七回目の投稿です。
僕はアルビノと呼ばれる先天的な病気です。
体毛が白金であり、肌が白く目は淡い赤色です。
それ以外は普通の人と何も変わりません。
アルビノだからという訳ではないと思いますが、物心つく頃から霊的なものを見ることや感じることができ、また簡単な除霊や霊的なものを落とすことができます。
まわりから変な目で見られ続けてきましたが、幼なじみの愛美と家がお寺の七海のお陰でさほど孤独な思いはしませんでした。
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あれは中学二年の冬休みのことだった。
やることが特に無いので、朝ご飯を食べてから自分の部屋で漫画を読みながらごろごろしていた。
「ピンポーン」
インターホンが鳴った。僕は足音をたてずに玄関へ向かった。知らない人であれば、居留守を使ってやろうと思った。
ゆっくりとドアスコープを覗く。ドアの前には茶髪で派手な服装の女の子が立っていた。愛美だった。
僕は慌ててドアを開けた。愛美は驚いた様子だったが、すぐ笑顔になり、
「相談したいことがあるの」
と言って僕を軽く押しのけながら家に入ってきた。
とにかく僕の部屋まで行き、ベッドに二人で腰を降ろした。そこで愛美と他愛もない会話をした。ほとんどが愛美の自慢話(?)だった。何人に告白されただの、今かっこいい先輩と付き合ってるだの、笑顔で話すのを僕は聞き役に徹した。実際愛美は学校で凄くモテる。かわいいし、明るく人懐っこいし、それにスタイルも良い。幼なじみでなければ愛美とはこういう風に会話することないんだろうなと思って聞いていた。
ふと、愛美の足下にある茶色い紙袋が置いてあるのに気が付いた。そして嫌な予感がした。
「愛美、その紙袋に何入ってるの?」
そう聞くと
「えぇー!もう本題入っちゃうのー?」
と不満げな顔をしながら紙袋を持ち上げた。そして紙袋の中に手を突っ込んだ。愛美はゆっくりと何かを取り出した。
日本人形だ。
「じゃーん!呪いの人形でーす!」
僕は完全に引いてしまった。そんな僕の姿を見て
「冗談冗談!ただの人形よ!」
と愛美は焦りながら訂正した。僕は冗談なんかじゃないと思った。その日本人形からは黒いオーラが出ていたのだ。
「とにかくしまって!」
そう言って無理やり人形を紙袋に入れた。
「この人形どうしたの?」
「これね、パパが貰ってきたの!」
愛美の家は金持ちで、愛美の父親がよく知人から高価なものを貰ってくるらしい。この人形もなにやら価値の高いものだと聞いて、愛美の父親が貰ってきたとのこと。だが、この人形が家に来てからおかしな事が起こるという。夜中に廊下を歩く音が聞こえるとか、子供の呟く声が聞こえるとか、髪の毛が少し伸びたとか、とにかく気持ち悪くて僕のところへ持ってきたとのことだった。
「それで、これを僕にどうしろと?」
「除霊して!龍くんならできるでしょ!いつものようにね!ねっ?」
愛美はウインクをしてきた。ぼくは人形の除霊なんてしたことがなく、正直嫌だったが愛美のテンションにつられて、了解してしまった。
「龍くんありがと!お礼はたっぷりするからね!」そう言って愛美は抱きついてきた。その後彼氏との予定があるからとすぐに帰って行った。
僕は紙袋から人形を取り出した。日本人形をこんなに間近で見たのは初めてだった。人形の目を見つめると、心が吸い込まれてしまうような気がした。口元は少し上がっていて、微笑んでいるように見えた。
僕は右腕の数珠を外し、横にした人形にそっと手を乗せた。すると人形のまわりは黒いオーラ包まれた。僕は何か違和感を感じ、人形から手を離した。なんだかとても嫌な予感がする。
「よし!決めた!七海のお父さんに頼もう!」僕は独り言を言い、人形を紙袋に入れ、七海の家へ向かった。
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七海家に着き、インターホンを押すと
「はーい!」
七海が出てきた。僕を見て笑顔で迎え入れてくれた。七海の部屋へ行き、いつものようにベッドに腰掛けた。
