リサイクルショップの上の階に探偵事務所があると聞いたので、私はいなくなった猫の捜索を頼むために、その事務所に向かつた。
私の名前は
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『林 櫻子(さくらこ)』
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ウチの『マロン』ちゃんがいなくなったの…
そう、探偵とは思えない格好をしたチンピラ風の探偵に言うと…
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「そんなもん、てめえで探せよ…幾ら出すんだ…?」
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とこれまた探偵とは思えない事を言った。
エアコンの無い事務所は暑さのせいか、蒸し風呂のようにムンムンとした空気が流れている…
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「この部屋暑いわね…エアコンはつけないの?」
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と聞くと
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「金がねえんだよ…だから聞いてんだろ幾ら払うんだ…?それによって探し方も色々と変わるんだよ…」
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とても探偵とは思えない…
親切心が無い。
マロンちゃんは見つかって欲しいし、自分は仕事の都合があって探す暇がない…
仕方なく
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「分かったわよ…これでお願い」
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と、一万円札を二枚テーブルに置く。
すると、暑さで眉間にシワを寄せていた探偵の顔が、ニカッ…と笑顔に変わり
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「かしこまりました!あと、見つかりました時には、更に頂けますよね?…ねっ?」
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と仰いでいた扇子を閉じビシっ!テーブルのお金を叩いた…
笑顔が気持ちが悪い…
いや、怖い…
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「えっ…ええ…勿論…見つけていただいた時には、弾みます。」
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ニヤァァと笑い、では早速っ!と立ち上がり、クルッと机に向かうと紙に何やら書き始めた。
そして、明日からになってしまいます…と話しながら、紙を差しだした。
そこには、証明書と殴り書きがされていた…
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「そこに、見つけた時に支払う金額を書いてもらいます?うふふ」
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仕方がないので30,000と書き込んだ…
探偵ってこんな感じだったかしら…なんか違うような気がする…
ペンをテーブルに置く。
もう、この暑い部屋にはこれ以上いたくなかったので
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「じゃ…お願いね」
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と、立ち上がった。
お任せを…的なポーズをとり頭を下げる『お下品探偵』…
扉を開き外に出て、何と無く後悔した…
あの人…本当に大丈夫かしら…?
夏の日差しがカンカンとアスファルトに刺し、温度が更に上がる真夏の暑い日だった…
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暫くすると、探偵から電話があった
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『あの…見つけましたよ…猫のマロンちゃん…』
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えっ!本当?
だが、声になんだが元気が無い…
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「今夜、仕事が終わりましたら…そちらに伺いますので…」
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と言うと…
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『え?来るんですか?いやぁ…来ない方がいいかと…』
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何を言っているのか…
見つかったのなら、マロンを迎えに行くのは当たり前だ…
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「何故ですの?」
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『手っ取り早く言っちまいます。死んでます…ズタボロになってます…見ない方がいいことは明らか。」
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なっ!?
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嘘!
嘘よ!
信じないわよ!
この男の事だ、恐らく探すのが面倒になって死んだなどと言って、仕事を放棄しようとしてるんだわ!
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「迎えに行かせて!今夜伺います!」
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『あ…そう、来ちゃうんだ…弱ったなこりゃ…分かりました。お待ちしています…』
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事務所の扉の前に立ち、扉を叩く…
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『コンコン…』
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「誰だ?翔太か?」
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「いいえ…林です…猫を受け取りに参りました。」
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すると、直ぐ扉が開く…
アロハシャツの上からジャケットを羽織り、スラックスを履いた、前とは全く違う格好をした探偵がペコっと頭を下げ、どうぞ…と通してくれた。
事務所内を見ると、もう一人男がいた…
口を縛り、更に足と手にも縄が掛けられ、身動きの取れない状態…殴られたのか顔には大きな痣が所々に出来ていた。
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「何ですの?これは…」
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「そいつの家に猫がいましたよ…なので、そいつから事情は聞いてください…それから…猫の死骸はそこの黒いビニール袋に入ってます。
俺…今少し、厄介な仕事をしてましてね…あまり、かまっていられないんです…お金は結構です。その臭いもん早く持って帰ってください…」
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と、冷たく言った。
確かに、事務所内には死臭が漂っている…
袋のそばに行き、開けようとすると
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「わぁ!!…やめときな…中身は間違いなくあんたの猫だよ…首輪があったから、外してそこに置いてある…」
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と探偵はテーブルに指を指した
ブルーのティファニー製の首輪が、血塗られた状態で透明の袋に入れられていた…
間違いなくマロンのものだ…手に取り首輪の金属プレートを見た…
名前もMARONと掘られている…
震えが止まらない…
縛られた男を見た…彼も震えていた。
男に近づく…
口を塞いだ布を取ると
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「辞めて…殺さないで…」
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と、力なく涙を流した。
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「私は貴方を殺したりしません、何故ですの?私のマロンちゃんが貴方に何を…」
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すると…
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「ほ…ほんの、あ…遊びのつもりだったんです…ネット上で…写真を載せて…耳を千切れとか、目玉をくり抜けとか…皆も盛り上がってきたもんですから…つい」
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言葉を失った。
自分でも気がつかないうちに、彼の頬に平手を食らわせていた。
首輪とマロンの入った袋を手に取り、約束通り三万をテーブルに置いて事務所を後にした。
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外に出ると、月が出ているのか明るい夜だった…
裏路地が何時もよりもずっと明るい…
猫が一匹ぴょこんと出てきた…
よく見ると…
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え?
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マロンちゃん?
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嘘!?生きてる!
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急いで駆け寄る。
すると…
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「ごめんね、ママ…僕、死んじゃった…サヨナラを言いに来たんだよ…ありがとう…」
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と、すうっと消えてしまった。
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『ガタ…』
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頭上で音がした
階段の上を見ると探偵さんが、鼻を啜りながら
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「もっと早く見つけてやれれば良かったんだけどよ…すまねえ…」
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と、唇を噛み涙を堪えていた。
作者ナコ