結婚して五年。結婚当初は仲むつまじくやってきた私達だったが、ここ最近はからきしだ。
夫との仲は急速に冷えきり、会話もない。仕事が順調に波に乗ってる私とは違い、夫は事業に失敗して会社をクビになったことがそもそもの原因だった。
プライドの高い彼は、会社をクビになったことは勿論、私の仕事がうまくいってることが気に入らなかったらしい。
一週間前。夫と激しい口論をした。夫が私の家事について「いい加減だ」「大雑把過ぎる」とケチをつけてきたので、夫を口汚く罵ってしまった。
「あんたなんかマトモに働いてもいないクセに!社会から爪弾きにされたカスじゃないの!」
その言葉を聞いた夫は、しばらく沈黙した後、寝室に引っ込んだ。売り言葉に買い言葉とはいえ、ちょっと言い過ぎたかと思ったが、その時は素直に謝る気にはなれなかった。
それ以来、夫とはロクに顔を合わせていない。同じ寝室で一つのベットで寝ているけれど……生活リズムが違うため、顔を合わせることもない。
私は仕事上、朝は6時に起きて7時には出勤し、帰宅するのは午後11時。夫は会社勤めをしていないので、私が出勤する時間になっても起きてこないし、帰宅する頃には既にベットに入って寝ている。
夫婦の仲も生活リズムも、完全にスレ違ってしまっていた。
その日は仕事か早めに片付き、夜の8時前には帰宅することが出来た。リビングで一息ついていると、ふと壁に掛かっていたカレンダーに目が留まる。
「……そういえば今日は結婚記念日だったわね」
夫婦になって5回目の記念日。思えば色々あったけれど、やっぱり私には彼しかいない。彼を愛しているし、これからもずっと一緒にいたい。
一週間前はつまらないことで喧嘩してしまったけれど……今日こそ仲直りしよう。今日なら素直になれる気がした。
期待を胸に、寝室に向かう。既に電気は消され、真っ暗。彼は私に背中を向ける形で横を向いている。私はそっとベットに上がり、彼の横に寝転がった。
「この間はごめんね。あなたの気持ちを考えないで、酷いこと言って。ねえ……仲直りしましょうよ。今日はちょうど結婚記念日だし。今からでもお祝いしない?」
返事はない。熟睡してしまったのかと思ったが……どうも変だ。
時刻は午後8時を回った頃である。小学生でもあるまいし、大の大人がこんなに早くから熟睡するものだろうか。
「あなた……?ねえ、あなた!あなたったら!」
私は夫の体を揺さぶった。すると枕元に空の小瓶が転がっていることに気が付いた。
「あら、何かしら」
スタンドの明かりを付け、小瓶を拾う。
それは中身のなくなった睡眠薬の瓶だった。
作者まめのすけ。