あっちむいてほい。【姉さんシリーズ】

中編5
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あっちむいてほい。【姉さんシリーズ】

俺には4つ年上の姉がいる。正式な姉弟ではなく、義理の姉弟として一つ屋根の下に住むこと数年。

彼女のことを「姉さん」と呼ぶにも慣れ、健全……であるとは言い難いが、それでも特に問題なく、普通に……とも言えないが、まあ、仲良くはしている。

朝起きて顔を会わせれば「おはよう」と挨拶し、寝る前には「おやすみ」と挨拶する。職業柄、両親が遅くに帰宅するため、毎日のように一緒に食事を作って一緒に食べる。時には取っ組み合いの喧嘩もするけれど……どちらからともなく「ごめんね」と言い合って仲直りだ。

どこから見ても普通の姉と弟。だが、俺達は「普通」であるとは言えない。何故ならーーー見えるからだ。この世ならざるモノが。アヤカシが。怪異が。見える。見えてしまう。

この俺も、姉さんと行動を共にしているせいなのか、頻繁に不思議な現象に遭遇したり、時には危ない目に遭ったり……実に奇妙奇天烈な日常を送っている。まあ、簡単な御祓いが出来る姉さんとは違い、俺は見ることしか出来ないのだが。何ともおかしな姉弟である。

そんな話をふと姉さんにしてみたら、彼女は実に下らないというように鼻で笑った。

「見えてしまう人間が異常で、見えない人間が正常なのか?違うね。物事はそんなに短絡的じゃないんだよ。なぁ、鴎介。見える人間にも見えない人間にも、大した差はないんだよ。怪異ってーのはな、目の前に現れるモノじゃあないんだよ」

「なあ、玖埜霧。お前は幽霊を見たことがあるか?」

箒を片手に小声で耳打ちしてきたのは、クラスメートの悪友こと岩下孝文(イワシタタカフミ)だった。黒板消しを窓辺でパンパンと叩いていた俺は、面倒臭いなぁと思いつつ振り返る。

「何だよ、掃除中に。幽霊がどうしたって?」

「いやね、お前は幽霊とか見たことあるのかなーって。お前の姉貴、霊感強いんだろ?だったらお前もそうなのかなーって思ってさ」

「……そのテの話かよ」

誰がそんな噂を流しているのかは知らないが、うちの姉さんに関する様々な憶測が、このクラス内に飛び交っているのだ。そのため、よくクラスの連中が好奇心に抗えず、姉さんのことを俺に聞いてくるのである。

俺は綺麗になった黒板消しを抱え、窓を閉めた。あとは塵を捨てて、立ち並ぶ机を整理整頓させれば掃除は終了。そしてさっさと帰ろう。

「ふっふっふ。実はな、俺は今、霊感を上げるためのトレーニングをしているんだ」

「あ?何だって?」

霊感を上げるためのトレーニング?キョトンとしていると、岩下は得意気に頷き、箒を投げ捨てて俺に詰め寄ってきた。

「俺ってこう見えてオカルト好きな男子中学生なんだよ。でも残念なことに、霊感はからきしなんだよ。ああいうのって、先天的なものなんだろ?」

「生まれもっての能力ってことか?それは……どうなんだろう……一概にそうとは言い切れないような……」

「含むような物言いだな。まあ、それはともかく!」

岩下は自分の胸板を拳でドンと叩き、けほけほと蒸せた。思っていたより強い力で叩いてしまったらしい。何してんだが。

「…っ、聞け、玖埜霧。けほっ……、俺はだな、霊感を上げる…けほげほっ、ト、トレイニングを……」

「その件は聞いた。トレーニングって具体的にどうやるんだ?」

「ふっ。興味が湧いたか。では話してやろう」

ようやく落ち着いた岩下から聞いた、「霊感を上げるためのトレーニング」が以下である。

¤部屋を暗くする。深夜がベスト。電気は勿論、外部から光が漏れて入ってこないよう配慮する。

¤磁石を天井から細い糸で吊す。

¤その磁石をジッと見つめる。出来るだけ瞬きはせず、長い時間、磁石を見つめ続けること。

「これを毎夜繰り返しているとな、霊感が上がるらしい。幽霊なんかも見えてくるんだってさ」

どこから仕入れた情報だか知らないが、岩下はこの方法で霊感アップ?を目論んでいるらしい。何で幽霊を見たいと思うようになったのかは聞かなかったが……世の中には色々な思考を持った人間がいるものだ。

