十五回目の投稿です。
僕はアルビノと呼ばれる先天的な病気です。
体毛が白金であり、肌が白く目は淡い赤色です。
アルビノだからという訳ではないと思いますが、物心つく頃から霊的なものを見ることができます。
まわりから変な目で見られ続けてきましたが、幼なじみの家がお寺の七海のお陰でさほど孤独な思いはしませんでした。
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あれは高校一年の桜舞い散る季節のことだった。
僕と七海は同じ高校へ通っている。
偏差値は中の上くらいで、七海はもっと上の高校を狙えたが、僕に合わせて今の高校に決めたのだ。七海には申し訳ないという気持ちが強かったが、一緒に同じ高校に通える喜びの方が勝ってしまっていた。
そして高校に入ってから友達と呼べそうな奴が一人出来た。
そいつは同じクラスのお調子者『塚原亮介』。茶髪に両耳にピアスと、不良っぽさをアピールしているが、根は真面目で純粋そうな奴だ。
入学式にいきなり話し掛けられたのがきっかけで、それから何となく一緒にいることが多くなった。
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ある日教室の席に座って朝礼の鐘を待っていると、教室の入り口に完全に生気を失ったような表情をした人が立っているのに気付いた。
そいつは今にも倒れそうなくらいふらふらと体を揺らしながら、僕の机にもたれかかってきたのだ。
「亮介、そこに居られると邪魔なんだけど」僕は机にもたれかかっている亮介の体を強く揺すった。
亮介はその体勢のまま、ゆっくりと顔を上げて僕に助けを求めるような眼差しで見つめてくる。
「りゅうごぉぉ…助けてくれよぉ…」
亮介の声を聞いた途端に、嫌な予感がふつふつと込み上げてくる。
「何かあったの?」
「それがさぁ、ここ最近変な夢にうなされるんだよ…しかも見る夢はいつも同じなんだよな」
亮介は眠たそうな目を擦り、話を続ける。
「返してぇ、返してぇって真っ黒な人影が追ってくるんだよ。怖くって必死になって逃げるんだけど、急に足が重くなって立ち止まって足下を見ると、そいつが俺の足を掴んでるんだよな」
亮介は夢のことを思い出しているのか、身震いしていた。
「それで?」
「そこでいつも目が覚めるんだよ…俺、あの夢を見るのが怖くて…」
「ただの夢だろ?その内見なくなるんじゃない?」
亮介は充血しきった目を見開き、僕の肩を掴んできた。
「これはただの夢じゃないんだよ!これを見てみろって!」
亮介はそう言うと、ズボンをめくり上げた。亮介の足首には赤紫色の痣があり、その痣は手で握られたような形に見える。
「これって『普通』じゃないだろ?!なんかの『呪い』じゃないか?龍悟って霊感あるんだろ?どうしたらいいか教えてくれよ!」
亮介は今にも泣き出しそうな顔で僕を見つめてくる。僕は『呪い』という言葉が嫌で嫌でしょうがなかったが、こんなに困っている亮介の姿を見るのは初めてだったため、仕方なく協力しようという気持ちになった。
「わかったよ。とりあえず変な夢を見るようになったきっかけとか、心当たりはないの?」
「ある!」
亮介は声を張り上げて勢い良く自分のズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「ガンッ!」
僕の机の上に亮介が拳を叩き付ける。そしてゆっくりと握りしめた拳を開いていく。
「これ見てくれよ」
亮介の手のひらには薄汚れた真っ赤なミニカーがちょこんと置いてある。
「何これ…」
「多分これが呪いの正体だと思う!」
僕は先程からの亮介の言動に全く理解が出来ずに心底困惑した。
「おい!なんて顔してるんだよ!真剣に聞いてくれよ!」
「キーンコーンカーンコーン…」
朝礼の鐘が教室内に響き渡る。
