私が小学校中学年の時に引っ越した、父の経営する会社の近くに構えた新居で次々起こる不思議な出来事をお話します。
もうこのお話ではお馴染みになった犬のケビンですが、果たしてそのケビンが二階の私の部屋でどうなっていたかというお話から始まります。
ケビンが上がってきたのをきっかけに逃げることができた私はリビングで震えていました。
両親は何事かと、弟のゆ〜太郎に私を任せ、二人で二階の私の部屋へと向かいました。
開け放たれたドア、付けっ放しの電気と蛍光灯、引き倒された勉強机用の椅子• • •
そして。
マタタビを食べた猫のようなゴロニャン状態のケビンがクローゼットの前に居たそうです。
ケビンはお腹を見せ、尻尾をパタパタと床に打ち付けながら「ハヒャハヒャキュンキュン」と空間に対して懐いていたそうです。
「かわいい• • •」
呟く母に
「自分、何言うとんねん!これ、どう見ても人がおる懐き方やん!おかしいわ!おい!誰かそこおんのか!?」(誰かそこにいるのか)
父の問いかけに、もちろん返事はなく。
仕方がないのでケビンを抱っこしてリビングへ戻ってきました。
父に怒られた母はあくる日、お向かいの老夫婦に相談に行きました。
なぜかその夫婦に相談すれば解決するという根拠のない自信があったとか。
母が老夫婦に
「娘の部屋で身体の大きな人の足音がするんです。で、昨日、娘が• • •。」
と事のあらましを話すと、老夫婦は「どんなおじいさんやった?」と聞いてきたそうです。
私が両親に言った「面長で色の白いグレーの上着を着た上品なおじいさん。すごい背が高い人に思えた。」とそのまま話すと、老夫婦は顔色を変えたそうです。
しばらく無言でしたが、こんな話をしてくださいました。
以下、老夫婦のお話。
お宅ら家族が家を建てる前は、ここは和田さんて言う老夫婦が住んどってな。
気のええ夫婦やった。
和田さんは奥さんはコンマイ(小さい)可愛らしい人やったけど本人はごっつい柄の大きな人でな、面長で色白の男前やった。
ほんで、身なりはいつもキッチリしとって、上品なグレーやベージュのカシミヤを愛用しとった。
自分の家もものすごい大事にする人でな、家も庭もいつも綺麗にしとった。
和田さんとこは二人の娘さんがおってんけど、二人とも遠くに嫁いでもてな。
夫婦二人で老後はゆったり暮らしとったんや。
でも旦那さんの方がだんだん弱ってもうてな、そんで丁度そこのゆ〜ちゃんの部屋ありますやろ?そこが和田さんの部屋やったんやけど、朝起きたら冷とうなってたんや。
ま、老衰やな。
私らも色々手伝わせてもろたけど、最期まで身の回りのきっちりした人やったわ。
ほんでな、娘さんが奥さん引き取ってな、ここの土地を更地にして売りに出したんよ。
そこへお宅らが家建てはったんや。
母は疑問をぶつけた。
「でもちゃんと地鎮祭もしましたし、やるべきことはやりましたんやけどね。何か失礼に当たることしてしまったんでしょうか。」
「いや、実は和田さんとこの旦那さんは大の犬好きでな、若い頃はよう庭で飼うてたんや。捨てられた子や、身寄りのない子を進んで引き受ける人やった。でもな、年いってからは自宅では飼わんと施設の手伝いしに行ったり、寄付したりしよったわ。ほんまの犬好きやったんやな。お宅らもかなりケビン君を可愛がっとうけど、ええ勝負ちゃうか、わっはっは!」
そこで母は合点がいったという。
ケビンが退屈な時、和田さんは相手しに来てくれたんだと。
それがちょっとした悪戯心からゆ〜を怖がらせる羽目になった。
「多分ゆ〜ちゃんの後ろから覗いたんは昔の娘さんと被ったんちゃうか。親からしたら子供は幾つになっても子供やさかいに。ま、和田さんは悪い人ちゃうけど今はあの家はお宅らの家や。四隅に塩盛ってお酒で床拭いてみ、治まると思うで。」
その日、早速塩を盛り、お酒で床を拭き清め、手を合わせてお願いしました。
「もう怖がらせないでください。」
「でもケビンが元気なくなっても困るから、私達家族が留守の時、少しだけ遊んでやってください。」
と、都合のいいお願いもしておきました。
あれ以来、ケビンが若く元気なうちは和田さんの出現はありませんでした。
時が流れ、私も大学を卒業し、就職、結婚、出産と慌ただしく過ごしていました。
ケビンも大分年を取り、黒マスクにもチラホラ白いものが混じり出しましたが、まだまだかなりの元気者でした。
そんな矢先、あの阪神大震災が。
その後元気なケビンに異変が。
そして久々の和田さん登場?
和田さん③に続きます。
ご拝読ありがとうございました。
作者ゆ〜
皆様読んでいただきありがとうございます。
ケビンはいつもはとても賢く従順だったのですが、和田さんにはメロメロだったようです。
もちろん私達家族にも甘えて甘えて修学旅行の集合に遅刻しそうになったことも。
でも和田さんは何か魔法を使えたのかもしれませんね。
次はあの阪神大震災の時の和田さん事件です。
よろしかったら読んでくださいね。