旦那と離婚した私は
息子と娘を引き取り
安アパートに越してきた。
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二階建てのアパートで、玄関を開けると右手にすぐお風呂場
左手にトイレと階段。
少し進むと台所で奥に茶の間。
階段は大人一人が通るのがやっとの狭さで急な階段。
両脇は砂壁でそれが古いアパートだと物語っている。
二階には6畳の部屋が二つ襖で仕切られていて、子供たちは手前の部屋、私は奥の部屋を使うことにした。
息子は7歳、娘は5歳。
二人共活発で元気な子供に成長してくれていた。
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異変に気づいたのは越してきて一週間くらいだった。
娘「ママ、もう眠いよ…」
時間はまだ夕方5時半。
いつもは「寝なさい!」と怒っても息子と娘は22時位まで起きているのに。
「今日は幼稚園でお昼寝しなかったの?」
娘「お昼寝したけど眠いの…」
そう言って目を擦る娘。
仕方ないので、子ども部屋に布団を敷いて、ご飯まで少し寝なさいと言って、寝かせた。
私は下に降りて夕飯の支度を始めた。
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ドンッ ドンッ ---
?
二階から子供が飛び跳ねているような音が聞こえてきた。
「カナったら起きたのかしら?」
私は階段の下から「静かにしなさい!」
と注意した。
ドンッドンッドンッ ---
さっきよりも激しく二階から音が聞こえた。
私は火を止めて、階段を上がりながら叱った。
「何度言えば分かるの?いい加減に……?」
娘はさっき寝かせた体勢のままスヤスヤと寝息を立てて寝ている。
息子はお向かえの子の家に遊びに行っていてまだ帰ってきていない。
私は不思議に思いながらも、下に降りて夕飯の支度の続きを始めた。
息子「ただいまーー!!」
「おかえり、もうご飯出来るからカナ起こしてきて」
息子「はぁい!」
ドタドタと階段を上っていく息子。
息子「お母さん!カナいないよ?」
二階から息子が言った。
「そんなはずないでしょ?」
ついさっき見に行った時はスヤスヤ寝ていたんだから。
私はキリの良い所で手を止めて二階へ上がった。
「…?カナ?」
息子の言うとおり、娘の姿がない。私は押し入れを開けてみた。
「カナ!…カナ?起きなさい!カナ」
娘のカナは押し入れの中で体育座りの格好で座っていた。
娘「…ママ?」
私「どうしてこんな所に入ってるの?」
娘「今隠れてたの、守ってもらってたの!」
最初何を言ってるんだと思ったがきっと夢でも見ていて寝ぼけて入ってしまったんだろうと思い、あまり気にもしていなかった。
夕飯を済ませ、お風呂に息子と娘を一緒に入れて、その間に後片付けをした。
「お母さん?カナなんかあったの?」
「コウタ?どうしたの?」
息子の表情が曇ってる。
「カナの腕に手の形をしたアザがあるの。それに…」
「…どうしたの?」
私が優しく問いかけた。
「カナが最近おかしいの。さっきもね何もないとこ見てニコって笑ったの。俺怖いよ…」
そう言って涙を流した息子のコウタ。
私はカナを呼んで腕を見せてもらった。
確かに手の形をしたアザがある。
「カナ、どうしたの?これ」
私はカナに優しく聞いてみた。
カナは俯いて言った。
「秘密だから言えないの。ごめんね、ママ…」
それだけ言って私がいくら聞いても教えてくれなかった。
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その日の夜、
ハッとした時は既に手遅れだった。
金縛りだ。
かろうじて目は動かせる。
「ッ!?」
足元の方の天井の角に何かがいる…。
暗くてよく見えないけど
何かがいる…
「あ………、ッ……あぁ……」
声にならない…
「ッ!?」
左側に人の気配を感じ、見るとそこには娘が立っていた。
ボーっと何もせずにただ何かがいる天井の角を睨んでいた。
そのまま意識がなくなり、気がつくと朝になっていました。
「カナッ!?」
私はすぐにベッドから起き上がり、隣の部屋で寝ているカナの元へ走りました。
「カナ…、」
スヤスヤと寝息を立てて寝ているカナの姿を見て一気に全身の力が抜けました。
下に降りて朝食の準備をしていると、
カナとコウタが降りてきました。
「おはよー!」
コウタは朝から元気です。
カナは酷く眠たそうです。
私はすぐにカナに近寄りました。
「ねぇカナ、昨日の夜、ママの部屋で何してたの?」
「え?ママの部屋に行ってないよ?」
カナは首を傾げてそう言った。
嘘を言っていうようには見えなかった。
「カナ、昨日うるさかったよ?」
コウタが言った。