「放課後必ず残れよな…」
亮介はそう言ってふらふらと自分の席へ向かっていった。亮介の背中は負のオーラに満ち溢れているように見えた。
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その日の放課後
「龍悟!」
帰りの用意をしていると、亮介が急ぎ足で僕の所へ向かってきた。
「朝の話の続きを聞いてくれよ!」
亮介はそう言って僕の前の席に腰かけた。
「龍くん!」
教室の入り口に七海の姿が見えた。
「一緒に帰ろう!」
七海は可愛い笑顔で僕に近付いてくる。僕は席を立ち、七海の方へ近付こうとした。
「ちょっと待った!いくら龍悟の彼女さんでも、今日はこいつを渡す訳にはいかないんだ!」
亮介は立ち上がり、七海の胸の前に腕を突き出して七海が僕に近付くのを静止した。
「パチン」
七海は亮介の腕を右手で叩き、亮介に冷たい視線を送る。亮介は七海の視線に少したじろいでいる様に見えた。
「塚原くん邪魔しないでくれるかな?迷惑なんだけど」
七海は僕以外の男子に対しては、相変わらず冷たい反応である。亮介に少し同情してしまう程だ。
「ほ、本当にヤバいことになってるんだよ…」
亮介は目に涙を浮かべながら僕に助けを求めてくる。
「七海、話だけ聞いてからでもいいかな?」
「龍くんがそう言うなら…」
七海は亮介が座っていた椅子にちょこんと腰掛けた。
亮介は大きなため息を付いて話し出した。
「数日前のことなんだけど、先輩に連れられて肝試ししたんだ…」
亮介は長々と説明してきたが、早い話がこうだ。
亮介は先輩二人と僕達の通う高校の近くの空き家に肝試しに行ったらしい。
噂ではその空き家は数年前に一家心中があり、夜中にその家の前を通ると誰もいないはずの空き家から子供の声が聞こえたり、電気が勝手に点いたり消えたりするという。
亮介達は夜中にその空き家に忍び込んでみたが何も起こらず、少しがっかりしながらその日は解散となった。
そして家に帰ると、ズボンのポケットに何か入っていることに気付き、ポケットに手を突っ込んでみたら赤いミニカーが入っていて、それから毎日のように変な夢にうなされるようになったとのこと。
「要するに自業自得ってことね。じゃあ龍くん帰ろっ!」
七海は亮介の話が終わった途端に、僕の腕を掴んで立ち上がろうとした。
「ちょい待ちぃぃい!!」
亮介は裏返った声で叫びながら、僕と七海の腕を掴んで机に押し当ててきた。
「頼むから何か解決策を考えてくれ!」
亮介は両手を合わせて何度も頭を下げている。
「そのミニカーを空き家に返しに行けばいいんじゃない?」
七海の言葉に亮介は時間が止まったかのようにピタリと動かなくなる。そして、勢い良く七海の両肩を掴んだ。
「ナイスアイデア!それしかない!よし行こう!今行こう!」
亮介は急に笑顔になり、僕達の腕を掴み無理やり立たせた。七海は今にも亮介をビンタしそうな雰囲気を出している。
「七海、ミニカーだけ返してすぐ帰ろ!そうじゃないと亮介はしつこいから」
七海は物凄く不機嫌な様子であったが、渋々了承してくれた。
七海は先に教室から出て行った。
「龍悟の彼女って可愛いけど、すげぇ性格きついのな」
亮介はそう言いながら、自分のズボンのポケットからミニカーを取り出し、僕のズボンのポケットに無理やりそのミニカーを入れてきた。
「おい!亮介!」
僕が叫ぶも、亮介は不適な笑みを浮かべて走って教室から出ていった。仕方なく僕も苦笑いして教室から出た。
亮介の言う『空き家』は僕達の高校から歩いて数分の所にある。二階建てで、外壁は青色で統一され、見た目はまだ新しめの家だ。
通学路の途中にあり、何度か目にしているが特に怪しい雰囲気は感じたことがなかった。
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「明るい内にとっとと済ませちゃいますか!」
