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おや......これはこれは、ようこそいらっしゃいました。
お一人様ですね?
......はい?
何がなんだか分からない?
道に迷われたんですか...
お困りの様なので手助け致しましょう。いえ、お気になさらず。
こんなところに店を構えていると退屈なものでしてね。
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まあまあ、そう急がないで下さいな。そんなに幾つも質問されては落ち着きませんから。
まずは好きなところにお掛け下さい。
見ての通り、席は選び放題です。悲しいことですが。
はい、それでは、何でしたっけ?
ああ、ここは何処なのかという質問でしたね。
うーん、詳しい場所はお伝えできません。大きな川のほとりとでも言っておきましょうか。
おやおや、そう気を悪くなさらないで下さい。私だってふざけている訳ではありません。
そういう決まりなもので...。
コーヒー、いかがです?
どちらでもいい、ですね。かしこまりました。
........................はい、どうぞ。あ、ミルクは切らしてまして、申し訳ない。
え?ああ、お代は結構ですよ。
差し上げます。
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さて、お客様に一つ、助言を申し上げます。
あ、聞かれなくても結構ですが、どうなさいますか?
......そうですか、賢明な判断です。
では、「もし貴方が貴方の望む結果が得たいのならば、私の話を良く聞くとよろしい」
方法はそれだけです。
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何が言いたいのかが分かりませんか......仕方がありません。しかし助言は助言として受けておいて下さい。
さあ、砂糖はございますので冷めないうちに。
はい、何でしょう?
......。
いいえ、大きな川とは多摩川ではありませんよ。
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多摩川の近くにお住みで?
...なるほど。
多摩川.........思い出しました。今が旬のネタがあるんです。良かったらお聞きになりますか?
ついさっき仕入れた新鮮なネタでー
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ーおや、もう行ってしまわれるのですか?
やめておいた方がよろしいかと。
そんなに焦らないで下さい。
ちょっと......お客さん...!?
ーだめだ!行ってはいけない!!
おっと、驚かせてしまいましたね。
急に大声を出して申し訳ない。
ただ、もう少ししたら船が来るので、それまではここでおくつろぎ下さい。
そのための場所でもありますから。
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待っていって下さいますか?
...ありがとうございます。
今店を出ても道は見つかりませんよ......。
いえ、何でもありません。
...では多摩川の話を始めますか。
随分と口数の多いバーテンですと?
ふふ、面白い事をおっしゃいます。
私も久しぶりに若い方が来られて嬉しくて、つい。
話、聞いていただけますね?
助言に従っていただけるようで嬉しいです。
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さて、多摩川の近くに、この話の主人公となる一人の青年が住んでいました。
年の頃は19、背丈は......ちょうどあなたぐらいです。
名を_____と言います。
はい?聞き取れませんでしたか?
_____ですよ。_____君。
あれ?おかしいな...。
(もう記憶の侵食が......?)
独り言です、お気になさらず。
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まあいいでしょう、そういう子が居たんだと理解していただければ結構です。
その子はこれといって特徴のある子ではありませんでした。
唯一テニスが他の人よりも出来たくらいです。
生まれてからずっと平和な、言ってしまえば平凡な生活を送っていた彼でしたが、18の時に運命の出会いを果たします。
相手は高3で一緒のクラスになった女の子。
二人はすぐに恋に落ち、想い出を重ねていきました。
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そして話はその半年後。
秋も終わり、冬が近づく風の冷たい日でした。
彼女との約束に遅れそうになった彼は、必死に自転車を飛ばします。
約束の場所まであと少し。
ちょうど時間に間に合いそうでした。
前方には最後の交差点
信号は黄色
勢いのまま突っ切ろうと最後のペダルを踏みます
そして次の瞬間
クラクションの悲鳴
一拍置いて巨大な衝撃音
横滑りするトラックと、宙を舞う身体
交差点を青年と信号の赤が染め上げました
少年は2メートル近く吹き飛んで、頭を強打したそうです...。
......という話です。
唐突に終わってしまいましたが、こういう話なので...
その後?さあ、どうでしょう。
さすがに私にも「先」のことはわかりません。
どうかされましたか?落ち着かない様子ですが。
え?今の時間、ですか?
おや、腕時計が壊れていらっしゃいますね......。
店の時計はあれですが......短針がないものでして。
あ、ちょうど船が来る時間です。
すっかり話し込んでしまいました。
...もう店を出ても平気ですよ。
ですが!ですが、少しお待ちを。
急がば回れというでしょう。
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一つ助言を致します。
最初の助言を覚えていらっしゃるなら、どうなさるべきかは自明の理ですね。
はい、そうでございます。
では、「もし行きたいなら、店を出て真っ直ぐ左に行くとよろしいー」
って、お客様、礼を言うのはまだ早いです。
話をお聞きに......待ってください!
...お客様ーー!!
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............ああ...行ってしまわれましたか
だから助言を申し上げたというに......
これもまた運命、ということですか
助言に従っていれば、最後まで聞くことが出来たでしょうに...
『行く』なら店を出て左に、
ただもし、『帰る』なら右に......とね。
作者ダレソカレ
こんにちは、ダレソカレです
新感覚を求めるあまり、迷走...いえ爆走しております。頭に浮かんだままを文字に起こしたので、好みの別れる(そしておそらくあまり好かれない)内容であると思いますが、読んで頂けると嬉しいです。
コメント、タグ、怖い等大歓迎です