「コウタ、どんなふうに?」
私は優しく聞いた。
「なんか寝言?言ってた。何言ってたかは聞こえなかったけど・・・」
なんか・・・
何かがおかしい・・・
そう思った。
とりあえずその日もコウタは小学校に、カナは幼稚園に行って私は仕事へ向かった。
一通り仕事を終え、私はいつもより早く会社を出た。
娘を幼稚園に迎えに行くと、先生が駆け寄ってきた。
「あ、あの、佐藤さん…、カナちゃんの事なんですけど…」
そう言って、言いづらそうに言葉を濁す先生。
「…カナが何か?」
私は嫌な予感がした。
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先生の話によると
カナはお昼寝の時間になり、みんなと一緒に寝るが、みんなが寝静まるとムクっと起き上がって、勝手に家に帰ろうとするとか。
「カナちゃん、何してるの?」
と先生が聞くと
「ママを守らなきゃいけないの。ママを守らなきゃいけないの。ママを守らなきゃいけないの…」
棒読みでそればかりを繰り返して言ったとか。
その時のカナはすごい力で先生2人係でやっと連れ戻したそうです。
「…ご迷惑、お掛けしました…」
私はそれ以外何も言えませんでした。
娘に一体何が起きているのか…
私を守ると言っている娘は何から守ろうとしてくれているのか…
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「ママー、お仕事お疲れ様ー!」
そう言って、私のもとに笑顔で駆け寄ってくる娘。
「カナ、…ありがとう。」
私は娘を抱き寄せた。
「…ママ?…………モウスコシナノニ……」
「ッ!?」
私は驚き、娘をバッと引き離した。
娘はキョトンとしている。
「モウスコシナノニ」
そう言った時の娘の声はとても5歳の女の子の声じゃなかった。
私は動揺を必死に隠し、娘を連れてコウタを迎えに行った。
いつもは、迎えなんて行かないが、この状況…
どう見てもただ事じゃない…
「お母さん、今日も健二と遊ぶ約束してたのに!」
息子のコウタは遊ぶ約束があったとかで少し機嫌が悪い。
「ごめんね。カナの様子がおかしいの。コウタも気づいてたでしょ?だから今日はカナとずっと一緒にいてあげて?」
私がお願いをすると少し機嫌が治った。
「しょうがないなー!俺、お兄ちゃんだからカナを守ればいいんでしょ?」
なんて言って胸を張った。
家につき、私はコウタにカナから目を離さないようにお願いをして、洗濯物や掃除、お風呂の用意に、夕飯の準備、手際よくこなしていった。
ドンッ ドンッ ドンッ ---
二階からまた子供が飛び跳ねているような音が聞こえた。
コウタとカナが遊んでいるのかなと思ったその時だった。
「お母さあぁぁんっ!!お母さあぁん、来てーー!!カナが…、カナがぁ!」
コウタの叫び声にも聞こえる声が二階から聞こえてきた。
私はすぐに火を止めて、二階へ駆け上がっていった。
「ッ!?」
カナの足が直角に上がり、落ちる。ドンッ
また足が直角に上がっていって、落ちる ドンッ
それを繰り返していた。
カナの顔を覗くと目は開いているが無表情だ。
「カナ…?カナ…」
私は恐る恐る、カナに近づいて手を伸ばした。
「!?」
真っ直ぐ天井を見ていたカナの目はギョロッと一旦白目を剥き、
そして、次の瞬間私を睨みつけた。
その場で腰を抜かしてしまった私…。
コウタは声を殺して泣いている。
「ギャアアァァァァアアアアァァァアア!!」
カナが奇声をを発した。
その時だった。
バンッ ---
押し入れの襖が激しく勝手に開いた。
そしてスルスルっと娘の身体が引きづられて押し入れの中へ入ってしまった。
娘に手を伸ばそうとしたが体が動かない…
金縛りだ…。
恐らく息子もだろう。
何もできず、そのまま襖は閉まってしまった。
するとブワァッっと押し入れの中から黒いモヤみたいなのが飛び出した。
その黒いモヤは私の部屋の方に入って行った。
その瞬間、金縛りが解けた。
「ッ!?…カナ、カナー!!カナ!!」
私はすぐに押し入れを開いた。
「…かな…、」
「…ママ、怖かったよー…」
カナは押し入れの隅で小さくなり肩を震わせ泣いていた。
私自身体が震えていた。
「…直也くんが助けてくれたの」
カナは言った。
「直也くんって誰?」
私は聞いた。
「…そこにいるよ?ここの押し入れに住んでるんだって」
そう言って、さっき引きずり込まれた押し入れを指差したカナ。
私には押し入れしか見えない…
「…その子が助けてくれたの?カナを?」
「うん!」
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カナの話によると
越してきて5日目位から寝苦しい日が続いたらしい。
