私は中古品の買取、販売を行う店を営んでいる。名がなんともキモい…
『リサイクルショップ 千石』
まぁ、父がネーミングした名だが…
変更するのも面倒なのでそのままにしている。
ウチは代々、質屋を営んできたそうだが…
親の代から質屋では聞こえが悪いと、今の買取販売の形に変更したそうだ…
まあ、どうでもいいが。
この店にはあらゆる品物が持ち込まれる…
だけではなく、怪しい雰囲気を醸し出している人間も訪れる
先週、美緒が受けた恐怖は酷いものだったらしく…何日も部屋に引き込もる程だったが、ようやく元気を取り戻しつつある。(シリーズ21.23参照。)
店には今のところ、出すわけにもいかないが、この分なら数日で店にも立てるだろう。
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一人で切り盛りする中、また怪しげな客が来店した…
見た目は、色白で背が高く、切れ長…いや、大きなの目が特徴の男…仕切りに『ギィ…』と歯ぎしりをして居た…耳障りなので辞めてもらいたいものだが、癖なのだろう。
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「店長さん…このストーブ何てメーカーっすか…」
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店のストーブなどを置いてある場所に立つと『1960's イギリス製の15型のアラジン』を指差し聞いてきた。
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「値札に書いてあるよ…」
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そう答えると、値札を眺めながら暫く考え…「これください…」
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とだけ言ってレジにやってきた。
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「この店は初めてのご利用で?」
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彼にあまり見覚えがなかったので尋ねると
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「前に一度来てるっすけど…?ギィ…イタリア製SMEG(スメッグ)の冷蔵庫をその時は買ったっす…」
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あれ?
確かにSMEGを買って行った客はいたが、こんな顔色の悪い青年だったかな…?
と財布の中身を確認している彼の顔をマジマジと見て記憶の引き出しを開けていると…店の奥の扉が少し開き、美緒が顔だけを出して
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「ねえ…店長?ハサミってどこ?」
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などと言って、その客に気づくと小さく頭を下げる…
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「戸棚に入ってるだろ…ちゃんと見てみな…」
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私がそう答えると、不機嫌そうに奥へ入って行った。
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「綺麗な方っすね…つか、めっちゃ可愛い人っすね。娘さんですか?それともバイトの人?」
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その客が何と無く鋭い視線を送りながら聞く。。。
なぜかそれが不気味で、少し警戒して答えた…
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「娘に見えますか?」
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「あっ…違ってたのなら、すんません…」
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ふっと目つきが変わり、優しげな笑顔を覗かせる…
不思議な人だな…と思いつつ
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「妻…家内なんですよ、ああ見えて…」
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と照れながら答えた。
それを聞くと、目を丸くして「そ…そうなんですか?」と驚いていた。
その時あることに気が付いた。
目が真っ赤に充血して、何とも痛々しい…
が、そんな事よりも仕事をしなければ…
その暖房器具コーナーに行き、ストーブを抱え
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「んしょっと…アラジンストーブの扱いなんですけどね…火を灯す時は良いのですが、消火…おっとっと…危ない…何でこんなとこに塵取りなんか置いてあるんだ…全く…
あっ…すみません…
…消す時ですね…あと、天板の上なども熱くなるので、火傷などに十分、注意して頂いて…おいしょっとぉ…ふぅ…」
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そう言いながら、ストーブをレジカウンターまで運び、軽く点検を済ませる。
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「お宅まで、配達出来ますが…いかがなさいますか?」
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「あっ…是非お願いするっす!」
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それを聞いて、包装用クッション材を巻きつける…
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「今日中には運べるので、ご安心ください…」
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ガムテープで止め付属のダンボールを被せる…
レジを打ちながら、彼の顔をもう一度見た…
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「お客さん目が充血してますけど、どうかなさったんですか?
その…
店を出て左手三軒目に薬屋があるので、目薬かなんか買って行かれた方が…」
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余計なお世話かもしれないが、つい口をついて言ってしまう…(お人好しだな私は…)
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「ああ…大丈夫です…痛くもねえし…」
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と目を軽く伏せ、「ギィ…」とまた歯ぎしりをたてた…
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「そうですか…それなら別に良いんですが…
えっと…あの、此方に住所とお名前を…お願いできますか?」
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メモを差し出し、胸ポケットにさしてあったペンをカウンターに置く。
柔らかい表情を浮かべたまま、ペンを取ると小さな声で返事をする。
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「はい…」
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店内がしんと静まり返り、ペンを走らせる音だけが聴こえた…
それに混じって、たまに『ギィリ…』っと歯ぎしりの音…
新しい住所なのか、iPhoneを取り出して何やら見ながら書き込んでいる。
すると、突然彼のiPhoneが震え出した。
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「おお!ビックリした…電話?すいませんちょっと待ってください…」
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と私に言ってレジカウンターから離れる…
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「もしもし?…なんだ…お前か…なんか用?…はぁっ!?明日来る?ウチに?
