俺には4つ年上の姉がいる。今までにも散々彼女の外観、性格及び性癖については繰り返し説明してきたので、補足する必要もないと思うが、それでも短く一言でまとめてしまえば、かなりブラコン度が高い姉である。
将来は弟であるこの俺と結婚したいと豪語している程だ。幾ら義理の姉と弟であるとはいえ、世間や法律が赦してくれないとは思うよと、やんわり言ってみたのだが、「法律?ンなもん、塵と一緒に棄てちまえ」などと、警察官が聞いたら憤慨しそうな台詞をさらりと吐いていた。侮れないお人である。
さて。それではそんな姉さんに纏わる、最新のエピソードをご紹介しよう。
最近、俺は……というか、俺や両親は不眠に悩まされていた。というのも、家の庭先にある名も知れぬ木に、やたらと鳴き声が煩い鳥が住み着いてしまったらしいのだ。
姿形は見たことがないので、一体どんな種類の何という鳥であるのかは分からない。ただ、やたらと鳴き声の煩い鳥らしく、特に夕方から夜にかけて、ギャアギャアと鋭い鳴き声を上げるので、煩くて眠れないのである。
俺とパパとママはすっかり寝不足だ。だが、姉さんは寝付きがいいらしく、1人だけ朝までぐっすり寝られているので、大変羨ましい。
そんなこんなで。もう一週間も不眠が続いてしまい、もう限界に近い。安眠を得るためには、庭の木に住み着いてしまった鳥を追い払う以外には方法がないようだ。俺は学校から帰宅すると、物干し竿を持って再び庭に出た。とりあえず物干し竿で適当に木の枝を叩いてみる。
「えい。えいえい。えいえい。えーい!」
すると遥か上の方から、またギャアギャアと喧しい声が聞こえた。だが、枝を叩いた音に驚いただけらしく、飛び立って逃げ出す様子はない。くそう、どうしたものか。
「よお、鴎介。何してんだ」
後ろからポンと肩を叩かれた。振り返ると、制服姿の姉さんが立っていた。姉さんも学校から帰ってきたらしい。俺が事の説明をすると、姉さんは「何だ、そんなことか」と快活に笑い、足を肩幅に開いて一言。
「肩車して。どんな鳥がいるか見てやる」
「……今、何と仰いました?」
「か、た、ぐ、る、ま、し、て。ど、ん、な、と、り、が、い、る、か、み、て、や、る」
「かっ、」
肩車ァ!?いい年に育った姉と?弟が?
「で、でも、姉さんスカートじゃん。スパッツとかジャージを履いてるなら話はまた別だけど……。流石にスカートのままじゃ、」
「別にいーじゃん。ほら、さっさとしゃがめ」
「………」
基本的に姉さんには従順な俺は、渋々ながらもしゃがんだ。幸いにも姉さんは華奢なので、少し無理すれば小柄な俺でも何とか持ち上げることは出来た。
「でもさぁ。見るっつったって、鳥はかなり上の方にいるみたいだよ。幾ら肩車しているとはいえ、高過ぎて見えないんじゃない?」
「大丈夫。私の視力は両目とも7.0だ」
7.0っていえばマサイ族並みじゃねえか。俺の姉さんはマサイ族なのだろうか……。
ぎゅっと太ももで頭を挟まれる。ついでに頭を小突かれた。
「何か言ったか?」
「いーえ別にィ。なぁんにも」
「いるぞ、鳥。あれは百舌鳥だね。へぇ、珍しい」
「百舌鳥?」
「百舌鳥は動物界脊索動物門鳥綱スズメ目スズメ科モズ属に分類する鳥のことだ。北海道や九州あたりでよく見掛けるらしい。百舌鳥の名の由来は”百の舌を持つ鳥”ーーーつまり、他の鳥の声を真似ることからきている。百舌鳥は雑食で何でも食べる。昆虫や甲殻類、爬虫類、哺乳類、何でもござれ。百舌鳥はな、鳥類にしては珍しい習性があるんだ。捕まえた獲物を木の枝に刺し、それを食べたり、時にはそのままにして飛び去っていく。枝に串刺しになった獲物はやがて干からび、それを”百舌鳥の速贄”と言うんだ。どうして百舌鳥にそんな習性があるのかは不明らしいけどな」
「へえ……」
百舌鳥、ねえ。視線を上に向けるが、俺の視力では残念ながら見えない。別に見たいわけではないが……というより、どっかへ行ってほしい。
俺は首を傾げるようにして、姉さんに顔を向ける。
「何とかして百舌鳥を追い払えない?」
「嗚呼、出来るよ。見てな」
姉さんはぐっと体を反らす。下でそれを支える俺は、危うくバランスを崩し掛けるが、そこはそれ。一応、オトコノコであるため、姉さんの白い太ももをぎゅっと手で押さえる。ご近所の皆さんにこの光景が見られていないことを願うばかりだ。ご近所さんならまだしも、仕事帰りの両親にでも見られたりしたら終わりである。一家離散は間違いない。
人の気苦労など知ってか知らずか。姉さんは右手を真っ直ぐ伸ばし、人差し指と親指をピンと立てる。分かりやすい言い方をすれば、「ピストル」の形を作った。そして可愛くウインクしながら、
「BANG!」
ザッ…ザザザッ……ドサッ。
俺達の目の前に、やたらとデカい怪鳥みたいな鳥が落ちてきた。思わず息を呑む。今、一体何が起きたんだ?
姉さんが俺の頭で頬杖を付きながら言った。
「デカいなー。こりゃ百舌鳥の化け物だね。このまま放っておいたら、私らが喰われてたかもしれねーな。人間の速贄だぜ?洒落になんねーよなぁ」
作者まめのすけ。