消える。【姉さんシリーズ】後日談。

中編5
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消える。【姉さんシリーズ】後日談。

前回の事件から1週間が経過していた。その間、俺が何をしていたかと言えば、家に引きこもっていた。自室のはベットから降りることが出来ず、日がな1日、ずっと寝ていた。

そこまで親しい仲ではなかったとはいえ、自分に救いを求めてきてくれた相手を救えなかった。助けてあげられなかった。何にもしなかったし、何にも出来なかった。

……見殺しにしたと同じだ、これは。どんなに悔やんでも、もうどうすることも出来ない。神様相手に刃向かおうとするから、それこそ罰が当たったのだ。

「はあ……」

佐々木さんが遭遇した神様ーーー忍冬。人の肉体どころか、存在すらをも食い尽くしてしまう邪な神。忍冬に喰われ、喰らい尽くされた佐々木さんは、確かにその存在ごと「いなくなった」。

中学校に連絡を取ってみても、「そんな名前の生徒はいない」と言われるし、佐々木さんの実家にも電話してみたが、やはり同じことを言われた。因みに沢田もまた然り。佐々木さんと沢田は、それこそ最初から「いない」存在であるかのように、この世からさっぱり消えてしまった。

「はあ……」

凹むなぁ。凹むどころじゃない、陥没だよこれは。神隠しじゃあるまいし、人が2人もいなくなったことに、誰も気が付かないなんて。それこそ恐怖だ。

ベットの上で何度目かの寝返りを打つ。そろそろ学校にも行かないといけないのだが、どうしても行く気にはなれない。はあ、と3回目となる溜め息をついた時、自室のドアが壊れるような勢いで開けられ、姉さんが仁王立ちしていた。巫女姿で。

「……えっと、」

どこから突っ込めばいいんだ?こういう時、何て言うのがベストなの?誰か教えてくれ……!!

「いつまでイジケてやがるんだ。それでも男かテメーは」

巫女さんらしからぬ、乱暴な口調でそう言うと、姉さんはズカズカズカッと足音を鳴らして部屋に入り、俺の前に立って腰をくねらせポージング。何かすげぇ迫力だ。

「どうだ?お姉様の巫女姿はなかなかのもんだろ?ネットで買ったんだ」

「うんまあ……そう、だね」

「何だ、その味気ない反応は。場合によっちゃ舌を引き千切るぞ」

「あ、あのね。巫女さんとか確かに素敵なんだけどさ。素敵過ぎるんだけどさ。真顔でどうだとか言われても、いまいち萌えないんだよ。もっとこう、愛恥じらってたりすると可愛いかなぁって」

「恥じらう……?」

姉さんは少し考えた後、両手で顔を覆い、頭を振った。

「いやん。あんまり見ないで下さい。恥ずかしいわ。こんな格好したの、あなたの前でだけなんですよ。ーーーこんな感じか?」

「………」

姉さん。台詞だけ変えたって駄目なんだ。分かってくれ。その台詞だけ聞けば、確かに恥じらっているんだろうけれど、棒読みなんだって。感情がこもってないんだって。ついでに言うと、顔を覆っている指の隙間から見える眼差しが怖い!

「えいくそ、こそばゆい!私にこんなことさせんな、莫迦!!それより支度しろ。早く行くぞ」

「い、行くって何処に?」

姉さんはニヤリと笑った。

「オトシマエつけに」

数十分後。俺と姉さんは忍冬神社の前に来ていた。まだ昼間だというのに、神社内は薄暗く、名前も知らない鳥が薄気味悪い鳴き声を上げて上空を飛び回っていた。

姉さんがわざわざ巫女の衣装に身を包んでいるのは、この神社に来る予定でいたからだそうだ。確かに神社といえば、巫女さんというイメージがあるし。姉さん曰わく、イメージというモノは、とても大切らしい。

「人間はイメージに感化かれやすいからな。巫女のイメージを強く持てば、神様を近くに感じやすい。巫女というのは、古来より神様の嫁として自らを捧げた乙女のことなんだよ」

