するとドクロの両目にそれぞれ「O」と「N」というアルファベットが浮かび上がった。

「えっ?何?これだけ!?」

他の部分を触ってみたが何も反応がない。

どうやらアプリ自体はONとOFFの操作しか出来ないようだ。

期待で膨らんでいた胸が一気にしぼんでいくのを感じながら、A子は携帯をベッドの上にひょいと放り投げた。

「まぁ無料だし大した事ないのかなぁ~」

自身もベッドにひょいと飛び乗ると、バイト終わりで疲れていた事もありそのまま眠りについてしまった。

 

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聞き慣れない音楽が耳元で鳴っているのに気づき、A子は目を覚ました。

見ると携帯からホラー系のドロドロとした雰囲気の着信音が鳴っている。

こんな曲入れただろうか?

「あ、もしかして」

確認するとメールが一件届いていた。

差出人名は【呪いのアプリ】となっている。

「へぇ~凄い。メールなんて届くんだぁ」

少しワクワクしながらメールを開いてみた。

 

「助けて・・・」

 

ぷっ。

思わず笑ってしまった。

そこまで期待していた訳ではないが、まさかここまで微妙なものとも思っていなかった。

まぁ無料アプリなんて大体こんなものである。

むしろ[呪いの受信音]まで付けてくれた事を評価すべきだろうか。

結局その日はそれ以降特に心霊現象(風)な事も起こらず、至って普通の一日として終わった。

しかし翌日からアプリは様々な心霊現象を起こし始めた。

ある時は待受画面が急に青白い女性の顔に変わり、またある時は突如謎の怪音が携帯から鳴り響いた。

アプリを入れてから一週間が経つ頃には非通知着信で謎の女からの電話がかかってくるほどだった。

アプリの起こす心霊現象は日に日に強くなっていった。

A子はとても興奮していた。

凄い!これは掘り出し物だ!

ネットで調べてみてもこのアプリは全く知られていない。

みんなが知らない凄いアプリを私は持っている!

そう考えるだけでA子の高揚感は高まっていった。

 

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だがそれもあまり長続きはしなかった。

ある日A子はバイトから帰宅し、いつものようにそのままベッドに横になった。

部屋の電気を点けたままウトウトしていると突然それは鳴り響いた。

「キャ――――――ッ!!!」

女性のけたたましい悲鳴がすぐ近くで聞こえA子はベッドから跳ねるように飛び起きた。

寝ぼけまなこで周囲を見回したが、部屋には誰もいない。

もしやと思い携帯に目を向けると着信ランプが光っていた。

「最悪・・・こんな着信音入れんなっての・・・」

ぶつぶつ文句を言いながら携帯をチェックする。

メールが一件届いていた。

 

「やっとみつけた」

 

はいはい、と呆れ気味に携帯画面をOFFにすると同時に部屋の明かりが消えた。

最初は「停電か?」と冷静な判断が出来たが、すぐに考えなくていいような言葉が思い浮かんだ。

タイミングが良すぎる。

不意の寒気がA子を襲った。

嘘だ、そんな訳ない。

あれはただのアプリだ。

本物の心霊現象が起こるはずがない!

目を閉じたまま必死に自分に言い聞かせていると部屋の照明が再び灯った。

周りを恐る恐る見回してみるが特にこれといって変わった様子はない。

ほっと一息ついてから左手に握っていた携帯に目を落とす。

「・・・まぁもう充分楽しんだし、いいよね」

誰にするでもない言い訳をつぶやいてから、A子は【呪いのアプリ】を携帯から削除した。

 

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翌日A子はバイトの休憩中に仲の良い同僚にアプリの事や昨日の出来事を話してみた。