「今日七海のお父さんいる?」
「え?いないよ!泊まりで出掛けちゃってる!」
「なんてこった!」
タイミングが悪かった。僕は頭を抱えて考え込んだ。
「何かあったの?」
心配そうに聞いてくる七海に、人形のことを伝えた。
「へぇー、愛美ちゃんが龍くん家に来たんだー。ずいぶん仲イイみたいだね」
そう言って物凄く不機嫌そうな顔になり、目には少し涙が溜まって見えた。予想外の七海の反応に焦った。
「いや、だから愛美はただの幼なじみだし、別に部屋でしゃべってただけだし、やましいことは何もないし!」
僕は何故だか必死になって言い訳を連呼していた。しかし七海の機嫌は元に戻らなかった。
「お父さんが人形供養をしているところを見たことあるから、試してみようか?」
試してみるって言葉が引っかかったが、何もせずに家に持ち帰るよりかは良いかと思い、その提案に乗った。紙袋から人形を取り出し、二人でお寺へ向かった。
僕は七海に連れられて、ある部屋に入った。そこには人形やぬいぐるみが沢山置いてある。
「よく人形が送られてくるの。定期的に供養してるけど、ここに置いてあるのはまだ何もしていないと思う。」
そう言いながら人形を部屋の真ん中に置いた。奥では供養を待っている人形たちが僕たちを見ているようで、薄気味悪かった。
「じゃあ始めるね」
七海は数珠を持ち、お経を唱え始めた。日本人形には何も変化がない。黒いオーラも出ていなかった。10分ほど黙ってお経を聞いていた。
「とりあえず、これで大丈夫だと思う」
七海はそう言うと首を傾げた、
「ほんとにこの人形が愛美ちゃんの言うとおり歩くのかしら」
七海の言うとおり、人形からは黒いオーラが見えたがとても微弱であり、動いたりするのが想像出来なかった。とりあえず人形をここに置いたままで、僕と七海は七海の部屋へ戻り、いつものようにくつろいでいた。
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「あっ、今日は泊まっていくでしょ?今日はお母さんが近所の食事会で遅くなるみたいだから、私がご飯作るね!」
さっきは怒らせてしまったし、人形の供養もしてもらっていたので、当然泊まることにした。七海はトマトがたっぷり入ったスパゲティを作ってくれた。トマトが少し苦手だったが、残さず食べた。
七海がお風呂の準備をするとのことで一階にいる間、僕は七海の部屋でテレビを見ていた。ふと、視界に人形が入っていた紙袋が入ってきた。ふいにその紙袋を持ち上げる。
「なんだこれ」
紙袋の底には小さな紫の巾着が入っていて、何かが中に入っている様だった。巾着を取り出し、中を確認した。
髪の毛だ。
巾着の中に入っていたのは、真っ黒の髪の毛の束だった。僕はゾッとした。こんなの愛美から聞いてない。僕は慌てて髪の毛を巾着に入れ、愛美に電話した。
「龍くん?人形どうだった?」
「七海が供養してくれたよ!」
「へー、七海がねぇー。ありがと!ついでにその人形は処分しといて!」
「人形のことより、紙袋の中に巾着があって、中には髪の毛の束が入ってたんだけど!」
「ん?あー、あれね!髪の毛なんて入ってたの??なんかその人形をパパが貰った時、人形のそばにその巾着を必ず置いておくようにって、くれた人が言ってたみたい。」
僕は電話を切った。なにか、嫌な予感がした。巾着が姿を消したのだ。さっき電話する前に横に置いたはずの巾着が消えてしまった。すると七海が部屋に入ってきた。巾着のことを七海に説明したが、七海は半信半疑だった。部屋の中を隅々まで探したが、巾着は出てこなかった。
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「お風呂入っちゃお!」
七海は笑顔だった。正直不安がいっぱいで気が乗らなかったが、七海の提案でいつものように一緒にお風呂に入ることになった。
僕は先に浴室に入り、体を洗っていた。
「ぴとっ、ぴとっ」
肩に水滴が垂れてきた。その水滴を触るとヌルッとした感触があった。水滴を触った手を見ると手には血が付いていた。