待ってよ、掃除してねぇ…うん…でも、別に構わねえよ…どうせ男だけしか来ねえだろ?うん…分かった。じゃあね…」
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そう話し、電話を切るとレジカウンターに戻り住所の続きを書いた。
さっきまでの雰囲気が電話の時には感じなかった。
チャラいというか、今時の若者風というか…そんな事を感じていると
全て書き終えたのか、レジの電光掲示板を確認して、金を置いた…
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「じゃあ、ウチで待ってますんで宜しくお願いします。ギリィ…」
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と言って店を出て行った…
その客を見送った後…
(美緒はハサミを見つけたのかな?)と振り返ると
美緒が店の奥で、何やら隠れるようにこちらを覗いている。
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「何やってんの?お前…」
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「あの人…人間じゃない…」
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はっ?
意味がわからず呆然としていると…
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「だって…なんか変じゃなかった?態度とか…見た目とか…」
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確かに不思議な人だな…とは思ったが、この店の客は大概、変わり者ばかり…特に気にもならなかった。
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「そんな事よりもハサミを何に使うんだ?」
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そう聞くと、眉間のシワが伸び、顔をほころばせニシャ…と笑うと
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「結婚式の招待状!手の混んだものを作ろうと思って…えへへ」
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と嬉しそうに奥へ引っ込んで行った…
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「兎に角、このストーブを届けに行って来るからな!店は閉めてくけど…留守番頼むよ?!聞こえたか⁉︎」
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と声を掛けると、「へ〜い…」と奥で、ふざけた返事をしていた。
私は、ふふ…と笑いながら店の外にストーブを運び、表にトラックを回すために指にキーを引っ掛け、くるくると回しながら車庫に向かった。
車庫の前に行くと…
今ストーブを購入した男が立っていた…
ウチの車庫の前には窓がある…
そこから、居間が丸見えなのだが、その窓から中を覗き、ズボンを半分下ろし、何やら右手で擦っている…
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「君…そこで何してるの…?」
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その言葉に驚いたのか、慌てた様子でズボンを上げるとこちらを振り向いた。
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「ああ…ご主人でしたか…へへ」
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と照れたように笑う…
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「何してるのか?と聞いているんだけど…」
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少し睨み付けながら歩み寄ると平然とした顔で
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「ここを通りかかったら、たまたま中が見えたもんすからね…」
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と口にする…
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「ここはウチの敷地内だ…通りかかりっこないだろ…」
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と、辺りを見渡しながら聞くと…
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「いえ…ほら…そこの自販機でジュースを買おうと思ったんすけどね…手を滑らせて小銭を落としちゃったんすよ…
で…ここの道、傾斜になってるでしょ?
小銭がそこん所まで転がっちゃったんすよ…それを取りにね…ここまで来たわけです。」
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兎に角、出て行って欲しいので彼のそばまで行き窓から中を見た…
美緒が、キャミソールにパンツいっちょといった軽装で胡座(あぐら)をかき、招待状作りをせっせとやっている…股が丸見え…
それどころか、汗をかいているのかあそこが湿っているのが丸見え…
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「あの馬鹿…」
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私がそう呟くと…男は、開き直ったような表情を浮かべ信じられない事を口にした。
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「奥さん、本当お綺麗ですね…羨ましいなぁ…僕にくれませんかあの人…うはは」
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なっ!
何だこいつ…
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「ダメに決まってんだろ…」
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冷静さを失うところだったが、あえて平静を装い無表情でそう答えると
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「ジョークっすよ!あははは…」
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と声を上げた。
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「お買い上げになったストーブと一緒にトラックでお送りするので、店の前で待っていてもらえますか…?」
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美緒に聞こえたらマズイと…
少し小声で言うと
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「へ〜い…」
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と、にやけながら、自販機の方へと走って行った。
あの返事…その頃から覗いてやがったのか…あの野郎。
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「おい!?美緒!」
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窓に向かい声をかける。
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「なぁに〜?」
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「お前なんて格好してんだ馬鹿!風邪引くぞ!」
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そう言うと、ムスっと顔を歪め
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「何怒ってんのぉ…別に誰も見てないんだからいいじゃぁん…部屋だってストーブ焚いて暖ったかいし…」
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と、仕方なさそうに立ち上がると、奥のタンスのある部屋へと消えて行った。
全く、あの娘には警戒心というものが無い…
少し露出を控えてもらいたいものだ…普段もホットパンツやミニスカートに胸元の開いた上着ばかりを着ているし…こっちの方が気が気じゃない…
最近、店に地元の高校や中学の男子生徒の客が増えた…
が、奴らの目的はウチの商品を見に来てるのではなく、美緒の下着を見に来てる輩がほとんどだ。
この間も奴ら、「なんだ今日はホットパンツか…」「でも、胸元は空いてるからおっぱいが見れるかもしれないぞ」とか何とか話しているのを聞いたことがある。
その辺の事を理解してるのかしてないのか知らんが、美緒は…
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「男の子達また来てくれたね店長!
