俺の名前は「皐月 未来」
コンビニで働き始めて、五ヶ月が経つ…
不思議な客が多いので、退屈はしないが、どうも接客というのは上手く出来ない。
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「なんだこりゃ⁉︎コピー機が壊れてんじゃねえか!!」
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アロハシャツに短パン、サングラスにリーゼントと言った、ちょいワル親父ならぬ、ちょいワル兄さんが、コピー機を蹴っている…
いや、あんたが壊そうとしてるんだよ…
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「お金…入れました?」
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仕方がないのでそばに行き聞くと、ビックリしたような顔をして
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「な…なに?金が必要なのか?」
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と貧乏人のような事を言った。
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「そこにやり方書いてあるんで…まず、お金を入れていただいて…その後…」
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「文字くらい読めるわ馬鹿!……えぇと…っ!!
なにをぉ!?カラーは一枚だけで、こんなにするのか?…くっ…そ…あのババァぼったくってやるからな…」
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などと、独り言をブツブツ言いながら、恐る恐るコピー機のボタンを押していた。
壊されやしないか見ていると、他の客がそれをいい事に万引きを働こうとしている…
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「お客さん…それ、お金払っていただかないと持ち出せないんです。」
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すると、
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「そ…そんな事知ってるよ…今外で仲間が居たもんだからさ…ほら」
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言い訳が酷すぎる…さっきから外に歩いているものなど、いない…
更に、胡坐(あぐら)をかき立ち読みならぬ胡座読みを試みる輩がいる…
くつろぎすぎだろ…
普通に買い物をしているのは、このコンビニの常連のリサイクルショップの店主くらいだな…
弁当とお茶を手にレジに来て
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「温めは要らない…箸もね…」
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と、紳士な感じ。
この人、誰かに似てる…
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『なんとか… 聡(あきら)』
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なんだっけ…?
ルージュの指環って歌、うたってる俳優なんだけど…
喉の辺りまで出かけてるのに…
忘れた…
明日、姉貴にでも聞いて見よ。
そんな事を考えてる隙に、さっきの万引き野郎が本当に万引きをしやがった…
咄嗟に
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「あっ!お客さん!?お釣りお忘れですよ!」
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と言ったら、止まった…
馬鹿だこいつ…
しかし、何なんだここのコンビニは…
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夜、11時を過ぎた頃、仕事もそれほど忙しくもないので、ぼうっとバカみたいな客達を眺めていると、そこに奇抜な格好の輩が乱入してきた…この表現が一番適している、客とは言えない人物…
ヘルメットは被ったまま…
夏だというのに黒ずくめの長袖…
ファッションがなんとも、分かりやすい。
強盗に間違いないだろう…
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「うっ…動くなぁ!」
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と、俺にナイフを突き付ける…
(やめてほしい。先端恐怖症なんだよ…)
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「かっ…金を出せ!」
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動かないでいると…
強盗は、意味の分からない事を言う。
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「おっ…お前…なっ…なに落ち着き払ってんだ?ここっ…これが見えないのか!?かっ…顔色一つ変えねぇとは、いっ…いい度胸だな!」
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ナイフを揺すり、自分の有利を主張する…
俺は落ち着き払ってなんかいない…
結構、顔だって引きつってると思う…
それに、金を出せと言われたが、先に動くなとも言われている…だから動かない…ただそれだけ。
その前に、この強盗…
店に入る時に、世からぬ者も一緒に連れてきている…
ソレは彼をジッ…と見つめたまま、ユラユラと、佇んでいる…
なぜか分かるのだが、彼(強盗)に取り憑いているものじゃない…
下手に動けば、こっちに乗り換えるやもしれない…
余計に動けない…
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俺には霊が見える。
しかもはっきりした形で…
小さい頃からなので気にはしていない…
見たくはないけど見えるものは仕方が無い。
普通にその辺を歩いている者や、下手をすれば話しかけてくる者までいる…
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強盗と一緒に来たやつは、冬の装い。
グリーンのスタジャンにジーンズ…
カラフルな手袋、それにマフラーを着けている…
服は所々破け、左肩から腕にかけて真っ赤な血で染まっている…
頭は、頭蓋骨が剥き出しになり、左目が飛び出している…
事故により亡くなった者と推定された。
裏で休憩していた先輩が、監視カメラのモニターを見たのか、恐る恐る出てきた。
しかし、何やら不思議そうにしている…
レジ台に隠れるようにヒソヒソ声で声をかけてきた。
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「おい…二人じゃないのか?」
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カメラにもあいつが映っているのか…それほどハッキリ映るということは、だいぶ念が強い悪霊のようだ。
何と無く、強盗の方はどうでも良くなったので、冷静になれた…
レジを開ける。
万札の入っているところだけ鷲掴みに札を取り、強盗に渡した。
強盗はというと、あたふたと札を受け取り、慌てた様子で出て行く…
だが…
おい…
悪霊ちゃん…
ついて行かないの?
何でそこでぼうっとしてるの?
行きなよ…
行かない?
あっそう…
どうしたものか…
出て行った強盗を見送るように、その場で立ちすくんでいる…
先輩は、ホッと息を一つつき
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「怖かったぁ…店長に電話しなきゃな…なぁ!どうしたの?」
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などと、呑気なことを言っている…
強盗なんかよりも、こいつのがやばい…
出来れば、俺には憑いて欲しくない。
先輩なら、鈍感だし大丈夫だろう…
などと、悪いことを考える。
しかし、何て事だ…
こっちを見ている…
恨めしそうに…
俺の「見える」ことに気がついてしまったらしい…
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「先輩?俺の前に立ってもらえます?」
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「は?何で?」
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つべこべ言わず立ってくれ…
こいつ…俺に取り憑くつもりらしい。
悪霊の身体がこちらを向く…
早くしろ!
先輩には悪いと思いながらも、叫ぶようにせがんだ…
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「早くしてください!!時間がないんです!」
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いつも静かな俺が叫んだので驚いたのか、分かったよ…と前に立つ。
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………
間一髪だったようだ…
先輩が先輩じゃ無くなっている…
何故か、そのことが分かる…
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「どうして、成仏しないの?」
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こういう時は冷静な対処が不可欠だ。
先輩の顔をした悪霊が喋る…既に先輩の声とは別物だ…
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「彼女が…待ってる…」
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なるほど…女の所に行く途中、事故で亡くなったのだな…
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「大丈夫…彼女なら君の事をすでに迎えに来てるよ…」
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俺は既に、葬儀も済んでる事を見越して発言している。
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「え?どこ?直子?どこ?」
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知らねえよ…兎に角、店から出て行ってくれ…
思いが通じたのか…出口に向かう。
ホッと一息つく…
と…
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「皐月…てめえ、ぜってぇぶっ飛ばす…」
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と、先輩の声で言われた…あれ?
作者ナコ
ちょっと思い出したんだけど…
一部、本当にあったことなので、書きました。脚色してるけど…
コンビニのバイトはそれ以来嫌になった…