私と一緒に寝ようと思って、私の部屋に来てみたら、私の枕元に何かがいて、娘に気づいた何かが振り向いたんだって。
とても恐ろしい顔で、娘は動けなくなったんだって。
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髪の長い真っ赤な目をした女が娘を見てニタッと笑ったんだって。
そしたらその女がグワッっと近寄って来て、娘の腕をガシッと掴んで、壁の中に引きずり込もうとしたんだって。
その時に助けてくれたのが直也くんらしい。
いつの間にか直也くんはカナのもう片方の腕を掴んでいて、その女と睨み合い、カナを奪い返してくれたんだって。
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「…君、僕が見えるの?」
「見えるよ。助けてくれてありがとう」
「いいんだ!僕は直也。君は?」
「私はカナだよ!」
「カナちゃんのお母さん、さっきの女に狙われているんだ。」
「でも僕、僕の姿が見える人しか助けてあげられないんだ…」
「カナは直也くんが見えるから助けてもらえたの?」
「うん、でもお母さんは僕が見えないから助けてあげられない。それにアイツを見ちゃったから君も危ないよ!」
「どうして?直也くんが助けてくれるんじゃないの?」
「…僕は明るいところだとあいつに勝てないんだ。僕が力を出せるのは暗闇だけだから…」
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そして娘と直也くんは約束をしたらしい。
もし、明るいうちに”女”が手を出してきたら、娘を自分のテリトリー(押し入れ)に連れ込めば、”女”から守れるはずだと、
せっかくこの家に越してくる人がいても”女”のせいでみんなすぐにいなくなっちゃって、直也くんは一人になるのが寂しかったらしい。
だから、お母さんには内緒にして欲しいと…
そんなことを知ってしまったら、きっと君のお母さんは引っ越してしまうからと…
内緒にする代わりにお母さんを守るからと…
直也くんとそう約束したらしい。
あの日、
カナが私の部屋にいて、金縛りにあっていた日も直也くんにお願いされたんだって。
「カナちゃん、今日は月明かりがお母さんの部屋を照らしているから僕の力、弱いんだ。
それを狙って女は何かしようとするはず。
カナちゃんの身体を少しの間だけ、お母さんを守るために貸してくれない?肉体があれば明るくても”女”には負けないから」
って言われて、直也くんに身体を貸してあげたんだって。
天井にいた何か…
あれが”女”で娘の身体を借りていた直也くんが私のそばにずっといてくれて…
あの女と戦ってくれていたから…
私は何もされなかったのね…
でも…
「…直也くん、ありがとう、でもね、これ以上ここにいると娘の身体がダメになってしまう気がするの…」
「…ママ?引っ越しちゃうの?」
カナが私に涙目で訴えた。
コウタは未だに放心状態。
「ねぇカナ、直也くん、まだそこにいる?」
カナは泣きながら押し入れを見てコクンと頷いた。
「ママの言ってることわかってくれているかな?直也くんは…」
カナは押し入れの方に身体を向けた。
「…直也くんがいるじゃん!………カナは平気だもん…」
なにやら直也くんと会話しているらしい。
私には直也くんの声は聞こえない。
「…直也くん、また一人になっちゃうよ?私たちを直也くんは助けてくれたんだよ?…………わかった…」
娘は私の方を見て口を開いた。
「引っ越したほうがいいって…ヒック…私の身体が心配だって、……僕もお化けだから、僕と関わってたらダメだって…いつでも傍にいるから、僕は大丈夫だから、ママの言う事聞いてって」
そう言って娘は号泣した。
私も泣いた。
息子も泣いていた。
その日から毎日押し入れにお菓子やジュースをお供えした。
引越しをする前の日まで直也くんがいる押し入れのある部屋でご飯を食べ、3人で一緒に川の字になって寝た。
直也くんの姿はカナにしか見えないから、どんな子なのかとか、直也くんの話もいっぱいした。
直也くんは6歳で、気づいたらここにいたんだって。
自分が生前何をしていて、なんで死んだのかも分からないんだって。
唯一覚えているのは名前だけだったらしい。
いつも住人を守ろうと色々したけど、
結局直也くんの姿をみんな見えていないから、
いつも”女”にされるがままだったんだって。
直也くんの姿が見えた子はカナが初めてだったから、どうしても守ってあげたかったんだって。
引越し当日も朝にお供えをした。
最後、家を出るときに
「…ありがとう、ごちそうさまでした…」
って男の子の可愛い声が聞こえた気がした…。
作者upa
あまり怖くはないかもしれません(´;ω;`)
優しい気持ちになれる、泣けるお話になっています!!