可愛いんだよぉ…この間、お花くれた子とか居たし…告白されたらどうしよう…えへっ!」
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などと言っている始末…
まあ、この話では、そんな事はどうでもいいが…
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トラックを店の前に停め、ストーブを載せ、ロープで固定する。
すると、それを見ていた男は自転車を指差し
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「乗せて行ってくれるんなら、あれも載せてよ…」
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などとほざいた…
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「そうですか…あの自転車は貴方の…」
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仕方なく、自転車も載せる…固定など面倒なのでせずに…
トラックに乗り込み、男のウチへ…
それほど遠くはなく直ぐに着いた…
その道すがら、野郎…またおかしなことをほざいていた…
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「さっき、ジョークとか言ったけどさ…前向きに検討してよ…俺、あの人に惚れちゃったよ…」
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馬鹿め…誰がお前のような人ん家の敷地内で股間を弄るような変態男に美緒をやるか…
そもそも、誰にも私の大事な美緒を渡す気などない…
さらにこんなことまでほざいた…
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「あんたより俺の方がセックスは気持ちいいと思うよ?デカイし…それに、歳が若いから…激しいやつができるっしょ?うへへ…」
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馬鹿め…
私は見た目が五十そこそこに見えるかもしれないが、まだ四十代…
体力も毎朝のランニングでそこらのガキよりマトモだ…あっちの方も結構…って
そんな事はどうでもいい…
兎に角、「勘弁してください。」
とだけ話しハンドルを握っていた…
奴の家に着き、早速ストーブと自転車を下ろす…
ふと見ると、一階一戸建ての借家…
その玄関前に若い女性が立っていた…
すると、男はその女性に歩み寄り
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「誰?お前…」
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と聞いていた…
その問いに女性は
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「あの…ハルコです…先輩覚えてませんか?」
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などと答える…
名前まで言っているにもかかわらず男は首を傾げながら
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「よく覚えてないけど…まあいいや…
上がってく?でもちょっと待っててね…
片付いてないんだわ…
ほら…
あそこのあのストーブも入れなきゃだし…
ハルコちゃんってったっけ?
明日は朝早くないよね?
泊まっていきなよ…えへへ」
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などと話していた…
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「ありがとうございました…」
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あまり、奴と関わりたくない…
さっさと帰ろう…
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「あっ!店長さん!また行きますんで!」
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(もう来るな!)
その言葉を飲み込み、トラックに乗り込む…
ふと…その時に、あの一戸建ての借家に、見覚えがあることを思い出した…
確かに、この場所にSMEGの冷蔵庫を届けたことがあったからだ…
しかし、その時会った男はあんな色白で背の高いナンパ男では無かった気がした…背丈は覚えていないが…
だがまあ…どうでもいいか…
とハンドルを切り返し、元来た道を引き返した。
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やつは宣言通り、毎週木曜日に必ず来るようになった…
店をフラフラと見回り、時に奥の扉に目をやったり、挙動不審な行動をとって、特に何も買わずに立ち去る…
それを繰り返していた…
まるで、『美緒』目当てにやって来る、そこらの中学生や高校生のようだった…彼らも彼らで最近、店頭に美緒が居ないので、ウロウロとしては残念そうに帰って行くのを繰り返していたからだ…
次第にその手の輩がいなくなると…
そのうち、流石に元気を取り戻したのだから店に立ちたいとせがむ美緒を止めることもできず、仕方なしに了解すると…
また、ガキどもの溜まり場へとなって行った…
奴はというと…
最悪な事に毎日顔を出すようになった…
しかし、美緒は…
もう既に奴の異様さを見抜いていたこともあり、奴が店に入ってくるなり裏へと逃げて行く…
それを毎日繰り返しているうちに、流石に奴も痺れを切らしたのか、ある日…店の扉を乱暴に勢いよく開け店内に入って来て…
それに驚いた美緒が慌てて裏へ入って行くのを見ると奴は…
私の胸ぐらに掴みかかり…
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「あの女を出せ!殺されてえのか?!どうして俺が来るとあいつは逃げるんだ?他のガキどもの時には明るく接してるのに!」
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と喚き散らし、ポケットからカッターナイフを出した…
流石の私もその行動に恐怖していると…
それを影で覗いていた美緒が飛び出してきた…
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「辞めて!!警察呼びますよ!?
