私の名前は
『千石 美緒』
リサイクルショップで働き始めたことで、ひょんなことから店長と、恋に落ち…結婚して名字が代わり、一週間余りがたったある日…
店長の友人で『縄手 敬三さん』という人が居るのだけれど、その人の娘さん『縄手 絵美子さん』が、近くの河原で遺体となって発見された。
その知らせを受けて店長は、葬儀に出席するために、喪服に着替えて、今朝、何ともいえない表情を浮かべながら、出かけて行った…
「店のことは私に任せて…」
その言葉を黙ったまま聞き流し、出かけて行く店長の背中は何と無く寂しさが見受けられた。
店のトラックが遠ざかるのを、見送りながらあることを考えていた…
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絵美子さんの姿を見たのは、喫茶店で明るくお客さんに対応している姿を見たのが最後…
私と店長で店の改装を終え、休憩のために、喫茶店を訪れた時が最後だ…
あの後、縄手さんから連絡があり、店長の顔が見る見る真っ青になってゆくのが分かった…
その後、電話を切り、急いで三階にある『エルミタージュ』へ向かった…
私も、気になり後をついて行ったのだけど、驚きを隠せなかった。
そんな喫茶店は無かったし、扉も鍵がかけられて、入ることすらできなかった…
『新興宗教 アリス』
という掛け看板が掛けられたその場所に立ち尽くし、店長が携帯電話を出し、何処かに電話をした…
「刈谷さん…新興宗教アリスってご存知ですか?」
警察の刈谷さんへの電話…
何やら深刻な顔で話終わると、次に縄手さんに電話をした…
「縄っちゃん…絵美子ちゃんの捜索願を出せ…今すぐ…」
そう言うと、電話の相手、縄手さんも何やら言っているようだったが、無視して、電話を切った…
「店長、何があったの?ここの喫茶店はどこに行ったの?今さっきまでエルミタージュって看板が出てたのに…」
私の声が聞こえていないのか、店長は無表情のまま、リサイクルショップへ帰って行ってしまった…
私も意味知れぬ不気味さに恐怖して、慌ててあとを追った…
その数日後…
絵美子さんの遺体が見つかる…
縄手さんの泣き叫ぶ顔が目に浮かんだ…
その遺体の状態は後で話に聞く限り、凄惨さが伺える…
警察の調べで、数人の行方不明者が上った。
見つかった絵美子さんの遺体には、不思議な傷跡が残されていたという…
水澤刑事に話を聞いたら、包丁のようなもので、まるで牛か豚を卸すかのように肉が削ぎ落とされていたという…
捜査一課の橋爪刑事が、こんなプロファイルを作成したそうだ。
『猟奇的な殺人ではあるが、食物として被疑者を扱っている傾向が見て取れる…』
その事からこの事件を、
『カニバリズム殺人事件』
と、命名された…
そのことが、事件の奇妙さを一層高めたのだ…
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店長が葬儀に出かけて、一人店内で掃除などをしていると、一人の客が店を訪れた。
「いらっしゃいませ…」
その男は、私の顔をジッと見つめたまま店頭に立っている…
「な…何か?」
すると、この男は奇妙なことを話し始めた…
「貴方にお送りしたメール…読んでいただけたでしょうか?」
メール…そんなものをこんな見ず知らずの人からもらった覚えはない…
いえ…と首を振ると
「私…こういったものです…」
と、一枚の名刺を差し出した。
『新興宗教アリス :蟻巣川 一郎』
なっ!
アリス?
まさか…
私が後ずさりすると、さらに話を続けた…
「世の中にはいろんな…いえ、様々なストレスがございまして…
例えば…結婚後、旦那様の様子が変わった為に辛い生活になった…
他には、生活リズムの変化により、生きてゆくのが億劫になる…
更には、ご近所づきあいが上手くいかないなどのストレス…
我々はそういったストレスから、その方をお救いすることをモットウとしております…
ストレスというものは、人を汚します…
せっかく、美しい美貌に生まれたのですから、皆に貴女の魅力をもっと変わった形で、知ってもらいたくはありませんか?」
「いえ…うちは結構です。お引き取り下さい…」
私がそう言うと、驚いたような顔になり、言葉遣いが変わる
「あんたを救ってやろうってのが分からないのか?
兎に角、話の続きはウチの事務所でするから、ついて来てくれ…」
怖かった…
電話を手に取る…
「おっと…何処へお電話ですか?」
「警察へ…」
それを聞くと、ニヤァ…と笑いながら近寄ってきた…
「いや!近寄らないで!」
全く聞く耳を持たない…
私の手を取ると、信じられない力で引き寄せ…太ももを撫で、更には首元の匂いを嗅ぎ
「ほほう…このかぐわしい香り…貴女からは良質な素材が取れそうだ…」
と、耳元で囁き、私の頬をべろりと舐めると、不気味な笑みを見せた…
私には、男性に無理やり押さえつけられ、襲われた経験があった…
そのためにその時の恐怖が蘇り、体が硬直して動けなくなっていた…
しかし、その時に急に男の手の力が緩む…
そこへ、刑事の刈谷さんが入ってきたからだ…
「その人から離れろ…」
拳銃を構えている…
「おやおや、刈谷さんじゃありませんか…そんな物を出して…この方にでも当たったらどうするつもりですか?」
「黙れ!離れろと言うのが聞こえなかったのか?」
すると、笑みを浮かべながら両手を上にあげ、ようやく観念したかのように刈谷刑事の元に歩み寄る…
だが、刈谷刑事はこう叫んだ
「寄るな化け物…その場で頭に手を回して、伏せろ!」
化け物?
何が起こっているのか、恐怖でよく分からない…
警戒しつつ、刈谷刑事は蟻巣川に歩み寄り…腕を取る…
「蟻巣川 一郎…殺人及び監禁の容疑、並びに強姦未遂の現行犯で逮捕するっ!」
と手錠をかけた…
「美緒さん…無事で良かった…事情はまた後ほど…
ほらっ!立て!この野郎…」
と、刈谷刑事は蟻巣川を立たせると、そのまま両手を後ろに回し、もう片方の手にも手錠をかけた…そして、無理やり歩かせるように、店を出て行く…
最後に蟻巣川は振り返り私の顔を見て
「必ずあなたの身体をいただきに参りますので…その時は…ひっひっひっ…」
と、不気味に笑った。
その瞬間、体の毛が全て逆立ったような感覚に襲われ…
姿が見えなくなっても体が硬直して動けなかった…
作者ナコ
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