これは、僕とピザポが高校1年生の時の話だ。
季節は秋。
11月の初め頃。
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・・・・・・・・・。
その日、僕は図書館で読書をしていた。
ふと外を見てみると、もう薄暗くなっている。
僕は帰る準備をする為、急いで教室へと向かった。
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・・・・・・・・・。
校門を出ると、外は真っ暗だった。
ピロロロロピロロロロ♪
歩き出そうとすると、スマホの着信音が鳴り響いた。
見てみると、発信者はピザポだった。
ピザポの連絡は基本メールなので、僕は
「珍しいな・・・・。」
と呟きながら、電話に出た。
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・・・・・・・・・。
「もしもし?」
「もしもしコンソメ?」
・・・・あれ?
・・・コンソメ?
「・・・・ピザポ・・・だよな?」
「ちょwww友達の声忘れないでwww」
「・・・ああ。ごめんごめん。で、何の用だ?」
「それなんだけどさー・・・。コンソメ、今暇?」
「・・・・まぁ、暇って言えば暇だけど。」
「じゃあさ、ちょっと頼まれて!」
「・・・何?」
僕の声が少し警戒している様だったからか、ピザポはどこか慌てて言った。
「別に変な事じゃないって!ちょっと買い物に付き合って欲しいだけ!!」
「・・・買い物?」
「そう!・・・いや?買い物とは少し違うかも。」
「どっちだよそれwww」
「いやーwwwまあ、ちょっと聞いて?駅前にさ、新しいケーキ屋が出来たんだけど・・・コンソメ知ってた?」
「いや、知らなかったな・・・最近?」
「そうっぽい。俺も今日知ったし。・・・で、頼みなんだけど・・・。」
「うん。」
「一緒にそのケーキ屋に行ってくんない?」
「・・・はぁ?なんでだ。」
「男一人で行ける店じゃないんだよ!雰囲気的に!!」
「男二人ならいいのか?」
「《赤信号、皆で渡れば怖くない》ってね。独りじゃなければ平気!」
「・・・そんなもんか?」
「そんなもんだ!で、頼むマジで!!奢るから!」
「・・・仕方無いな。どこに行けばいい?」
「いやいや、いいって!入り組んだ所にあるし!!今から迎え行くから!!」
「わざわざ迎えなんて別に」
「今、校門前だよね?動かないで待ってて!」
「・・・おい。人のはな」
「あ、俺は今、駅前にいるよ!!」
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プツッ
電話が切れた。
「全く・・・人の話を聞かないにも程がある。」
僕は軽く舌打ちをして、ピザポの到着を待つ事にした。
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・・・・・・・・・。
それから数分も経たない内に、またピザポから電話が掛かって来た。
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「もしもし?どうかしたか?」
「もしもしコンソメ?俺は今、駅から少し行った所のファミマにいるよ!!」
「なんだよいきなり。」
「んー?コンソメが退屈しない様に、実況!!」
「なんだそれwww」
「じゃ!」
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プツッ
電話が切れた。
「退屈しない様に・・・ねぇ。」
僕は薄く雲ってぼやけている月を見上げた。
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・・・・・・・・・。
それから、数分に一回位のペースで、ピザポから電話が掛かって来た。
それは、毎回決まって
「もしもしコンソメ?俺は今、○○にいるよ!!」
という物だった。
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「もしもしコンソメ?俺は今、▲▲書店の前にいるよ!!」
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「もしもしコンソメ?俺は今、マクドナルド××店の前を通過中!」
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「もしもしコンソメ?俺は今、住宅地を歩いてるよ!!」
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・・・・・・・・・。
最初の電話から大体20分程経っただろうか。
僕はふと、ある事に気付いた。
「声の感じが、同じだ・・・・。」
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そう。最初の所の声の感じが同じなのだ。
まるで何かで録音したかの様に。
声量、抑揚、トーンまで全て。
おかしな所はまだある。
あいつは、僕の事を《コンソメ》と呼んだ。
ピザポは、いつも僕の事を《コンちゃん》と呼んでいる。
現に今日も、学校で僕の事をそう呼んでいた。
わざわざ指摘するのも変だろうと思って黙っていたが、これも明らかにおかしい。
でも・・・・・・・・。
「あの声は、確かにピザポだよな・・・?」
下校時間ギリギリまで残ったせいか、もう学校には教師位しか残っていない。
故に、この問いに答えてくれる人も誰も居なかった。
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・・・・・・・・・。
ピロロロロピロロロロ♪
恐る恐る電話に出てみる。
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「・・・もしもし。」
「もしもしコンソメ?俺は今、学校の裏にいるよ!!」
「学校の・・・・裏?」
「そう!!今からそっちに行くよ!」
「ああ。・・・・・・・え?」
よく考えると、僕は
「お前に今居る場所・・・」
「ねえコンソメ。」
こいつに
「今から行くよ。」
「教え・・・。」
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「モウスグアエルネ?」
学校に居るだなんて、一言も言っていない。
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プツッ
電話が切られた。
「・・・どうしよう。」
あれは、ピザポじゃない。
「逃げ・・・」
言い掛けて止める。
もし、もし本物のピザポだったら。
ここで逃げたら僕はかなり失礼な奴だ。
「・・・どうしよう。」
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・・・・・・・・・。
ピロロロロピロロロロ♪
また電話が鳴った。
思わずしゃがみこむ。
ピロロロロピロロロロ♪
出たくない。
ピロロロロピロロロロ♪
嫌だ。止めてくれ。
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タッタッタッタッッ
誰かが駆け寄って来る音。
プツッ
電話が切られた。
タッタッタッタッ
こちらに駆け寄って来る音は、まだ続いている。
今逃げれば・・・・間に合うだろうか?
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しかし。
そう思った途端、直ぐ後ろから声が聞こえた。
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「もしもしコンソメ?」
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・・・・・・・・・。
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ゴンッッ
後ろで、鈍い衝撃音がした。
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「俺は今、コンちゃんの後ろに居るよ!!」
思わず振り返ると、そこにいたのは
紛れも無いピザポだった。
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・・・・・・・・・。
「・・・・ピザポ?」
「それ以外の誰かだと思った?」
ピザポは、何時も通りのピザポだった。
僕がホッと胸を撫で下ろしていると、ピザポは
「・・・・なんか腹減った!ラーメン食べ行こう!」
と言った。
・・・・あれ?
「・・・駅前のケーキ屋じゃ、なかったのか?」
「ん?・・・ああ!財布に500円しか入って無かった!ケーキとか買ったら一瞬で消し飛ぶ!」
・・・・。
「お前、奢ってくれるとか言ってなかったけ?」
「・・・・財布の中身、把握して無かったんだ。ゴメン。」
「別にそれはいいんだけど・・・・。」
「ほら、早く行こう!そろそろ混み始めるから急いで!!」
無理矢理手を掴まれ、走り出す。
「ちょ?!」
「急いで!!」
遠ざかっていく校門に、誰かが居た気がした。
振り返ろうとすると、ピザポがまた強く手を引いた。
「振り向いたら転んじゃうから、後ろ見ないで!」
そうして僕達はそのまま、学校を後にした。
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・・・・・・・・・。
その時、僕はまだ知らない。
さっきまでの電話の通話記録が、一切残っていない事に。
作者紺野
どうも。紺野です。
地味に怖かったこの体験。
あの時、僕を「コンソメ」と呼んでいたのは、一体誰だったんでしょう。
勿論話はまだまだ続きます。
良かったら、お付き合い下さい。