ウチ、刈谷さんって刑事さんの携帯番号知ってるんだから!!」
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咄嗟に私も叫ぶ。
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「馬鹿!出てくるな!」
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このやり取りに、店でブラブラしていた高校生達も固まる。
しかし、その高校生の中に一人どうやら武道の部活に所属していると思しき少年が、後ろからゆっくり、奴に気付かれないように近づくと、奴が手にしているカッターナイフを持っていた右手を素早く取り、人一倍強い握力で腕を掴みカッターナイフを下に落とすと、力任せに奴を引きずり店の外に追い出した…
その後、見ていた他の高校生達も外に飛び出して、その格闘少年と共に奴を…やり過ぎと思うほどに蹴る!蹴る!蹴る!
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「辞めて!ごめんなさい!もうしません!」
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と情けなく叫ぶと、高校生達もようやく足を止める…
私と美緒も気になり外に出て行くと、土下座のような体勢で、頭を地面に付け、わぁぁ…と泣いていた…
なんて情けない男だろう…
かっこ悪いにも程が有る…
その後、男は自慢げの格闘少年の傍をしずしずと去って行った…
流石にもう来ないと思っていた…
あれほどボコボコにやられて、来るなんて異常としか思えなかったが、奴は当然のような顔で店にやってきて、いつものように商品を物色しにやって来た…
勿論、美緒は奥に引っ込み、居間の扉からこちらの様子を覗く。
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「君さ…何がしたいの?」
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思わず聞くと…
なんとも情けない顔で振り返り、
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「言ったじゃないですか…あの人に惚れてんですよ…」
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なんて諦めの悪い男だ…
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「あのね…美緒は君の事が好きじゃないみたいなんだけど…」
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そう言うと情けなく涙を流し
「でも…俺…」などと下を向いてボロボロ涙を床に落としていた…
それには流石の美緒も少し同情したのか裏から出てきた…
それに気づくと、男は美緒の顔をチラリと見ると…照れた様に顔を赤くしていた…
美緒が口を開く。
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「ごめんなさい…私…店長の事しか愛せないです…なので…」
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その言葉が聞こえていないのか、奴はおもむろに美緒に近づき、信じられないことに抱きついた…
まさかの事で驚いて動くことができなかった…
その時…
美緒の口からまさかの言葉が出る。
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「痛っ!!!痛い!辞めて!なんで噛み付くの?ヤダ!離して…あ…ふ…や…だぁん…」
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私は全く何が起こっているのか分からず立ちすくんでいると…
静まり返った店内に
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『ジュルル…ジュルル…』
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と妙な音が響き渡る…
依然、奴は美緒の首元を噛んでいる…
まさか…
これはマズイと奴と美緒の元に駆け寄る。
美緒の顔から血の気が引いて行くのが分かった…
この野郎…血を吸ってやがる…
引っぺがそうと手を掛ける…
よく見ると、奴の手が美緒の股間をまさぐっている…
何て野郎だ!
美緒はどう言う訳か、気持ち良さそうに顔を歪めている…
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「この野郎!ふざけた真似しやがって!」
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我を忘れていたのか、私は近くにあった金属バット(商品)を手に取ると、奴の背中を力一杯に殴っていた…
そんなもので殴られたので、流石の奴も、痛かったのか…美緒から離れ…崩れ落ちる。
蹲る奴の背中を私は我を忘れて殴り続けた…
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「辞めて!店長⁉︎死んじゃうよ!」
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美緒の言葉に我に帰り、呆然と蹲る奴を眺めた…
しん……と静まり返る店内…
すると、暫くして店内に奴が立てる歯ぎしりが響き渡った。
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『ギィ…ギィ…ギィ…ギィ…ギリリ…』
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「その歯ぎしり辞めてくれないか?耳障りなんだ…」
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そう言うと、その歯ぎしりが止んだ…
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「僕は…ただ…美緒さんが好きなだけなのに…」
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素直で真っ直ぐな気持ちを言葉にしていることは、分かる…
だが、拒否されてもなお、しつこく歩み寄るのは男としてどうなのか…
その上、噛み付いて血を吸うなんて暴挙は聞いたこともない…
彼を、無理やり起こし、警察に電話した…
丁度、水澤刑事が側にいるという事で、直ぐに店にやって来た…
水澤刑事に身柄を引き渡す時、彼の充血した目が、真っ白に色を変え、人間的な恨めしそうな表情で我々を見ていたのが…今でも目に浮かんで、たまに美緒との会話で話題に上っている。
作者ナコ