まずこの話を読むにあたって皆さんに言わなくてはならない事がある。僕は幽霊だ。三浦一成、29歳。死因は交通事故、中々ありふれた原因だ。勤め先の動物園に行く途中の不幸。これといって未練はないのだが、何故か浮遊霊になっていた。
「折角幽霊になったんだから、なんか面白い事しよう。」
これが僕の生き甲斐、あ、もう死んでるから死に甲斐?ってそんな事はどうでもいいか。まあ前置きはこのくらいにして、本題に入ろう。
僕は普段、その辺を浮遊しながら人々が生活する様子を見ている。彼もまた、そういう人の一人だった。
僕はその夜、いつものように街を浮遊していた。人気のない裏道を通るのも、たまにはいいものである。そんな時に、彼と出会ったのだ。
前から歩いてきた、僕より年下らしき青年。大きなカバンを背負って、帰り道を急いでいるようだった。彼はこちらをちらっと見ると、また帰り道を急ぎ始めた。
あいつ、見えてるな。僕は直感的に思い、ちょっとした好奇心から彼に「憑いていく」事にした。
彼の後ろをついて歩いて、カバンを観察したりちょっかい出していると、
「何ですか、やめてください。」
「お?」
突然声をかけられた。
「俺は成仏なんかさせられませんからね。」
「あ、やっぱ分かる?」
あはは〜と笑って誤魔化すと、僕はそいつに並んで歩き始めた。
「何ですか気持ち悪いな。俺そういう趣味ありませんからね。」
「まあまあ、そんな固い事言わないで。な〜んか訳アリっぽいじゃん?」
僕はそう言って、彼のカバンを指差した。
「それ。練炭が入ってたぜ?」
彼ははっとした顔をすると、僕から顔を背けた。
「ほっといてください。てか勝手に中覗かないでください。」
「そんなでっけーカバン持ってたら、覗いてくださいって言ってるようなもんじゃんか。」
僕はカバンをいじりながら(透けるけど)彼の顔を覗きこんだ。
「良かったら、相談に乗るぜ?」
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「…なんで家までついてきてるんですか」
「そりゃ取り憑いたからにはついてこないと。」
「えぇ〜、やめてくださいよぉ…。」
彼は見るからに嫌そうに顔を歪め、後頭部を掻いた。
「自殺しようとしている若者をみすみす死なせるような事はしないさ。」
僕は片目を瞑り、右手親指を突き出した。
「はあ…。何が悲しくて幽霊に励まされなきゃならないんだ…?」
明るい光に照らされた元で見ると、彼は切れ長の目をした中々の二枚目だった。だが男にしては多少華奢で、頼りなさげだ。
「で、君はなんで自殺なんてしようとしてるんだい?」
「そんなの、どうだっていいでしょう。幽霊に話す事なんてありません。」
「君ね、何かにつけて僕の事幽霊幽霊って。傷つくよ、流石に。」
「事実じゃないですか。」
発展性のなさすぎる会話を続ける事10分。ようやく彼の事が分かってきた。
彼の名前は倉田龍哉、21歳。アルバイトをしながら一人暮らしをしているそうだ。
「さ、これで満足ですか。幽霊はさっさと消えてください。」
「なにそれひっでー。これでもちゃんとした名前があるんだからな!」
僕は彼の携帯に指を入れ、回線から直に自分の名前をタイプした。
「みうら…かずなり?」
「いっせい!みんな読み間違えるんだよな、この名前…。」
読書の皆さんの中にも、僕の事かずなりだと思ってた人いるんじゃないの?いっせいだから!ここ重要。
まあそんな事は今関係ないか。
倉田は携帯画面をしばらく見ていたが、やがて大きく溜息をついた。
「さ、もう実行しますから。さっさとどっか行ってください。」
「そういう訳にはいかないな。僕、そういう奴ほっとけないんだよ。」
「…イッセイさんみたいな幽霊のクセして糸目の人に言われたくありませんね。」
「それ今全く関係ない!」
割と気にしてるのに、糸目。
「…で?言ってみろよ、自殺なんて考えてる理由。」
僕は目の前のちゃぶ台に肘をつき、彼に問うた。
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「はあ〜⁉︎彼女に振られただあ〜⁉︎」
「もう死ぬしかありませんよ〜…。」
驚いた…。そんな事で自殺しようとしてるとは…。
「馬鹿か君は‼︎」
僕は思わず彼の頬を殴ったが、僕の手は透けて反対側に突き出した。
「…彼女、急に俺の事嫌いになったとか言い出して。頬ビンタされて、そのままどっか走って行っちゃった。」
あらー、また典型的な振られ方だな…。哀れな。
「イッセイさん!俺の自殺止めたかったら、また彼女と俺のことくっつけてくださいよ!」
「はあ⁉︎」
倉田は僕の前に正座して頭を下げた。
これって…属に言う土下座⁉︎
「い…いやあ〜ちょっと困るよ倉田君!僕は浮遊霊であって恋のキューピッドなんかじゃないんだぜ?浮遊霊に恋のお願いして叶うわけないでしょ⁉︎」
「そうですよね〜…。」
彼はがっくりと肩を落とし、練炭を手に取った。
「ちょっとでも期待した俺がバカでした、いいです、火つけますから。」
そしてマッチを擦ろうとした。
「ちょっ、待て待て、早まるな!」
慌てて彼を止め、
「わ、分かった。分かったから。彼女を君に振り向かせてやる。きっと。だから死ぬのはよせ、な?」
「イッセイさん幽霊のくせに死ぬな死ぬなって。普通逆じゃないですか?」
「幽霊だからこそだよ!物触れないし、普通は人と話せないし!すげえつまんない。だからやめた方がいいって言ってるの!」
「はいはい。」
彼は気のない返事をして、マッチと練炭を仕舞った。
こうやってしばらくついていてやれば、とりあえず気は治まるだろう。
「それで、具体的にどうするんです?イッセイさん。」
くそお。こいつ態度でけえ。
「ああ。まずはだな…。」
こうして僕は倉田と出会い、彼と彼女さんの関係を良くするという目的に向かって奮闘していくのであった!続く!
作者蘇王 猛
オカ研シリーズの合間に同時進行で進めてみたいと思って衝動的に書いてしまいました。今回、ほとんど怖い要素が入ってません。それでもいいという方、読んでくだされば幸いです。