昭和五十年代前半、雨の日の昼下がり。
幼稚園から帰った私は自宅のあるマンションを探検していました。
マンションには同年代の子供がおらず、雨が降る日は外に出してもらえなかったので探検が唯一の楽しみでした。
このマンションは瀬戸内海を一望できる高台に建っており、都会にありながら風光明媚な建物、という謳い文句を掲げていました。
そんな建物に住んでいたので自室やリビングからも海が見えました。
しかし雨の日の海はなんだが怖くて、やはり探検へと出て行ってしまったのです。
いつものように視界が歪むと、さっきまでの雨が嘘のような快晴。
マンションの白い壁に太陽が反射して眩しすぎるくらい。
マンションの廊下の窓からブーゲンビリアの赤と海の青のコラボレーションがとても美しい、そんな光景。
海上を行き交う船。
汽笛をあげるサンフラワー。
それらをうっとりと眺めているといつの間にか横にイギリス人の若い奥さん。
「こんにちは。ゆ〜ちゃん。海が好きなのね。」
「こんにちは。マッコイさん。ゆ〜はね、晴れた日の海が大好きなの。」
「そう、きれいものね。」
なぜマッコイさんって分かるのかというと、真後ろにある扉の表札に「McCoy」と揚がっていて、なんて読むの?と聞いたからです。
暫し眺める二人。
でも気づくといつの間にかエントランス付近に立ってました。
ガラスの自動ドアの向こうは雨は上がってましたが曇天でした。
「やっぱり晴れの方が好きやなぁ。」
急いで自宅へ戻りました。
その後も何度かマッコイさんと会話するうちに彼女はイギリス人で旦那様と、男の子が一人いる、小さい頃日本に住んでいたと分かりました。
ある別の日、マッコイさん宅の前の窓から海を眺めていると今度は赤ちゃんを抱いたマッコイさんが横に立っていました。
「こんにちは。ゆ〜ちゃん。」
「こんに• • • あ!赤ちゃん!」
「そうよ、今日はお昼寝から早く起きたの。」
「わぁ〜、男の子?かわいい〜!」
「ありがとう。ゆ〜ちゃん兄弟は?」
「ゆ〜はね、ひとりっこ。」
「兄弟ができるといいね。」
「うん、ゆ〜はね、妹が欲しいの!」
「うふふ。そうなの。」
海に見入る私。
ハッと気づくとまたエントランスに立ってました。
やはり外は雨。
「妹、欲しいなぁ• • •。」
また急いで自宅へ戻りました。
時は流れ。
妹が欲しかった私に弟ができました。
マッコイさんに「妹じゃなかったけどとってもかわいい弟が生まれたよ!」と伝えようと思い、出向きましたが視界の歪みが起こりません。
帰ろうと振り返るとマッコイさんにとてもよく似た女性がいました。
「マッコイさぁん!」
笑顔で頭に「?」をたくさん浮かべた英語しか喋らないその女性はマッコイさんではありませんでした。
赤ちゃんと出会って以来マッコイさんに会うことはありませんでした。
ご拝読ありがとうございました。
作者ゆ〜
マッコイさんも異空間の住人だったのか、謎です。
お味噌汁のおばちゃんとほぼ同時期の物語です。
マッコイさんに似た女性はベイルさんと言って旦那様のお仕事の都合でこちらに来られた正真正銘こちらの住人、写真も残ってます。
余談ですがレアルマドリー在籍のギャレス•ベイルを見るたび、ベイルさん夫婦を思い出します。