「最初に言われたのは、お盆に帰省した時だったんですよねぇ」
大学院生の美空さんが夏休みを利用して帰省した時のこと。たまたま実家に遊びに来ていた従兄弟から、こんなことを言われたのだそうだ。
「おい、落としたぞ」
差し出されたのは、ピエロの人形が付いたキーホルダーだった。しかし、美空さんにはそのキーホルダーに見覚えなどなく、当然彼女の持ち物ではない。
「違うよ。私のじゃないよ」
「でも、お前の鞄に付いてたんだぜ。お前以外の誰のだって言うんだよ」
「えー、変だなぁ……」
一応受け取ったものの、やはり知らない。美空さんはキーホルダーを無造作にゴミ箱に投げ入れた。
お盆明けに東京へと戻ってきてすぐのこと。バイトが終わったので、帰宅する準備をしていると、店長に呼び止められた。
「西野君。落としたぞ」
差し出されたのは、ピエロの人形が付いたキーホルダーだった。お盆に帰省した時、従兄弟からも同じことを言われたのを思い出す。
確かにあの時のキーホルダーと同じ物だった。
「これ…、私のじゃ、ないです」
「えぇ?でもこれ、確かに君の鞄からーーー」
「失礼します!」
美空さんはアルバイト先を飛び出し、そのまま自転車に飛び乗って帰宅した。何とも言えない、妙な気持ちの悪さだけが残っていた。
それからも度々、美空さんは同じことを色んな人から言われるのだという。
「”これ、落としましたよ”って言われて、必ずあのキーホルダーを差し出されるんです。多い時で1日3回言われたかな。もう気味悪くって」
そのキーホルダーを受け取ったら恐ろしいことが起きてしまいそうだと美空さんは言う。だからどんなに落としましたよと言われても、決して受け取らないのだそうだ。
作者まめのすけ。