ある日の昼下がりの噂。
「タイトルのない本があるらしい。」
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噂が流れ出したのはつい最近の事だ。
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「読者によって本の内容が変わる」
「本の内容はその読者の未来予知噺」
「ある人は読むと死んでしまった」
などなど…。
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心霊現象の類いをを信じない僕にとっては、どれも信憑性の薄い話ではあった。
だが、僕はこの話に興味を持っていた。
なぜなら、生粋の本好きだからだ。
しかし、小説はどちらかと言うと好きではない。むしろ読まない方だろう。
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だけど僕はあの本全体の雰囲気が、あの本独特の存在感が好きなのだ。
だからこそ、僕はこう答える。
「【本】が好きだ」と。
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こうして僕はその「タイトルのない本」の獲得、もしくは閲覧だけでもと思い、噂の出処を探し始めた。
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探し始めてみると、意外と情報が少ないことに気づいた。
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「読者によって本の内容が変わる」
「本の内容はその読者の未来予知噺」
「ある人は読むと死んでしまった」
という噂で流れている情報しかわからない。
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やはりこれは完全な作り話なのかと思い始めた頃、ある一つの新しい情報が舞い込んできた。
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「その本は、本が読者を選ぶ。本が読者に近づく。結果、いつの間にかと読者の元へと渡る代物だ。」
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一体どのようにして渡ってくるのか?
そんな疑問を普通はもつだろう。
だけどその時の僕は、そんな疑問をもつこともなく、家へと大人しく帰ったのだ。
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家に着くや否や、僕は非常に驚いた。
ポストに文庫本サイズの本が入っていたのだ。
直感的に、これは「タイトルのない本」だと勘付いた。
強引にポストのドアを開け、急いで本を手に取る。
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僕は何故あんなに勢い付いて本を手にしてしまったのか、今では分からない。
まるで、本が僕を読んでいる…
そんな感じがしたのだ。
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本には確かにタイトルがなかった。
そもそも、本のカバー自体が真っ白になっている。
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〜1ページ目〜
何も書かれていない。真っ白。
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〜2ページ目〜
何も書かれていない。真っ白。
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〜3ページ目〜
真っ黒に塗りつぶされている。
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な⁉︎
これでは内容が分からない。
確かこの本は人から人へと渡されている筈…
大方、意地汚い奴か誰かが塗りつぶしたのだろう。
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〜4ページ目ー187ページ目〜
全て真っ黒だった。
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これでは全然内容が分からない。
イラつきながらページをめくる。
次が最後のページ。
僕は落ち着きをとりもどしながら、ゆっくりとページをめくった。
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〜最後のページ〜
【真っ赤に染まっていた】
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…気味が悪い…誰がこんなことを…。
前のページまでは真っ黒だったのに。
誰がこんなイタズラを…。
僕は放心状態のまま、本を閉じた。
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「……⁉︎⁉︎」
これは…一体…どういうことなんだ…。
何も書かれていなかった筈のタイトルは、
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「○○の未来」
(○○は「僕」のなまえ)
と。
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さらに表紙には、
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【ビルから飛び降りて投身自殺をしているであろう人の絵が描かれていた。】
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あぁ…そういうことなのか。
僕は全てを察し、遺書を書き始めた。
作者赤庭玖繰