事件の発端は河原で見つかった
『縄手 絵美子』の遺体からだった。
遺体の損傷は酷く、身体の彼方此方の部位を削ぎ落とされた状態で発見されている。
削がれた場所は脂肪の多い腹部や、胸部、更には太腿に臀部(でんぶ:尻)に至るなど、肉質の詰まった位置に集中している…
そのことから、署内でもカニバリズムという言葉が飛び交っていた…
捜査本部が設置されたのは、その翌日、第二の被害者
BAR トラボルタ勤務『橋本 京子』が見つかったことによってからだ。
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『カニバリズム殺人事件捜査本部』
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元FBI捜査官で捜査一課の橋爪 基成警視によるプロファイルに基づいて捜査本部名が命名され、捜査の本格始動を開始した。
第二被害者、橋本 京子の損傷は縄手 絵美子とほぼ同じ、傷口の一致などから同一犯と見て間違いないとされ、捜査が行われている。
両者の身体からは微細の薬物が検出されていて、薬物によって昏睡状態にしたのち、殺害したのであろうと捜査当局は見識を発表している…
事件が連続殺人という凶悪犯によるものとなった今、一刻も早い被疑者確保を我々は目指さなければならない。
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『BARトラボルタ』勤務の橋本 京子が殺されたことからBAR周辺を洗う事となり、その中で一人の怪しい女の存在が浮上した。
聞き込み調査で、その女は何らかの薬物を客に提供しているのではないかとの情報がもたらされた。
その為、不法薬物所持の疑いで
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『有田 文恵』
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が逮捕される
取り調べで有田は、容疑を真っ向から否定した
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「私が客に提供していたのは、薬物なんて物騒なものではありませんよ…『蟲』ですわ…刑事さん、おたくも試して見ては如何かしら?施術は簡単…快楽の世界を知れば貴方もハマるはずよ…」
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取り調べを行った木嶋刑事も困惑を隠せない…
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「何を言ってるのか…サッパリなんですよ警部…私もほとほと困っていますよ…」
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「ところで、薬物反応は客からは出ているのか?」
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警部の問いに答えたのは、村田刑事。
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「初回に施術を受けたと話す者からは薬物は検出されておりません…
しかし、何度か施術を受けた者からは微量ながら検出されました。しかし、話によりますと…
その客達はヘロインを常用していることが分かりました…その者の部屋からはヘロインが押収され、数人の逮捕者が出ております…」
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「なんだか、わけが分からないな…
それに何だ?
その…施術ってのは!
麻薬を売っていたんじゃないのか?有田は!ああ?
薬なんて自分で吸ったり、打つことなんて簡単だろ?!」
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警部が苛立つのも無理はない…話が余計にややこしくなっているからだ。
村田が答える
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「いえ…その客達が口々にその言葉を口にしますものですから…その…」
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有田が証拠不十分で釈放されるのは、時間の問題であった…
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ある日、一本の電話が俺の携帯に入った…
リサイクルショップの店主『千石さん』からだった。
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「お久しぶりですね…どうかなさいましたか?」
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そう聞くと、何時もより低い声色でこう話した。
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『刈谷さん…新興宗教アリスってご存知ですか…』
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聞き覚えがあるようで、無いような…
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「さあ…何でしたかねぇ…聞いたことがあるような気もするのですが…」
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すると、彼は
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『そうですか…もし、その名前を聞くようなことがあった時にはお調べになった方が宜しいかと…』
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それだけを言うと電話を切った。
どういうことだろう…?
まさかその時には、その名が事件の中心にあるものなどとは、俺には知る由もなかった。
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俺は刑事という仕事に嫌気が差している…
こんな小さな町で凄惨な事件が相次ぎ、その度になぜこんな仕事を選んだのか?
と後悔し続けて来た…
弟が刑事の仕事から離れ、探偵になったのも、何と無く頷ける…
しかし、その弟も事件に巻き込まれ、この世を去った…
その事から俺は、刑事という仕事から逃げることが更に出来なくなったんだ…
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………
俺の名は
『刈谷 康弘』
○○県警刑事課に勤めて既に16年が経つ
後輩の水澤と共に町で起こる様々な事件を追っているが、ここ最近、起こる事件は凄惨なものばかり…
町の治安が悪いのかもしれないが、幾ら何でも度が過ぎているようにも感じる…
今追っているのは『カニバリズム殺人』の被疑者だ…
人が人を喰らう…
そんなおぞましい事が有るのかと、後輩の水澤は半信半疑…
だが、実際被害者が出ているのだ…
そのホシを追わなければならない。
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聞き込みに走る中、新たに第三被害者が出た…
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「了解…現場に急行します」
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無線に向かう水澤も、何処と無く残念そうに一つ息を吐き出すと
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「先輩…この事件…気が滅入っちゃいますね…」
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とこぼした…
確かに…
遺体を初めて目にした時、そのあまりの凄惨さに足がすくむ思いだった…
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現場は繁華街の一角
『西條ビル』の脇にあるゴミ捨て場…
腐敗が酷く、死後一ヶ月と言ったところか…
この事件で一番最初に殺害されたものと見て間違いないだろう。
身元の判別が出来ないほどだ。
外傷も酷い、頭と手足意外の殆どが切り取られ無くなっている…
腹部を見ると切り取られたのは肉だけじゃなく、その害者は骨も切り取られていた…
骨付きカルビってか?…
顔に損傷が無いか見ると、口内に損傷が見られた…
舌が根元から切られている…
牛タンならぬ、人タンってわけか…
外傷のほとんどが切りつけられたものか…?と見たが
猫やカラスに喰べられた形跡も見受けられる…
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「うわぁ…どんな風にしたらこんな…」
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水澤が目を背ける。。。
ふと、害者の右手に何かが握られていることに気づき、開いてみた…
何やら見慣れない花が握られていた…
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「三村さん(鑑識)…この花は…?」
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ピンセットを手に現場の周りにある微細な痕跡を採集している三村 署員にその花を見せた…
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「さあ…何ですかね?
