後編からはマイの視点で話を進めていきたいと思います。
前編をご覧になってからでないと話の内容が分かりづらくなっておりますのでご了承願います。
それでは後編参ります…。
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「モミジーーー!?」
モミジのお母さん(私の叔母さん)がモミジの身体を力いっぱい揺さぶった。
モミジが突然痙攣を起こし、動かなくなったのだ。
「!?…なんと、いかん!お嬢さん、背中を刺されとる、触るでない!!」
住職さんが何かに気付き、叔母さんをモミジから引き離した。
住職さんの視線の先に目を向けると、モミジの背中からは赤い液体が流れていた。
「住職さんッ!?」
私は不安になり住職を見つめた。
「うむ、嫌な予感がするのぅ。…マイちゃん、気を抜くでないぞ…?」
そう言って、モミジの背中にガーゼを当て、救急車を手配した住職。
モミジの両親はただ泣いていた。
大人が号泣している姿なんて見たこともなかったから、どうしたらいいか分からなくなった。
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もう誰も守ってくれない…
誰も助けてくれない…
大人ですらピエロには勝てない…
住職さんだって、ずっと口を閉ざしたまま…
モミジは私のせいでこんな目にあったんだ…
全部私のせいだ…
そんな事を繰り返し考えていた。
きっとピエロはまた私を襲ってくる…、
更に力を付けて、もっと恐ろしくなって戻ってくる…
「!?」
ハッと気がつくといつの間にか叔母さんや叔父さんの泣き声も、慌ただしく動いていたお寺の人達の足音も何も聞こえなくなっていた。
辺りは先ほどと変わらずバタバタしている光景なのに音がない。
まるで消音にしたテレビの世界にいるかのようだ。
「!!??」
フと住職の背後に影が見え、よく見ると…
住職の背後からピエロの顔がヌッと現れた。
「ひっ」
声にならない声が漏れ、心臓が痛い位跳ね上がって、脈を打った。
「……ッ!……、っ」
声が出ない…
周りにこんなに人がいるのに誰一人気づいていない…
住職も全くピエロの存在に気づいていない。
ピエロは下を向いたまま立ち上がり、バッと顔をあげた。
その表情はもうイってしまっている。
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目の焦点は合っておらず、ヨダレを流し、ゲヘゲヘと笑っていた。
お母さんや叔父さんたちの視界にも入っているはずなのにピエロが見えていないのか…、何の反応も示さない。
叔父さんや叔母さんは変わらず涙を拭っている。
お母さんは叔母さんたちに寄り添い、住職はモミジの止血をしている。
私は起きたままの金縛り状態で、声も出せず、身体も全く動かせないこの状況で
あの恐ろしいピエロが今、目の前にいる。
しかも私以外には見えていない…。
声にはならないけど必死に叫び続けました。
「消えろー!みんなに何かしたら許さないからなッ!消えろー」
何度も何度も…心の中で叫びました。
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「!?」
すると突然ピエロが変な動きを始めました。
モゾモゾと自分の背中に手を伸ばし、何かを探しています。
ヨダレをダラダラ流しながら住職のすぐ後ろで不気味に笑っているピエロ…。
「!?」
ピエロの動きが一瞬止まり、背中から何かを勢いよく取り出した。
ナイフです。
小さめのナイフを指と指の間に挟み、片手に4本づつ、両手で8本のナイフを握り締め、楽しそうにはしゃいでいるピエロ。
