「お待たせ。待った?」
「あら、ゆ〜ちゃん、大丈夫よぉ、ぜぇ〜んぜん待ってないわ。」
「良かった。なににする?」
「アタシはアールグレイとレアチーズケーキにする。ゆ〜ちゃんは?」
「そうね、セットじゃ好きなお紅茶選べないから私もアールグレイと• • • ミルフィーユにするわ。」
ここは海岸通りの喫茶店。
このお店はクラシックで少しアンティーク。
いくつかある行きつけのお店の中でもかなりヨーロッパ色の濃いお店だ。
港に停泊する豪華客船などを見ながらゆっくり過ごすのが好きでよく家族やお友達、もちろん一人でも来るのだが、今日はちょっと特殊なお友達と一緒だ。
彼女の名前はエリカ。
元の名は真太郎。
真の太郎ってまるで男子の名前なんだけど。
今ではもう戸籍もエリカになっている。
正真正銘の女性だ。
当時エリカは関西圏でもかなりの規模を誇る所謂、ニューハーフバーで働いていた。
エリカの雇い主のママを始め、お店の従業員も全て元男性だ。
エリカは学生時代、ママの元でアルバイト修行をし、正社員として働く前にタイの有名な医師の元で性転換手術を受けてきたのだ。
そんなエリカとの出会いは小学校だった。
その時はまだ『真太郎』だった。
クラスも一緒になったし、遊ぶのも一緒が多かった。
だってその頃から既に中身は『エリカ』だったから。
「ねぇ、僕も入れて?」
「いいよ、でもゴム跳びよ?真太郎、ゴム跳び出来る?」
「うん、女の子の遊び、大好きなの。」
「じゃ、一緒にやろう!」
こんな風によく遊んでいたが、私は小学校中学年で転校、『真太郎』とも会う事はなくなった。
時が流れ、私は志望大学に合格した。
大学入学式の時、エリカの母と私の母が再会し、そこから親子で仲良くなり、今に至るのだ。
「エリカ、改めて、手術成功おめでとう。一段と綺麗になったね。」
「やだぁ、ゆ〜ちゃんたらぁ!」
「うふふ。で、聞いてほしいことって?もしかして早速彼氏が出来たの?」
エリカの顔が少し曇った。
彼女にしては珍しいリアクションだ。
どうしたんだろう。
「そうだと良かったんだけど、違うの。ごめんね。こんな事言えるの、ゆ〜ちゃんしかいないから。うん、信じてもらえないと思うの。ゆ〜ちゃんしか。」
「そうなん?何があったん?」
「実はね• • • 」
エリカから聞いたお話は、恐ろしく、そして悲しいお話だった。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
アタシね、大学卒業してすぐタイに行ったじゃない?
そうそう、性転換手術のためにね。
そりゃぁもう、怖かったわよ。
死を覚悟したわ。
だけど学生時代、バイトでしっかり手術費用を貯めたんだから、やるしかないって。
でね、無事手術が終わったんだけど、痛いし、熱で朦朧としてるし。
痛みでの覚醒を何度も繰り返したわ。
そしてやっと痛みも取れて先生の許可を得て日本へ帰れるってとこまで来たのよ。
今日がタイ最後の夜って日、事は起こったの。
「明日でタイともお別れね。」
私は眠りについたわ。
何時頃かしら、ふと目が覚めたの。
で、耳元で何か聞こえるの。
「• • • 」
え?
「• • • ク• • • 」
何?何なの?
「• • • クッ • • ター • • • ック• • • 」
「クックッって、何なのよぉ!はっきり言わなきゃ分かんないでしょ!」
そしたらね、電気が全部消えたの!
え?声のトーンを落として?
ごめんね、ホント怖かったのよ、だって、ゆ〜ちゃんも知ってるわよね?
アタシ、暗闇が苦手だから電気消さないで寝るって。
でね?ベッドで固まってたらホントに金縛りにあっちゃったの!
ベッドの上に座ったまま金縛りって辛いのよぉ?
でね、アタシの後ろから手を回してきた不届き者がいてね、アタシの胸を触ろうとするのよぉ!
あ、声が大きかったわね。
えっとどこまで話したかしら。
あ、胸ね、胸。
その手術を受ける前ってね、ホルモン療法受ておかないといけないの、だからアタシももちろん受けたんだけど、うん、だからちょっとだけ膨らんでたから
「やだ!触らないで!」
て叫んだの。
そしたらね、電気が点いてね。
同時に金縛りも解けたみたいになって。
もちろん部屋にはアタシしかいなかったわ。
それが今から三ヶ月くらい前、そう、帰国してゆ〜ちゃんに手術成功の電話したでしょ?あの少し前。
で、早速バイト先のママの所に、帰国しましたって挨拶に行ったの。
「ママ、ただいま帰りました。」
「あらァ、エリカちゃん、おかえりなさい。手術成功おめでとう。来月からは正社員として働いてもらうからよろしくね、ってちょっと、エリカちゃん?あなた一体何を連れて帰ってきたの⁉︎」
「え?アタシは一人ですよ?」
「ちょっとこっち来てちょうだい。」
アタシは控え室に連れて行かれたわ。
でね、ママがパワーストーンを握らせてくれて般若心経を唱え出したの。
パワーストーンはラピスラズリとローズクォーツだったわ。
何だか分かんないけど、ここはママに従わないといけない、と、大人しくしてたの。
そしたらね、般若心経が中盤に入った時に手に握ったローズクォーツが砕けちゃったの!
え?アタシの握力が強すぎる?やだ!失礼しちゃうわ!
でね?あんなに硬いものが手の中で砕けたもんだからびっくりしちゃってね。
そしたらお経をあげてたママが突然倒れちゃったの。
「やだママ!大丈夫ですか⁉︎救急車呼びますから!」
慌てて電話の所に走ったの。
そしたら。
「⁉︎」
後ろからもんのすごい力で肩を掴まれたの。
え?もちろんママに、よ?
え?そりゃ、ママも元は男性なんだから仕方がない?いやだぁ!もぉ!
それでね?振り向いたらさっき倒れたはずのママが立ってるの。
アタシを凝視してね。
で、「ママ」って呼ぼうと口を開けたらママが倒れちゃったの。
アタシびっくりしちゃって!
とりあえず救急車呼ばなきゃ!
って慌ててる時に控え室のドアが空いてママが入ってきたのよ。
「⁉︎」
「あら、良かった、気がついた?」
「ママ⁉︎本物⁉︎」
「夢でもみたのね。あなたお経の最中に気絶しちゃうから、仮眠ベッドに寝かしたのよ。もぉ背が高いから大変だったんだから。」
「え⁉︎」
見るとアタシ、仮眠ベッドの上だったの。
アタシの枕元にはさっき渡されたラピスラズリとローズクォーツがちゃんと置かれていたの。
もちろん砕けてない状態でね。
アタシ、ママに見たことを全て話したのよ。
そしたらね、ママがさっき起こったことを聞かせてくれたの。
エリカとママの除霊奮闘記 ②へ続く。
ご拝読ありがとうございました。
作者ゆ〜
皆様読んでくださりありがとうございます。
真太郎こと、エリカは本当に一途で、なんでも完璧にこなさないと気が済まない、その上、情に厚い、そんな人です。
さて、エリカは一体何を連れて帰ってきたのか。
エリカとママの除霊奮闘記 ②へ続きます。