最初は「んな超性能アプリないっしょw」「登録もないのになんでメールや電話が来るのよw」と笑われたが、A子が至って真面目に話しているのが解ると真剣に聞いてくれた。

「・・・そのアプリってどんなサイトで見つけたの?」

同僚に聞かれ「ちょっと待って」と一言断ってから携帯であのサイトを探してみた。

「あれ?・・・・おかしいな」

ネットで【呪いのアプリ】について検索してみたがあのサイトが一向に見つからない。

そういえばちょっと前にアプリの評判を見ようと思って調べた時も、全くと言っていいほどあのアプリの情報は見当たらなかった。

「ってかそのアプリをDLしたサイトはどうやって見つけたの?」

言われてすぐに2週間程前の自分の記憶を探ってみる。

しかし何故かあのサイトを見つけた時の事が思い出せなかった。

「あんた夢でも見てたんじゃないの?w」と冷やかされたのが悔しかったが、A子自身まるで悪い夢でも見ていたような気分だった。

 

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帰宅後、A子はいつも以上に疲れた気がしてベッドにどっさりと倒れ込んだ。

今日のバイトがラストまでだったというのもあるが、休憩中に話した件がずっと頭から離れなかったのだ。

時計の短針はすでに文字盤を一周し、数字の1を指し示している。

夕食はもう済ませていたし、それほど空腹な訳でもなかったので今日はもう寝ようかと考えていたその時だった。

「デロデロデロデロデロデデーン♪」

瞬時にA子の体は凍りついた。

何も知らない人からしたら大した事のない着信音であったろう。

しかし今携帯から流れてきたメロディは削除したはずのあのアプリで使われていた音楽だった。

「う、嘘でしょ・・・・」

震える手で携帯の画面を見る。

メールが一件届いていた。

 

「後ろにいるよ」

 

部屋の明かりが消えた。

同じだ。

昨日と全く同じ事が起こっている。

どうして!? アプリは削除したはずなのに!

あまりの事に頭が混乱しそうだったが、すぐに握り締めていた携帯が鈍い光を放っているのに気づいた。

画面には見覚えのあるドクロのマークが写っていた。

必死に電源を切ろうとしたが、何処を押しても何をやっても反応しない。

「なんなのよこれーっ!!!」

泣きながら叫び声を上げたその時、後ろの方で「キィーッ」とドアが開く音がした。

今A子は窓の方を向いている。

後ろには玄関とそこからリビングに続く廊下、あとトイレがある。

廊下からリビングへの扉はいつも開けっ放しだし、玄関のドアはあんな音で開いたりしない。

A子はゆっくりと後ろを振り返った。

トイレのドアが開いていた。

もちろん開けっ放しにした覚えなどない。

体の震えが止まらなかった。

目を逸したいのに眼球は全く言う事を聞いてくれなかった。

徐々に暗闇に目が慣れ始め、見たくもない廊下の様子が見え始めてきた時。

そいつは現れた。

 

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開かれたトイレの中から、女性の顔だけがゆっくりと姿を現した。

最初の頃によく携帯画面に現れた青白い女性の顔だ。

異様なのは、その顔が床から20cm程度の高さから出てきた事だ。

女はズルズルと体を引きずるような音をさせながら少しずつその姿をあらわにした。

それはA子が今まで生きてきた中で最も恐ろしい姿をしていた。

首がおかしな角度に曲がっている。

左腕も普通では考えられない方向に曲がっている。

右腕も、両足もありえないような曲がり方をしている。

一瞬でこの世のものではないという事が理解出来た。

「見ツ・・けタ・・・・・ミつ・・ケた・・・・・」

青白い顔の女は、逆さまの首をブラブラと揺らしながら徐々にA子のいるベッドに近づいていった。

 

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A子に逃げ場はなかった。

玄関は女の後ろにあったし、窓から逃げたくてもここはマンションの4階だ。

どうする事も出来ない。

青白い顔の女がズルズルと床を這いずり、ゆっくりと近づいてくるのをただ見続けている事しか出来なかった。

・・・・もう駄目だ。

そう思った時、ふと握りしめていた携帯に目が行った。

画面に写っているドクロのマークが薄らと笑みを浮かべてこちらを見ている。

この「呪いのアプリ」を入れてから自分の周りで心霊現象が始まったんだ。

それならばもしかしたら。

そう考えるやいなや急いで携帯のカバーを外した。

裏面の蓋を外し携帯の電池を力任せに外す。

だが画面のドクロは一向に消えない。

「そんな!?なんでよっ!」

そうこうしているうちに青白い顔の女はリビングの中まで入ってきていた。

いけない!焦っている暇なんてない!