その瞬間、周りの音が一斉に聞こえ始めました。
叔母さん達のすすり泣く声、お母さんの慰める声、
慌ただしく動くお寺の人達の足音…
『 ゲヘ キヒヒ』
ピエロは住職を見るなり何の躊躇いもなく、住職の背中に向かって笑いながらナイフを投げた。
サクッとナイフが住職の背中に見事に刺さる…
「ぐわぁぁぁぁああ、ッ!!?」
背中にナイフが刺さった瞬間、住職が叫びながら背中に手を伸ばして苦しみ出した。
寝転げ、痛みで顔が歪んでいる住職。
それでもピエロの存在に気づいていない。
何度もピエロがいる所を見ているはずなのに…。
『ギヒ デヘヘ キヒヒ♪』
住職の苦しむ姿を見て、腹を抱えて足をバタバタさせながら笑うピエロ。
お母さんや叔母さん達も住職の異変に気付き、住職に駆け寄るが、ピエロの存在は気づいていない。
「住職さん!?どうしました?住職さんッ!!」
するとピエロは再び住職に狙いを定めて、ナイフを投げた。
すると今度は住職のおデコにサクッとナイフがめり込んだ…。
その瞬間、住職は全く動かなくなってしまった。
「キャアアアアアァッ!!」
お母さん達は悲鳴を上げ腰を抜かし、手で顔を覆った。
住職の周りは血の海になり、お母さんや叔母さん達は身体を震わせ、叫び声すら出ないくらいに恐怖で支配されていた。
そんな光景を見たピエロはパチパチと自分で拍手をし、綺麗に一礼しポーズをしてみせた。
まるで、一つの芸を成功させた後とでもいうように…。
ピエロにとってこれは芸の一つに過ぎないのだ。
今度は腕を組んで、何かを考えている素振りを見せたピエロ。
閃いた!っとばかりに左の手のひらに、右手の拳をポンと叩きつけ、残りのナイフを既に動かなくなっている住職に向かって適当に投げた。
見事に全て刺さり、黒ひげ危機一髪の樽の様な姿になってしまった。
今度は自分のポケットの中を漁り始めたピエロ。
首を傾げながら、何かを探している。
再びピエロの動きが止まった。
そして私の方を見てニヤッと不気味に笑い、ポケットから勢いよく何かを取り出したピエロ。
弓だ。
とあるアニメの様に、ポケットから出すには相応しくない大きさのものが姿を出した。
するとピエロは再びパチパチと自分の手を叩き、お辞儀をして弓を引いた。
片目を瞑り的を狙っている様な仕草をしている。
矢の向く先には叔父さんがいた。
「…ダメ、…やめて…ッ!!」
心の中で、祈るように呟いた私。
するとピエロは目をグワッと見開いて弓を放った。
---ドサッ
すぐに何かが倒れる音がした。
「きゃああぁぁあ、あなたーー!!」
叔母さんの発狂する声が耳を突き刺す…。
『ギヒ イヒヒ♪』
私は最早その光景を直視できず、耳だけで状況を探っていた。
目を瞑って俯く私。
「いやぁぁああ、あな……」
「!?」
突然叔母さんの悲鳴が途絶えた。
その事を意味するのは…。
ゆっくり顔をあげた私…。
「…そんな…ッ」
視界に飛び込んできたのは無残な姿になった叔父さんと叔母さんの横たわる姿だった。
叔母さん達の身体を射抜いている無数の矢。
戦国時代の戦の絵に出てきそうな姿…。
お母さんはあまりのショックで気を失っているようだ。
『ゲヘヘ イヒヒヒヒ 』
コミカルな動きをして楽しそうに舞っているピエロ。
血の臭いが鼻に纏う。
「!?」
ピエロが突然バッとこっちを見て、無表情になり、私の方へ向かって歩き始めた。
何かを呟いている…
声は聞こえないが、口が動いている。
私は必死に何を言っているのか読み取った。
《あと二回…》
口の動きはそう言っていた。
!?
あ…、意識が遠のいていく…。
突然頭がボーッとして、睡魔に襲われた様な感覚になり、一瞬意識が飛んだ気がした。
「マイー!!いやぁぁ、マイーー!!」
…お母さん?