空き家の前に着くと、亮介は何故かテンションが上がっていた。
「龍くん」
七海が僕の制服を引っ張ってくる。それと同時に家の中からじめっとした視線を感じた。
「ドンッ」
後ろにいた亮介が僕の肩にぶつかりながら、空き家の玄関ドアに近付いていく。そして何の躊躇もなく玄関ドアを開けて、空き家の中に入ってしまった。
一瞬の出来事に僕も七海も言葉が出ず、立ち尽くしてしまった。
「なんだよ亮介の奴。勝手すぎるよ」
僕は小さく独り言を言うと、七海は僕の左手を握り締めてきた。七海はそのまま一言も喋らずに、僕の手を引いて玄関の前に立った。
「七海?」
七海は僕の声掛けに反応することなく、玄関ドアを開き、僕の手を強く引いて家の中へと入っていった。
「カチャ」
玄関のドアが閉まると、まだ夕方だというのに家の中は暗闇に包まれていった。
玄関から真っ直ぐ細い廊下が、奥へと続いている。
「ダンダンダンダンダンダン…」
奥の方で亮介の階段を上がっていく音が聞こえた。
「ほんと亮介は困った奴だよね」
七海に話し掛けると、七海はゆっくり僕の顔をのぞき込んでくる。
「ガチャガチャガチャガチャ」
急に玄関のドアノブが荒々しく勝手に回り始めた。僕はその音に驚き、足がもつれて転びそうになるが、七海が僕の手を引っ張ってくれたおかげで転ばずに済んだ。
七海はいつもの笑顔で僕を見ている。
「とにかく上がって」
七海はそう言うと握っていた僕の手を離し、静かに廊下を奥へと進んでいく。
七海の後を追うように廊下を進んでいくと、突き当たったところにガラス張りになったドアがあり、ガラス越しにキッチンや大きなテーブルが見えた。そしてすぐ右手には二階へと続く階段がある。
「亮介!」
階段の下から亮介を大声で呼ぶも何も反応は無く、家の中は不気味なくらい静まり返っていた。
「トントントントントン…」
七海は迷うことなく階段を上り始めた。階段を上る単調な足音が階段の奥へと響き渡っていく。
「ドンドンドン!ドンドンドン!」
玄関のドアを強く叩く音が聞こえ、あまりの音に身がすくんでしまった。
玄関の方を振り返るが、そこには何もない。
二階にいる七海と亮介のことが気になり、僕も階段を急いで上っていった。
階段を上りきるとすぐ右手に部屋があり、部屋のドアが開いていた。
部屋の中に入ってみると、そこは子供部屋の様で勉強机があり、その周りにはおもちゃが散らかっている。
そして部屋の奥に窓があり、七海と亮介が二人並んで窓の外を見ていた。
「ねぇ、二人とも何を見てるの?」
二人に近付きながら声を掛けるも二人共反応は無く、ただ窓の外を眺めているだけであった。
二人の間から僕も窓の外を覗いてみる。
「えっ…」
窓の外の光景に自然と声が出てしまった。そして僕の全身の毛穴から冷や汗が溢れ出る感覚に陥った。
窓の外を見ると、玄関の前で七海と亮介が僕に向かって手を振っている。
いったいどういう状況になっているのか理解ができない。僕の隣には七海と亮介がいるのに、この家の外にも七海と亮介がいるのだ。
「おーい!大丈夫かー?!」
「龍くーん!」
外では亮介と七海が僕を呼んでいる。
僕は頭を抱え、数歩後ずさりをした。今何が起きているのかまったく分からない。
僕の目の前にいる七海と亮介は、窓の外を見たまま体がガクガクと震えだしている。
「返してよ」
僕のすぐ後ろで子供の声が聞こえた。
恐る恐る振り返ると、そこには小学生くらいの男の子が僕を物凄い形相で睨みつけている。
「返してよ…返してよ…」
男の子の声は徐々に大きくなる。
僕はミニカーのことを思い出し、ズボンのポケットに手を入れてミニカーを取り出し、男の子に差し出した。
男の子はミニカーには目もくれず、更に僕に近付いてくる。
どうなってるんだ!ミニカーを返してほしいんじゃないのか?