それでも何となく気にはなったので、俺は姉さんに岩下の秘密トレーニングについて聞いてみた。

「話の内容としてはこうなんだけど。そんなことして本当に霊感が上がったりするもんなの?」

姉さんの自室にて。フローリングの床の上でで胡座をかいて座っていると、姉さんも「よいしょっと」と言いながら、俺の膝の上に座ってきた。

「ちょっとちょっと、姉さん……。弟を座布団代わりにしないで下さいよ」

「岩下君に伝えとけ。君がしていることは、愚行以外の何物でもないってな」

「ハッキリ言うねー。つまり、そんなトレーニングをしたところで、霊感は上がらないってこと?」

「うーん、そういうんじゃなくてだな……」

俺の膝の上に座りながら顎に手をやる姉さん。数分後、やおら右手の人差し指で右側を指した。

「あっちむいてほい」

「…はい?」

「あっち。右側。私が指差した方角を見てみ」

わけが分からなかったが、とりあえず言われた通り、右側を見る。そこには「黒い人」がいた。

「……っ、」

目もなければ鼻もない。口も耳もーーー何もない。よく見ると、細かい虫のような小さな塊が大量に集まっていて、それらが凝り固まって黒い人型を象っているようだ。

「鴎介。そこに何かいる?お前には見えているか?」

「な、何あれ……。黒い人型が見える……」

「そう見えるか。アレはな、お前の眼球内にいる怪異だよ」

「がっ、」

眼球内!?眼球って……眼か?眼の中にいる?どういうことだ?姉さんはくすりと笑い、「まあ落ち着け」と呟いた。

「とある学者がな、実に興味深い学説を発表したんだよ。大雑把にまとめると”怪異とは、人間の眼球の中にしか存在しない”って感じかな。怪異は、見ようとして見るモノじゃない。実体がなくあやふやな存在だが、存在していないわけでもない。人間の眼球にこそ、怪異は存在している。だから見える。逆を言えば、見えない人間の眼球内には、怪異はいないんだよ」

「人間の眼球に……いる?怪異が?」

俺の眼球の中にも、怪異が存在している?

だったらーーーだったら、姉さんも?姉さんの眼球内にも、怪異はいるのか?

姉さんがくるりと振り向いた。目が合う。黒みがちな大きな眼球が、まっすぐに俺を捉えていた。

「鴎介。お前の眼球には私がどう映っている?”人間”に見えているか?」

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岩下く~~ん!!
ナイスキャラ過ぎです

今後の姉弟の関係、展開が楽しみです。

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(^^ゞGhost様☞言葉遊びの弟子。

コメント、ありがとうございます。

実は最近、色々とありまして……。壁にぶち当たり、どうにもこうにも上手くいかず、一人でうだうだしておりましたが、読者様のコメントを見返し、勇気づけられました。ありがとうございます。

こんな人間ではありますが、どうぞ見捨てないで頂きたく思います。

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この幽霊見る方法、前にぬーべーで紹介(?)されてましたね!
自分の友人もそれを見て試したらしいんですがからっきしだったそうです。

それはそうと、やはり話の構成が面白く、次が気になります!

頑張って下さい^ ^

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綾鷹様☞言葉遊びの弟子。

コメント、ありがとうございます。

胡座をかいてお座り下さるのですね(笑)。姉さんが座りに来たら上手く対処して下さい(笑)。

私はある小説に感銘を受け、価値観がひっくり返りました。この作品を手掛けましたのは、その小説に影響されてのことなのです。

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赤煉瓦様☞言葉遊びの弟子。

コメント、ありがとうございます。

”自分の眼球に映っているものが世界である”
とある著名な作家様の小説に、こんなことが書かれておりました。

世界というものは、広いように見えますが、実際には眼球に映っている範囲だけのもの。人は知らず知らず、そう認識しているようです。

私自身の価値観が全面的に押し出された内容でしたので、もしかしたら不快な思いをされる読者様もいらっしゃるかもしれませんが、どうぞお許し下さい。

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来道様☞言葉遊びの弟子。

コメント、ありがとうございます。

またまた吹き出してしまいました(笑)。来道様の眼球には、とてつもないことが起きているのですね(笑)。

死神の眼球より凄いですね(笑)。

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非常に、興味深い話ですね。何か納得してしまいました!とりあえず胡座かいて座ってみます꒰ ´͈ω`͈꒱

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眼球に怪異ですが…!なにやら興味深い内容ですね。
私自身が今見据えているものが、周りの方々は同じく見えているのか気になります。

岩下君の行動力には、驚かされますね(爆笑)

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ね、姉さん。
僕には裸の姉さんが眼球内に見えます(;´Д`A
みみりん(;´Д`A

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彩貫様☞言葉遊びの弟子。

コメント、ありがとうございます。

岩下君……実は私も彼のことを密かに気に入っております(笑)。彼は以前の作品にも二度ほど登場していつりますが、何かしらしでかしてくれます(笑)。

でも単純かつ動かしやすいため、個人的に好きですね(笑)。

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エリナ様☞言葉遊びの弟子。

コメント、ありがとうございます。

この作品は、私自身の価値観が全面的に押し出されておりますので、上手く伝えることが出来ず……自分の未熟さが歯痒いです……。

文章力プラス構成力が欲しい。

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でぇぇ⁉︎⁉︎姉さん⁉︎笑 眼球に怪異は嫌です…
そして、岩下君もなかなかいいキャラしてますね。

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今回も楽しませてもらいました!!
まさか、眼球に…

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