ボーッとしている意識の中でお母さんの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
ハッとして目を開けると、お母さんや叔母さん、叔父さんに住職さんまで私を囲んで心配そうな顔で覗き込んでいた。
「…住職さん?…叔父さん、叔母さんも、無事だったんだ…」
私のその言葉に全員が首を傾げながら目を合わせた。
「マイちゃんは、突然倒れて、ずっと白目を剥いて、痙攣しとったんじゃよ…」
「よかった…、マイちゃんまでモミジみたいになるんじゃないかと…」
そう言って泣いている叔母さん。
自分の子供が大変な時に私の心配までしてくれている。
こんな優しい叔母さんの泣き顔なんてもう見たくない…。
私「住職さん、ピエロが現れました」
住職「じゃろうな…、マイちゃんの様子を見てすぐにわかった…」
私「モミジを助ける方法を教えてください。」
住職「それは無理じゃ…」
力なくそう言って俯いた住職。
私「何故ですか?!」
住職「モミジちゃんをこんな目に合わせてしまった…。マイちゃんまで同じ目には合わせとうないんじゃ…、分かってくれるかのぅ?」
そう言った住職の姿にはもう覇気がなく、怯えているようにも見えた。
とんでもないものに関わってしまったと言わんばかりに…。
私「…何もしなくても私は手遅れです。あと二回…、ピエロは最後にそう言ってました。あと二回私の前に現れたら、きっと私もモミジの様になるでしょう…。だったら最後まで足掻きたいです!!黙って殺られるくらいなら何でもします!せめてモミジだけでも救いたいんです!!」
私は住職の身体を揺さぶり必死に頼み込んだ。
住職は顔を歪ませ、暫くして口を開いた。
住職「…子供に喝を入れられるなんてワシもまだまだ修行が足らんのぅ。すまんかった!!ワシがこんなんじゃいかんなッ!マイちゃん!!今まで以上に怖い思いをすることになるぞ?」
私「はい!!覚悟は出来てます!」
母「…マイ、…ッ…」
お母さんが私の手をギュッと握って何かを訴えてきた。
私の手を握る手は酷く震えていた。
私「大丈夫だよ!お母さん。何もしない方が後悔する。どうせ殺られるんだ…。だったら少しでも可能性があるならそれに賭けたいの!!」
私の言葉にお母さんは何も言わず、力なく頷き、声を殺して泣いていた。
住職に時間が欲しいと言われ、3日後また集まることにした。
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3日後・・・
モミジは一命を取り留めました
しかし今もまだ意識は戻っていません。
私はあの日から、ピエロの姿を見ていない。
親友のハルナちゃんやリョウくんやケンタくんは私を心配してなるべく一緒にいてくれています。
3人は一度、ピエロの恐怖を味わっています。
だから私の今の状況にも何も言わず、ただ一緒にいてくれるのです。
そして今日は約束の3日後・・・
モミジは病院から出るわけにはいかないので、叔父さんと叔母さんと私とお母さんの4人でお寺に向かいました。
奥から出てきた住職さんは3日前とは別人なくらいゲッソリしていました。
「どこか悪くなされたのですか?」
お母さんは住職を見るなりそう言った。
「いやいや、すまんのぅ。…心配させてしまって。大丈夫じゃよ」
心なしか声も力なく弱々しい。
住職さんだけが頼りなのに…
住職さんになにかあったら…想像するだけで暗闇に呑まれてしまいそうになる。
「実は、一つだけ方法を見つけたんじゃ。しかしワシにはもう時間がなくてのぅ…」
「時間がないってどういう…?」
叔父さんが申し訳なさそうに聞いた。
「うむ…、ピエロはワシの所へ現れよった。そしてワシの命とモミジちゃんの命、どっちが欲しいかと尋ねてきよった。」
「…え?……住職さん…まさか……!?」
私は震える声で言った。
「もちろんモミジちゃんの命だと答えた」
そう言って顔をクシャっとして優しく笑った住職。
私の目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
お母さんも泣いていた。
「モミジちゃんは今夜、目を覚ますじゃろう。ワシはモミジちゃんの顔は見れんがのぅ…。しかしピエロがいなくなった訳ではない。またすぐに現れるじゃろう…、じゃがワシはもうこの世にはいない。助けてやることさえ出来なくなってしまった…。だからその時はワシの代わりの者をよこそう。」
住職は既に全てを受け入れ、落ち着いた口調で淡々と話し続けた。
「こんな老いぼれが生き残るよりよっぽどモミジちゃんの命の方が大事じゃ。マイちゃんや…次にもしピエロが現れたらとてつもなく恐ろしいピエロとなって現れるじゃろう…。ワシを葬りさって、邪魔するものはいなくなったからのぅ」
「そんな……」
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この日の夜、住職は亡くなりました。
モミジは意識不明だったのが嘘のように目を覚まし、元気にはしゃいでいました。
もちろんモミジには住職が身代わりになった事は言っていません。
作者upa
後編は次回に続く話の繋がりを中心に書いたので怖くはないかもしれません。
期待外れでしたらすいません゚(゚´Д`゚)゚
でもこの次の話にどうしても欲しい内容だったのでお許しを(´・ω・`)
誤字脱字あれば優しくご指摘ください!!
そして大変お待たせいたしました!!
『ピエロシリーズ』4作目です♪
追記…
コメント内にネタバレありなので、ドキドキしたい方はコメントは読まず、本編をご覧ください♪