私は高校卒業してすぐにカラオケ店でバイトを始めました。
居酒屋や黒服同様、カラオケ店も競争率が激しいものですから、私の働いているお店にはキャッチというシステムがあったんです。
その辺を歩いてる人や飲み終わって二次会カラオケに行こうとしている人に声をかけて、
お客さんを捕まえるのが仕事でして。
仮に私が働いていたカラオケ店をS店とします。
「カラオケいかがですか?S店です!お安くしますよ」
なんつって、声かけるんです。
私は割とキャッチは得意で外に出される事が多く、今まで沢山の人に声をかけて参りました。
やはり、スルーされるか断られる事の方がほとんどなんですよね。
「今日は大丈夫です」
「二次会も居酒屋だからー」
「結構です」
なんてのが大体の断り文句です。
だけどたまにこう言われて断られる事がありました。
「…え?……S店はいいです。怖いから…」
「S店で前にルームで写真撮影したら、心霊写真撮れちゃったからもう行かない」
「私霊感あって、前にS店に行った時、体調悪くして吐いちゃったの。二度と近寄りたくない」
とか言われるんですよ。
私・・・対応に困っちゃいましたよ。笑
もともとそういうの信じないタイプでしたし、私自身見た事なかったんで。
けど、現実とは信じがたい出来事に遭遇しちゃったんですよ。
ある日、台風の影響と月曜日という事もあり、外は人も歩いてないし、店も暇だってんで掃除をする事になったんです。
私が働くカラオケ店は7階までありまして、私の担当は7階のルームの掃除と廊下の汚れ取りになったんです。
「じゃあ7階の清掃に行ってきまーす」
レジの人に声を掛け、私はバケツと雑巾とヘラと…掃除道具一式持って7階までへエレベーターで上がりました。
普段はガヤガヤと騒がしいフロアも誰もいないと何だか少し不気味に思えます。
「よっし、やりますか~!」
気合を入れて手前のルームから順番に掃除を始めました。
当時はマイクにコードが付いているタイプが主流の時代でしたので、マイクのコードに雑巾を巻きつけて普段の掃除よりも丁寧に拭きました。
そんな調子でテーブルの脚や壁に飛び散ったドリンクの汚れ床に貼りついているガム。
そこを重点的に掃除していたんですよ。
最初は有線を聞きながら鼻歌交じりに作業をしていましたが、いつの間にか有線も耳に入らないくらい集中して掃除をしていました。
フと、集中力が途切れ、軽く肩を回して休憩をしていました。
「・・ん?有線が聞こえない…」
何故かさっきまで流れていた有線が止まっていて7階のフロアはシンと静まり返っていました。
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パキ パキ パキ パキ ---
「?」
不意に一定のリズムでパキパキという音が聞こえて来ました。
指をパキパキと鳴らした時のような音が、廊下側から聞こえてきます。
リズム的に言うと時計の秒針の針が刻むくらいの早さでしょうか。
パキ パキ パキ パキ ---
さっきまで暑くて汗をかいていたのが嘘みたいに一気に身体が凍えてきました。
心なしかひんやりした空気が廊下からルームに入ってきています。
とりあえず、一旦下へ戻ろうと思い、ルームを出ました。
パキ パキ パキ パキ ---
「ひっ」
息を呑むような、殆ど声にならない声が口から出ました。
こちらに向かって来る物体・・・
その物体は気味の悪い動きをしながらパキパキと関節を鳴らして進んできます。
形は人に似た形をしています……
ソイツは関節という関節が全て変な方向に曲がっていて、進む度にどこかしらの関節がパキパキと鳴っているんです。
そういうオカルトやお化けなんて信用していなかった私は、ただただ、腰を抜かしました。
その物体の顔ははっきり見えます、
目は空洞で口はエイリアンみたいに歯は剥き出しになっていて黄色く黄ばんだ牙が並んでいます。
肌の色は茶色く、異臭を放っている。
嗅覚で吐き気に襲われたのは、生まれて初めてで、
すっかり動けなくなった私。
それでも物体は容赦なく近づいてくる。
じんわりと徐々に。
私がいた場所は階段やエレベーターがある方とは逆の行き止まりの場所でした。
逃げ道はない。
階段の方にはソイツがパキパキと音を出し、私を視界に捉えたまま、気色悪い動きでこちらに向かってきています。
助けを呼ぼうにも声が出ません。
腰が完全に抜けてしまっていて、近くのルームのインターホンから助けを呼ぼうにも全く身体が動かなくて。
--バチッ!!!
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「ひっ!?」
バチッという音と共に視界が真っ暗になりました。
台風の影響で停電してしまったのです・・・。
私の後ろには非常口の緑色の看板が設置してあり、
それがまた不気味にフロアを照らし、もう恐怖心は最高潮に達していました。
緑色に照らされているのはほんの2メートル先くらいまでで
あの物体の姿は見えません。
ただ・・・
パキ パキ パキ パキ ---
廊下に響くこの音だけが”アイツ”の存在を私に知らせます。
相変わらず一定のリズムで聞こえていた音がフと聞こえなくなりました。
それが更に私の恐怖心を煽ります。
その時でした。
私のポケットに入れていた掃除道具のヘラが落ちてフロアに響きました。
カラン カラン カラン ---
「ッッッ!!!……ッ!?」
私は口を抑えて声が漏れないように必死に耐えます。
身体をこれでもかっていうくらいに小さくし、震える呼吸も必死で堪えました。
パキパキ---
パキパキパキパキ パキ---
「ッッ!?」
再びあの音が響きます。
しかし先程まで一定だった音とは違って不規則に響きます。
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パキパキパキパキ パキパキパキパキ
パキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキ
パキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキ
パキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキ
不規則な音に変わり、
次第にパキパキともの凄い速さで鳴り始め、
音は徐々に近づいてきました。
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「…………!!!!!」
緑色に照らされたフロアの奥から影が近づいてきました。
それは床に這いつくばって、
変な方向に曲がっている身体をカクカクと動かし、
何とも恐ろしい姿でこちらに向かってきています。
「・・・・・・・!!!」
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声も出ませんでした。
息も出来ません。
ソイツは私の顔の目の前でピタッと止まりました。
私が覚えているのはここまでです。
戻らない私を店長が不思議に思い、迎えに来た時、普段は鍵がかかっているはずの非常階段のドアが開いていてそこに倒れていたそうです。
そのカラオケ店は今も絶賛営業中です。
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作者upa
初めてのフィクション作品です。
誤字脱字、文構成が変だったりしたらごめんなさい(´;ω;`)