携帯電話は、今や現代社会において欠かせない物となっていますよね。家に携帯電話を忘れて外出してしまうと、不安で何も手がつけられない……それくらいに執心している人もいるくらいです。
近年は子ども用携帯も普及しつつあり、登下校の際に持たせたり、塾で帰宅が遅くなる子どもに持たせたりする親も増えています。
子どもに携帯電話を持たせると、危険なサイトやアダルトサイトなどにアクセスしてしまい、悪影響を及ぼしてしまう……と心配する人もいるようですね。
しかし、持たせずにいると、いざ連絡を取りたい時に困る。持たせるか持たせないかで色々悩んでいる……という声が世間では囁かれています。
まあ、最近の子ども用携帯は、サイトに繋がらないように設置されていると聞きますが……それはさておき。
今からお話しするのは、丁度子ども用携帯が世に広まりつつあった頃、N県にて実際にあった事件です。
子どもに携帯電話を持たせることは、本当に「安全」なのでしょうか……?
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これは今から5年ほど前のことです。
N県にある、ある有名な学習塾に通う、仲良し3人組の女の子達がいました。仮にアイちゃん、アイミちゃん、アイカちゃんとします。
その日は塾でテストが行われ、終わったのが午後8時半。テストの答え合わせや雑談をしていたら、あっという間に9時を回ってしまいました。
3人は慌てて帰ることにしました。アイちゃん、アイカちゃんは自転車で塾に通っていましたが、アイミちゃんだけは親の車で通っていました。アイミちゃんは子ども用携帯を持っており、それでいつも電話して親を呼んでいたそうです。
アイミちゃんが携帯電話を取り出すと、着信音が流れました。お母さんだと思い、すぐに電話に出ましたが、相手は何も喋らず、やがて電話は切れました。
着信履歴を見ると、掛かってきた番号は非通知設定がされていました。誰かの悪戯かな、とアイミちゃんは笑いましたが、アイちゃんとアイカちゃんは顔を強ばらせました。
アイちゃん、アイカちゃんは同じ小学校に通っているのですが、最近ある噂が立っているそうです。
その名も「非通知さん」。
携帯電話を持っている子どもにだけ掛かってくる着信があり、それは必ず非通知設定にされているのだとか。
電話が掛かってくるだけなら心配ないのですが、自分から掛け直すと恐ろしいことが起きるのだとか……。
普通なら非通知で掛かってきた電話に掛け直すことは出来ませんが、たまに繋がってしまうことがあるそうです。それが「非通知さん」らしいのです。
アイちゃんとアイカちゃんは思わず身震いがしましたが、当の本人であるアイミちゃんは「その噂を確かめてみよう」と言い出しました。
2人は慌てて止めましたが、アイミちゃんは聞こうとしません。携帯電話を取り出し、着信履歴から非通知を選んで通話ボタンを押しました。
トゥルルル…トゥルルル…トゥルルル…トゥルルル…
何と電話は繋がり、呼び出し音が聞こえてきました。そして何度目かのコール音の後、ようやく相手が出ました。
「もしもーし?非通知さんですかー?」
ふざけて言うアイミちゃんでしたが、やがて訝しげな顔をしながら携帯電話を耳から離しました。2人がどうしたのかと尋ねると、「テレビの砂嵐のようなザーザーとする音がするだけ」だとアイミちゃんは答えました。
その後、3人はそれぞれ帰宅しましたが。アイミちゃんだけ家に戻っていないことが分かりました。
いつもなら塾の終わりに必ず電話をしてくるのに、今日に限って電話がなかったことを心配した両親が、車で塾まで迎えにきたのですが、アイミちゃんはどこにもいなかったのです。
ただ……アイミちゃんの鞄が塾の入り口に投げ出されていただけでした。持たせていたはずの携帯電話も見つかりません。
警察は誘拐事件だということで捜査していますが、特に目撃情報もなく、事件は難航を示しているそうです。
これは単なる誘拐事件なのでしょうか。それとも、「非通知さん」に電話を掛けてしまった報いなのでしょうか……。
真相は、5年経った今も謎のままです。
作者まめのすけ。