A子は覚悟を決めると女のいる場所のすぐ横にある台所まで走った。

そして大きめのコップに水道水を溢れんばかりに入れると、持っていた携帯を勢いよく放り込んだ。

これで駄目ならもう諦めるしかない。

祈るように携帯画面を見詰めていると、フッとドクロと共に画面から光が消えた。

「や、やった!!!」

喜びの声をあげたその時、足元で「ゴトン」という音がして思わず下を向いてしまった。

そこには、背中が見えているのに何故か顔だけは真っ直ぐこちらを見上げている女の顔があった。

女はA子と目が合うとニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

「ツかまエた・・・・・」

 

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気がつくとA子はベッドの上で倒れていた。

朝日に照らされた自室の様子はいつもとなんら変わりないように見える。

もしかしたら全部悪い夢だったのではないか?

そんな甘い考えが一瞬頭に浮かんだが、目に飛び込んできたある物によって即座に砕け散った。

ごくありふれた女子大生の部屋の中で、台所にある水没した携帯の入ったコップだけが異彩を放っていた。

 

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その日からA子の周りでおかしな現象は起こらなくなった。

さすがにあの事件のあった次の日は友達の家に泊めてもらったりもしたが、それから今日までの5日間あの部屋に戻っても特に何も起きていない。

問題があるとすれば携帯を壊してしまった事で色々と連絡が取り辛くなった事くらいだ。

だがそれも今日までの事である。

ついに新しい携帯を買ったのだ。

さすがに以前の携帯に比べて1つ安いランクの機種を選ぶ事となったが、背に腹は代えられない。

急いで家に帰りさっそく画面を付けてみた。

至って平凡な壁紙と共に基本的なアプリが表示される。

「・・・・もうおかしなアプリを入れるのはやめにしないとね」

自分に言い聞かせるようにそう呟いた。

ん?

画面左上に謎の数字が現れたのにA子は気づいた。

「『10』? 何の数字だろこれ?」

すると数字はいつの間にか『30』に変わっていた。

「あぁ、これもしかして」

その時A子はふと嫌な予感がした。

最近疲れているせいか、どうもすぐ悪い方へと考えが行ってしまう。

「まさか・・・・そんなはずないよね」

そう言っている間にも数字はどんどん上昇していった。

『40』

『50』

数字の上昇と共にA子の不安も次第に高まっていく。

「嘘だっ・・・そんな訳ないっ・・・・・」

しかし言葉とは裏腹に疑念はいつしか確信へと変わっていった。

『60』

『80』

「やめてっ!やめてよぉっ!!!!!」

『90』

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

「 [『呪いのアプリ』のダウンロードが完了しました] 」

 

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画面に無慈悲なメッセージが表示されると同時に、A子の背後でトイレのドアが「キィーッ」という音を立てて開いた。

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これ実話だったらこわい

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[カヤ]さん
自分はアンドロイド携帯なので色々と怖いです(^^;;
でも「あり得ない事が起こる」のが怖い話ですから、iPhoneでも安心出来ないかもですよ

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色々ダウンロードするのが好きな私には怖い話だ…
iPhoneだけど、アプリが発表される前にAppleがバグや危険の検査してるから、着音を勝手に変えるとか検索結果に出ないアプリなんてあり得ないんだよね
安全なAppleのはずなのに、そんな事起こったらそれこそパニックだって想像して怖くなった(;ω;)

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[ngt kazu]さん
コメントありがとうございます。
トイレは色々な怖い話がありますから何が出てくるか解りませんよ。

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怖い!トイレから出てくる女を想像してしまった。トイレのなかで。

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