「ギュッ」
七海が僕の腕にしがみ付いてきた。とにかくここから出なくてはと思い七海の方を見た時、一気に血の気が引いた。
僕の腕にしがみ付いているのは七海ではなかった。長い髪の毛を顔の前に垂らし、呻き声を上げている女性が僕の腕にしがみ付いているのだ。
背筋に激しい悪寒が走り、僕は身動きがとれなくなってしまった。
「カエシテカエシテカエシテカエシテ」
耳が痛くなる程の大声で男の子は叫びだした。
「ぼとっ…」
先程まで僕の腕を掴んでいた女性の右腕が床に落ちている。
「ああああああああああ…」
女性は大きく目を見開きながら叫びだし、そのまま首がぼとんと床に落ちた。
「ひぃぃ」
僕は小さく悲鳴を上げてしまった。
僕の悲鳴に合わせて、女性の体はバラバラに刻まれたかの様に床に崩れ落ちていった。
僕はその光景を見て、意識が遠くへ飛んでしまった…
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「トントントントントントントントン」
目が覚めると僕は見覚えのない台所のテーブルに座っている。頭がぼーっとしてなんだか夢を見ているような気分だ。
「もうすぐご飯できるからね」
声のする方を見ると、さっきの女性がエプロンを着けて、キッチンでご飯の支度をしている。
「ピンポーン」
インターホンの音が家の中に響いた。
「あら、もう帰ってきた!はーい!」
女性は嬉しそうな表情で玄関に向かっていく。
「今日は早かったのね!」
女性に連れられてスーツを着た男性が台所へ入ってきた。そして二人はそのままキッチンの方に向かった。
「ドスン」
何か床に重たい物が落ちた様な音がキッチンから聞こえた。
キッチンから男性が出てきて、ゆっくりと僕に近付いてくる。
男性は僕の目の前に立つと、僕の顔の前に真っ赤なミニカーを差し出してきた。
「ほら、前から欲しがっていたおもちゃだよ。お父さんからの最後のプレゼントだ」
男性の右手には血がべっとりと付いた包丁が握られている。
男性の顔を見ると、とても悲しげな顔をして僕を見つめている。
男性は握っている包丁を高く振り上げた…
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「龍くん!龍くん!」
七海の声で我に返った。気が付くと僕はいつのまにか空き家の外で横になっている。
七海が心配そうに僕の体をさすっていた。
「あれ?いったいどうなってるの?」
「それはこっちのセリフだぜ!」
亮介は僕の腕を掴み、ゆっくりと立たせてくれた。
「一人で空き家の中に入っていくんだもん、心配したぞ!」
七海と亮介が言うには、僕が一人で空き家の玄関に向かい、そのまま家の中に入ってしまったらしい。
二人とも急いで僕の後に続こうとしたが、玄関ドアは鍵が掛かってしまったかの様に全く開かなくなってしまった。
とにかく家の中に入ろうと、どこからか中に入れないか家の周りを探していると、二階の窓から僕が顔を出したので、大声で呼んだが僕の反応はなかった。
僕の姿が消えて少しすると二階から悲鳴が聞こえたため、慌てて玄関ドアに向かいドアノブを回すと、今度はすんなりドアが開いたので、急いで二階に上がると僕が部屋の真ん中で倒れていたということだった。
「何もなくてよかった!」
七海はギュッと僕の腕にしがみ付いてきた。僕達は自転車に乗り、空き家を後にした…
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「そう言えばあのミニカー、ちゃんと返せた?」
帰り道、自転車を漕ぎながら亮介が話しかけてきた。
「なんとかね。ってか亮介ふざけんなよ!ミニカー無理やり渡しやがって!」
亮介はニタニタ笑っている。
「わりぃわりぃ!今度クレープ奢ってやるから!」
「ほんとありえないよ…」
「ありえないのはお前だっての!ほんと心配したんだぞ!あぁ疲れた。何か疲れすぎて足重たいし」
亮介の足に目をやると、亮介の両足首は青白い血の気のない手にがっちりと握られていたた。そして僅かに亮介のズボンのポケットが膨らんでいる様に見える。
亮介は眠たそうな目をこすり、大きな欠伸をした。
「返して…」
ボソッとどこからか子供の声が聞こえた気がした。
作者龍悟
投稿が遅くなって申し訳ございません!
高校編に入って新しい仲間がこれからもっと増えていきます。
また、シタキリの謎にも迫って行きますので楽しんで頂けたらと思います!
余談ですが今回の空き家は、僕が高校を卒業する頃に取り壊されて、新しく家が建ちました。家が建って二年くらい経った頃に火事で全焼しています。そして今ではそこは更地のままになっています。