そう言いながら、姉さんは参道の端を歩く。俺も姉さんの後ろについて歩いた。参道の真ん中は神様の通り道なので、人間は隅を歩かなくてはならないのだそうだ。

社の前につくと、姉さんは頭を2回下げた。俺も慌てて、それにならう。

「ねぇ、何しに来たの?」

姉さんはオトシマエがどうとか言ってたが。今更、神社に再来して何をしようというのだろうか。またしても神様相手に喧嘩しようってんじゃないよなぁと不安になってくる。

「いやな、今日の朝までは社にガソリンでもぶっかけて放火してやろうと思ってたんだけどな」

姉さんは涼しげ物騒な台詞をさらりと口にした。それは放火罪という立派な犯罪じゃないか。俺の背中に戦慄が走る。家族から犯罪者が出るのって、かなり嫌だぞ……。

「神様はね、社を持たないと力を発揮出来ない場合があるんだよ。社は、神様が神様でいられる場所なんだ。人間が信仰心に基づき、造った物だから神様の力の根源でもある。それを燃やしちまえば、神様だって少しはダメージくらうんじゃねーかなぁと思ったんだけどさ。それでオトシマエ付けようと思ったけど……止めにした」

姉さんは懐から小さな鈴を取り出した。その鈴は赤い紐で結ばれており、神社でよく売られている魔除けのキーホルダーみたいだった。

「所詮、人間が神様にかなう筈がない。それくらいは私にも分かる。触らぬ神に祟りなしーーー要は人間が注意するっきゃないんだ。神様に纏わる場所に近づいてはならないし、まして汚してはならない。神様には人間の道理や理屈は通じないんよ。だから神様を恨むなんて筋違いなんだ」

そう言いながら。姉さんは赤い紐の付いた鈴を供え物でもするかのように、そっと地面に置く。その鈴は何なのかと尋ねると、姉さんは事も無げに答えた。

「嗚呼、ちょっとな。詳しく言えないが、封印というか結界代わりの鈴だよ。これで暫くは大丈夫。被害者は出ないだろう。お前、その鈴に触るなよ。位置も動かすな」

言われなくとも誰が触るもんか。鈴から距離を取るように後ずさると、姉さんが俺の頭をポンと叩いた。

「もうこの一件は忘れろ。お前が責任を感じることじゃないんだよ」

それだけ言うと、姉さんはくるりと回れ右をした。来た時と同じように参道の隅を歩き、入り口の方へと引き返していく。

俺は最後にもう1度、社を見上げた。佐々木さんと沢田がかつてこの神社を訪れた時、唄のようなものが聞こえたと言っていたことを、ふと思い出す。

じっと耳を澄ませたが、やはりそんな唄は聞こえない。念の為にと自分の体を余すところなく点検してみたが、糸のようにスルスルと解けてはいないようだ。

……ただ。先程から感じていたのだが、近くの木立の影から目も鼻も口もない、のっぺりした顔立ちの巫女姿の何者かがこちらをジッと見ている気がするのだが。

まあ、これには気付かないフリをしておこう。

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姉さんがかっこよすぎる!

返信

*chocolate様。コメントありがとうございます。

早速ネタを使わせて頂きました(笑)。姉さんは可愛らしく媚びることが、どうも不可能なようですね(笑)。

最後のオチで現れるのっぺらぼう巫女……。アレこそが忍冬だと思われます。正しくは忍冬という神と化した人間、という設定にしました。

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お姉さん頑張りましたね!...やはりホラーになってしまいましたが(笑)想像しただけでにやけてしまいました(笑)

最後何事も無く終わると思いきや、木立の影から...と言う落ちにゾッとしました。

巫女姿、と言う事は邪神の嫁として自らを捧げた女性だったのか...曖昧な所が逆に怖くて面白かったです(*´ω`*)

次も楽しみにしてますので、頑張ってくださいo(*´ヮ`*)o

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