1幻夢アリスはこの日ある人を待っていた。
ドスドス。
扉が激しく叩かれる。
「入って」
「邪魔するわ」
入って来たのは幻夢アリスと瓜二つ。
だが、幻夢アリスが黒を基調としている服装なのに対し、入って来た女性は白を基調とした服装だ。
彼女の名前は幻夢リム。
七大神の一角にして夢と存在を司どる神だ。
幻夢アリスはその幻夢リムの分離体だ。
働き者な幻夢アリスに対し幻夢リムは怠け者だ。
まあ幻夢リムが本気出すといろいろ不味いわけだが。
「話は何?」
幻夢アリスが尋ねると、幻夢リムは怪しい笑顔で俺と幻夢アリスを見つめこういった。
「ついに見つけたのよ。第三の顔を」
どうやらついに見つかったようだ。
例の彼女に匹敵する人物を。
2
私は昔から霊感が強いらしい。
幼少の頃から私のまわりには常に霊的存在がいた。
別に害があるものばかりではない。
逆に私たちを守護してくれる霊もいた。
この話はある少女との出逢いの物語だ。
3
私は修東高校に通う学生だ。
この学校は霊力が特によく集まる場所だ。
いまは使われてない女子更衣室の大鏡。
三階のトイレ。
他にもたくさん。
強い力で溢れている。
さて、そんな学校でいまひとつの話題でもちきりだ。
連続女子生徒殺害事件。
死体はバラバラにされ左目だけが綺麗に抜き取られているらしい。
4今日は幽霊たちが騒がしい。
私の左目が疼くのだ。
私の左目が疼く日には誰かがかなり危険な怪奇現象にあうと昔恩人に言われた。
暗条光という素敵な女性にだ。
彼女は今どうしているだろう。
話は変わるが実は、殺害事件がおきた日(四件全て)にも左目が疼いているのだ。
もしかするとなにか事件と関係あるのかもしれない。
仕方ない。
私なりに調査してみよう。
光さんならきっとそうするだろう。
5最初の殺人事件がおこった現場にきた。
近所の公園だ。
かすかに霊魂がさまよっている気配がある。
「あなたが被害者なのね?」
私は霊魂に念じた。
するとなにもなかった場所にエネルギーが集まりだした。
瞬間火花とともにある少女が出現した。
体全体が薄く存在が異常なほどきはくだ。
「あなたが今話題の殺人鬼に殺された被害者で間違いないわね?」
少女は頷いた。
「あの日は雨が降ってて私は傘を忘れたの。だけど学校出る時は小降りだったから私はそのまま帰っていたの。でも5分くらいたった時かしら?急に雨が強くなってこの公園で雨宿りしようとおもってここに立ち寄ったの」
そこで彼女は表情を一変させた。
今にも泣きそうな表情に変わった。
「あれがなんなのかわからない。犬にも見えるし牛にも見えた。全身から黒い霧のようなものが出てた。その側には一人の少女がいた。私は逃げる間もなくそのいきものに殺された」
犬にも見えるし牛にも見える生命体。
妖怪のたぐいなのは間違いない。
一緒にいた少女が使役しているのかはわからない。
またはその逆で少女をその妖怪が利用している可能性もある。
「わかったわ。あなたが早く成仏できることを祈っているわ」
そうして私は同じように現場をまわった。
全ての場所で同じ証言がとれた。
6
現場は全部で四ヶ所。
公園。
修東高校のトイレ。
路地裏。
墓地。
私が注目したのは修東高校のトイレだ。
犯人は修東高校の人間の可能性が高い。
そこまで考えた所で左目が疼きだした。
時刻は19時ちょうど。
脳内にひとつの映像が飛び込んでくる。
修東高校の屋上だった。
私は全速力で学校に向かった。
7私の判断は正しかった。
屋上には座り込んで動けなくなっている女の子と反対側に獣とその横に一人の少女。
獣の横にいる少女の顔が厳しい表情になる。
「おかしい。ちゃんとひと払いの結界をはってあったのに」
なんだ。そのことか。
「それなら私が破壊したわ」
少女は突如無表情になる。
「やっぱり私には才能がないんだわ。三流の霊能力者の家に生まれ努力をしてもいっこうに呪術があがらない。」
少女は淡々と語りだしたのを遮り質問をした。
「あなたの目的はなに?」
そこで少女は吹き出した。
「目的?そんなの決まっているじゃない。才能よ。霊的センスの欠片もない。こんなの私じゃない。だから他人の霊力を集めていたのよ。左目を抜き取ったのもそのためよ。だから少しでも霊的センスをもった人間を襲っていたのよ」
「そんな理由で殺したっていうの?つまらない人間」
少女は態度を一変させ急に早口でしゃべりだした。
「そうやってみんな私を馬鹿にする。みんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな」
少女は待機していた獣に命令を出す。
「ケル。やつを喰らいなさい。一片ものこらないようにね」
ケルと呼ばれた獣は突進してくる。
私は簡易結界を高速ではる。
だが結界は一撃で破壊され私の左肩に噛みついた。
「パ、チャク、クイナ」
呪文を唱える。
ケルは苦しみだし私の側を離れた。
ドクドク。
左目が疼く。
光さんの言葉をおもいだす。
あなたは才能を眠らせている。その左目は人を救うわ。
これが彼女光さんの言葉。
私は左目に念じた。
お願い。あの子を救うために力を貸して。
ケルが私の左目めがけて飛んでくる。
その瞬間だった。
左目から光が放射されたと同時にケルが形を変えて左目に吸い込まれた。
私の左目に激しい痛みがはしる。
少女はその場に倒れた。
と同時に足の先から溶け始めた。
私は驚愕のあまり目を見開いた。
「代償よ」
誰もいないはずの空間から少女があらわれた。
「彼女は異獣ケルと契約していた。強大な力を与える代わりに代償を支払った。ケルが消滅した時自分も消滅する。それが彼女への呪い」
少女は再び無表情になった。
「やっぱり私は無能だった。結局はなにも残さないで死んでいくのね」
私は焦った。
「彼女を救う方法はないの?」
私は尋ねるが白いゴシックロリータをきた少女は首をふる。
「無価値な人生だった。無意味だ」
そう言い残し消えた。
「罪悪感を感じる必要はないわ。彼女程度の霊力では遅かれ早かれ死んでいたわ」
無価値な人生。
少女は苦しんでいたのだろう。
でも少女は死んだ。
もうなにがなんだかわからない。
「そんなことよりおめでとう。あなたは見事独眼を目覚めさせた」
独眼?私の左目のことだろうか。
「そうよ。それは異界と直接繋がることができる魔眼よ。大事になさい。それはたくさんの命を救うことができる。すでにあなたは一人の少女を救ったのよ」
そうだった。
彼女は。
私は女の子にちかづいた。
少女は眠っていた。
私は救われた気がした。
「さて、私はいくわね。あなたとはまた会えると思うわ」
「待って。あなたは何者なの?」
少女は微笑んだ。
「リム。幻夢リム。ただの暇な神様よ」
作者月夢改
アリスシリーズ三話目です。
新キャラクター登場です。
暇潰しにでも読んでいただけると嬉しいです。