署に戻ったら早速調べてみましょう…」
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三村署員はポケットからビニール袋を出すと、その花を丁寧に袋の中に収め、証拠品などを収めるケースに入れた。
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(のちに、ケシの仲間であることが分かった…麻薬か…
三村署員の話によれば、改良を加えた、新種のものと思われるとのこと…)
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被害にあった女性たちの殆どから検出されている薬物の成分がこの花の成分と一致した。
捜査は依然難航しており、なかなか糸口が見出せずにいたが、もしかしたら、これが何かの手がかりになるやもしれない…
その時、現場に居合わせた木嶋刑事があることを口にする
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「康っさん…俺その花、見たことがあります…『スナック楓』前の通り…リサイクルショップの斜め前辺りでその花の束を抱えている男を職務質問したことがあって…」
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木嶋の話す男の特徴を元にモンタージュが作成された…
見覚えがあった…
窃盗4…強姦2の前科6犯
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『蟻巣川 一郎』
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薄気味の悪い男で、女性の部屋をターゲットに窃盗を繰り返す凶悪犯だ…
今は改心して、とある新興社を設立したと聞く…が、それは偽りで、新興宗教の類だと聞き及んでいる。
確か…
そうか、リサイクルショップの店主が言っていたのはこの事だったのか!
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「その男は今どこに?」
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水澤が聞く。
リサイクルショップのあるビル三階、以前エルミタージュという喫茶店があった場所だと話すと、水澤は、早速向かいましょうと立ちあがった…しかし
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「いや、お前は木嶋とここに残れ…奴は俺たちの様子を伺いに来る傾向がある…以前も窃盗を行った場所に現れたところを確保した経緯がある…もしかしたら彼処の野次馬に混じり混んでいるかもしれない…」
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そう言い残して、奴が設立したとされる『新興宗教アリス』の事務所に向かった。
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リサイクルショップ前を通ると、店内で争う声が聞こえた。
夫婦喧嘩でもしているのか…?
と店内を覗くと……
蟻巣川がリサイクルショップ店主の妻
『千石 美緒』を襲っていた…
奴は以前、ナイフを携帯していたこともあり、拳銃を抜きゆっくり店内に入る。
俺が来たことに気づいたのか、動きを止め、こちらを睨む…
言葉が勝手に出ていた。
職業病と言えるだろう…
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「その人から離れろ!」
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すると、蟻巣川は全く動じる気配を見せなかった。
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「おやおや、刈谷さんじゃありませんか…そんな物を出して…この方にでも当たったらどうするつもりですか?」
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ここで怯んでは刑事の名折れ、黙れと一言叫びつつ、歩み寄る…
奴も、拳銃の恐ろしさを認識しているのか、ようやく観念したように手を上げた…
こいつの性格はかつての出来事からよく知っていた…
窃盗により逮捕した蟻巣川は、取調室において、我々男性署員が女性署員を残し部屋を出たことを良い事に、言葉巧みにその署員を口説き、暴挙に及んでいる…
更に、刑務所内でもその腕力を利用して、他の受刑者に重傷を負わせたと話に聞いていた。
下手に奴に近づけば危険である。
手を頭の後ろに組ませ、跪かせる。
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「蟻巣川 一郎…殺人及び監禁の容疑、並びに強姦未遂の現行犯で逮捕するっ!」
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殺人については、まだ逮捕状は出ていなかったがまあ、この男がやったに決まっている…
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「美緒さん…無事で良かった…事情はまた後ほど…
ほらっ!立て!この野郎…」
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店を出る間際、奴は後ろを振り向き、リサイクルショップ店主の妻『千石 美緒』を睨みつけ、何やら呪文のようなことを口ずさんだ後、不気味に笑いながら素直に車に乗り込んだ。
少し気になり、美緒を見た…
体が硬直しているのか、身動き一つせずへたり込んでいる…
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「美緒さん?大丈夫ですか?」
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返事が無い…
顔を覗きこむと…
急に表情を変え
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「いやあぁあぁあぁあ!!」
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と叫び、暴れまわる…
手が付けられない
そこに千石さんが帰ってきた。
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「美緒!?どうしたんだ?
あっ…刈谷さん
どうかしたんですか?家内に何があったんですか?」
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分からない…
蟻巣川は一体何をしたって言うんだ。
依然、美緒は頭を抱えたまま店の隅に蹲り叫び続けていた。
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応援を呼び、蟻巣川の身柄を警察署に送った…
美緒はようやく落ち着きを取り戻していたが、身体を震わせて口を開かない…
店主に事情や経緯を話し、その日は署に帰った。
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気になったのはケシの花…
その事について蟻巣川は
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「蟲達のオヤツにね…」
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と、よく分からないことを言っていた…
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「何だ?オヤツってのは…」
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木嶋刑事の問いに
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「蟲が宿っている方々に差し上げると、喜びましてね…他の麻薬なんかを使っている人もいたようですが…あれはダメだ…高くつくし、副作用があってね…
ですから、困っている方に私から手を差し伸べたんですよ。」
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『有田 文恵』も口にしていた『蟲』…
その事については全く話が見えなかった…
後日、蟻巣川は容疑を認め送検された。
凶悪犯の逮捕によって
町にほんの少しでも平和が訪れればいいのだが…
作者ナコ
出来れば、シリーズ1からご覧になって下さい。私の投稿は全て繋がっております。
この物語はフィクションです。登場する人物名、店の名前などは一切存在しません。