僕は反射的に上を見た。そして見たことを後悔した。浴室の天井には女性がしがみついていた。長い髪の女性だ。そして僕を睨みつけている。口からは赤黒い血が垂れていた。
僕は声にならない悲鳴を上げ、すぐに浴室から出ようとした。
「ガラッ」
七海が入ってきてしまった。僕は七海の腕を掴んで浴室の外に出ようとしが、逆に七海に強く腕を掴まれ制止された。
「どうしたの?」
「七海!上を見てみろ!」
七海が天井を見上げる。
「何もいないよ」
あれっ?と思い僕は再び天井を確認すると、天井には何もいなかった。手には血も付いていない。
「龍くんさっきからおかしいよ?風邪でも引いた?お風呂でよく体を温めてね!」
七海は不思議そうな顔をしていた。そんなは ずはない。確かに僕は見たのだ。七海に言われるまま、僕は浴槽に入った。浴槽に入っていると、段々と僕の吐く息が、白くなっていくのがわかった。外が寒いのは分かるが、浴室の中はもう暖かくなっているので息が白くなるはずがなかった。七海も浴槽に入ってきた。
「龍くん、顔色悪いよ」
七海が心配している。いくら湯船に浸かっても僕の体は全く温まらなかった。むしろ逆に冷えていく感覚に陥った。
「もう出るね」そう言い、僕は湯船から上がった。浴室から出る間際に耳元で、
「返せ」
と女性の声が聞こえた。すぐに後ろを振り返るが、そこには誰もいない。湯船の中で七海が不安そうにこちらを見ていた。
僕は七海のベッドに横になった。僕が見たのはただの幻覚なのか、あの髪の毛はいったいどこにいったんだ。僕の頭の中は混乱していた。体の寒気が増していき、ガタガタと体が震えだし、頭痛もしてきた。
「ガチャ」
七海が入ってきた。
「今日は早く寝よ。無理言ってごめんね」
七海は凄く落ち込んだ様子だった。僕は七海の頭を撫で、深い眠りに落ちていった。
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数時間後、息苦しさで目が覚めた。お腹の辺りがやけに重く感じ、更には誰かが僕に「返せ、返せ」と何度も言っているように感じた。
目を開けるとそこには七海がいた。七海が僕に馬乗りになっているのだ。七海は無表情で僕を見つめている。いつもの七海と何か違う。僕は状況が掴めないまま七海を呼んだ。
「返せ」そう言いながら七海は僕の首を絞めてきた。
「返せ、私の子供を返せ」
その言葉と共に僕の首を絞める力が徐々に強くなっていく。僕は七海の腕を両手で掴み、首を締めている手を必死に外そうとしたが、びくともしなかった。だんだんと頭に血が上っていくのが分かった。僕は七海から両手を離した。ポタ、ポタ、と僕の顔に七海の涙が当たる。七海は無表情のまま涙を流していた。僕はこのまま七海に殺されてもいいと思い、七海を見つめていた。
意識が朦朧としてきた時、七海の部屋に誰かが入ってくるのが分かった。着物を着た女の子が部屋に入ってきた。その子はゆっくりと七海に近付き、七海に抱きついた。
僕の首を絞める力が弱まった。僕は両腕の数珠を外し、七海の腕を掴んだ。
「七海から離れろ!」
僕が叫ぶと、七海から黒いオーラが凄い勢いで放出され、みるみるとそのオーラは女性の姿になっていった。女性は着物の女の子を抱きしめた。女の子は「おかあちゃん」と言い、女性は「よかった、よかった」と涙を流していた。徐々に二人の姿は消え、ベッドの上には黒い髪の毛の束があった。
「龍くんごめんね」
そう言いながら七海は泣いていた。たまらず僕は起き上がり、七海を抱きしめた。僕の胸の中で七海は泣きじゃくった。泣き止むまで七海を抱きしめていた。
泣き止んだ七海を僕はそっとベッドに横にした。七海が目を閉じるのをみて、ゆっくり唇を重ねた。
「ただいまー!」
玄関から七海の母親の声が聞こえた。慌てた僕を見て七海はクスクスと笑っている。僕は頭を掻きながら部屋のドアに目をやった。そこには日本人形が立っていた。
外を見ると雪がちらつき始めていた。僕と七海は手を繋ぎ、ゆっくりと眠りに落ちていった。
作者龍悟
母親の愛を感じた体験でした。
怖くないですが、読んで頂けたらと思います。