怖い話が聞きたい、って?
じゃあ、私の知り合い話をしてあげるわね。
彼、徳島君っていうんだけど。かなりビビリで神経質な性格してるの。おまけに凄く心配性でね。
そんな彼が、知り合いから「不幸の伝説」を聞いたんだって。不幸の伝説はね、1度聞いてしまうと呪われてしまうのよ。呪われないようにするには、同じ話を10人に話さなくてはいけないの。
一昔前に流行った「不幸の手紙」みたいなものね。
まあ、こんなの子ども騙しみたいな話なんだけど。徳島君って、神経質な上に心配性だから、丸ごと信じちゃったのよ。10人にこの話をしないと、自分は呪われてしまう…ってね。
それから、彼の尋常ではない行動が始まったの。
当時、大学生だった彼は実家暮らしだったから、母親や妹に話を聞かせようと思ったらしいんだけど、なかなか相手にして貰えなくてね。
家族が駄目だと分かると、友人知人に手当たり次第に電話したり、家に押し掛けたりしたそうよ。
でも、誰も真面目になって聞いてくれる人はいなかった。
彼、昔からちょっとしたことでも大騒ぎして、周囲に迷惑掛けてたから、今回もまたそんなことだろうと思われたんでしょうね。
徳島君の奇行は更に続いたわ。
彼は近所の小学校に出向いて、下校途中の女の子に声を掛けて回ったの。小学生の子なら、話を聞いてくれるんじゃないかって思ったんでしょうね。
でも考えてみて。いい年をした男が興奮気味に小学生の女の子に声を掛けてるのよ?周囲からすれば、変質者以外の何者でもなかったのよ。
結局、徳島君は近所の住民に取り押さえられて、交番に連れて行かれたの。そこで事情聴取を受けていたんだけど…。
徳島君はその時既にマトモな精神状態ではなかったのよ。とにかく誰かに不幸の伝説を聞いて貰いたい、でないと自分が呪われてしまう…そんな極限状態に陥っていたの。
彼は一瞬の隙をついて、自分を聴取している巡査から拳銃を奪い、交番の外に出た。そしてそれを止めようと追い掛けてきた巡査に銃を向け、涙をボロボロこぼしながら言ったの。
「お願いします、どうか僕の話を聞いて下さい」ってね…。
勿論、町中大騒ぎ。通行人も買い物客も、上から下へのパニック状態になっちゃったの。
徳島君は拳銃を向けてワンワン泣いてるし、拳銃を取られて丸腰の巡査はへたり込んじゃうし。
その時ね、たまたまパトロール中だった警察官が騒ぎを聞きつけ、駆け付けたの。徳島君が拳銃を持っているのを見て、警察官が取った行動は1つ。
徳 島 君 は 射 殺 さ れ た の 。
このまま彼を野放しにしていたら、一般人に被害が出てしまう。それを未然に防ぐには、射殺する他なかったのよ。徳島君、拳銃持ってたし、説得も通じそうになかったから。
彼は10人に不幸の伝説を話せなかった。だから不幸になりましたとさ…。これで私の話はお終いよ。
え?あんまり怖くなかった?
期待外れだったって?
…そう。ごめんなさいね、期待に応えてあげられなくて。
嗚呼、そうだ。最後のオチをまだ話してなかったわね。それを聞いたら、多分あなたもゾクリとするんじゃない?
あのね、
今、私があなたにした話なんだけど。
これが「不幸の伝説」なのよ。
作者まめのすけ。